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1章『純潔』 (5) 

 飛縁探偵事務所に、マサ、マヤ、サーシャ、そして棚井が集まっていた。

 事務所の時計は夜の20時にを示していた。


「情報をそれぞれまとめましょうか」


 マヤはそう言って、まずはサーシャのほうを見た。サーシャは頷き、口を開く。


「はい、まず事件の被害者ですが・・・。みな、殺害される前の様子がおかしかったようです。

 特に、彼氏である西園寺武絡みにおいて。殺害前は、みな、彼を想う気持ちが不自然に大きくなったと被害者周囲は指摘しています」


 それから・・・と、メイドは続ける。


「西園寺武が接触していた『龍恩院組』は、事件とは関わりがあるとは思えませんでした。

 彼らによると、西園寺武は、先月の17日の来訪を最後に姿を見せなくなったといいます」


 『先月の17日』という言葉に、マサは反応する。その様子をマヤが見逃さなかった。


「どうしたの? マサ」

「・・・いや、先月の17日か・・・。これを見てくれ」


 マサはスマートフォンの画面を3人に見せた。


「・・・これ、依頼人の三木川さんのブログなんだが」


 それまで毎日更新されていたブログであったが、先月の17日を最後に更新が途絶えていた。

 『明日、彼氏の家に遊びに行く』というタイトル以降の記事がない。


「これ本人に教えて貰ったブログ?」

「・・・いや」


 先ほど、友里と別れたサーシャとマサは、サーシャの運転する車によって事務所に戻ってきた。

(サーシャは駐車している車を見つける際に迷子になったらしい)


 車の中でマサは、スマートフォンの通話で、梨々絵に『三木川友里の体の傷』についての報告を行っていたのだ。すると彼女から、このブログについて教えて貰ったのだった。


『・・・じゃあ、間違いないね。このブログは三木川友里のものだ。君にURLを送っておくよ』


 ブログには、西園寺武についてのことや父親による暴力についても記されてあった。おまけに、プロフィールは神無市在住の『リリー』となっていた。


 『ユリ』を意味するそのハンドルネームから、間違いなく、三木川友里のブログであることを意味してあった。


 棚井は、何かに気づき、『おいおい』と声をあげる。


「先月の18日は3人目の田中早紀が殺害された日だ。

 その前日である17日を最後に、三木川のブログも西園寺武の姿も途絶えている。・・・やはり」


「・・・そう、私たちの確証は正しかったようね」


 マヤは脳裏に浮かべる犯人、三木川友里に姿を思い浮かべ、勝ち誇ったように言う。



「事件の謎はすべて私の手の中。もうお前は逃げられない」



 それは、亡き父であり前事務所長の口癖であり、今は飛縁真弥の口癖となっていた。




***********************************************************


 場所は、友里がマサに想いを伝えたあの公園。

 そこに現れるのは、二人の少年少女の影。公園内の時計は21時を少し過ぎていた。


 「悪いな、こんな時間に呼び出して」


 マサは、『やっぱり会って話し合おう』と友里にメールを送った。

 恋心を利用するようで気がひけたが、簡単に友里を公園に呼び出すことができた。


「・・・ううん、いいの。マサ君のためなら、なんだって私・・・」


「『そうやって』西園寺武に好かれたいがために、複数の女性を演じたのか?」


「え、なんのこと・・・?」


 困惑する友里は次の瞬間、身動きがとれなくなっていた。


「・・・!? なに・・・、離して」


 サーシャが友里を後ろから拘束していた。

 まるでハグをするように抱きしめる腕は強く、きらりと光るナイフが見えた。


「・・・犯人は分かっているのです。三木川友里・・・、いや、【魂転移(ソウルインポーター)】」


「ふふ・・・、バレちゃったかー」


 【魂転移(ソウルインポーター)】。本名不明の【吸血鬼(ヴァンパイア)】。

 その異名の通り、自分の意識を他人の体に乗り移ることができる【能力(エフェクト)】を持っている。


 しかし、その強力な【能力(エフェクト)】の副作用として、別の体に意識を転移するときに、それまで使っていた体はまるで抜け殻のような死体となって発見される。その副作用は、本来持つ【代償(コスト)】とは違う【能力(エフェクト)】のシステムではあるが、『殺害』を目的とする【能力(エフェクト)】ではないため、棚井の調査は難航したのだった。


 【能力(エフェクト)】ではなく【代償(コスト)】によって出来上がった死体として考えていたが、マヤやサーシャ、棚井の閃きにより、この真実にたどり着いたのだ。


 データベース上に存在されていた【吸血鬼(ヴァンパイア)】ではあったが、力自体は弱いほうの分類であり、今まで人と争うことも少ない『彼女』だったため、【能力(エフェクト)】の制限や発動の仕方が分からない。そこで、二人は慎重に『彼女』と対峙する必要がある。


「大人しくしてもらえますか? あなたは人に危害を加えた【吸血鬼(ヴァンパイア)】です。

 しかるべき機関に連行します」


「ふふふ・・・、はははは」


 サーシャの腕の中で友里は笑い声をあげる。その人を見下すような笑い方は、普段の友里の人物像からはかけ離れていた。


「何がおかしいんですか?」


「私は、西園寺武を愛していた。だから、彼の恋人である佐藤沙織の体を乗っ取った。

 ・・・だけど、私は、西園寺武が複数の女と関係を持っていたことも知ってたし、彼が佐藤沙織に飽きていたことにも勘付いた。だから、私は、西園寺武の『他の女』に乗り移った」


 友里は、おかしくて、おかしくて仕方のないように、こみ上げてくる笑いを抑えながら、自分の罪を認めた。


「新米警官であったけど、佐藤沙織の持つ監視カメラの情報は有難かったわ。

 簡単に次の女、・・・竹野真由子だっけ?・・・ま、どうでもいっか。その女に乗り移れたの。だけどね、やっぱり、武、竹野に飽き始めた。で、次の女、田中早紀に乗り移った」


 彼女の独白にマサは息を呑む。愛のためにここまで出来るのかと、恐怖に打ち震える。


「そして、武は田中早紀にも飽き始めていた。

 ・・・いいえ、彼が飽きはじめていたのは『私』なのよ。気づいちゃったの。

 彼は、『私が乗り移っってからその女に飽きてる』の。つまり、外見がどうであれ、中身が『私』だったら、『私』は彼の恋人を続けることはできないの」


 だから、・・・と『彼女』は続ける。


「だから、永遠に『私のもの』になるように【人形(ドール)】にさせたかったの。でも、失敗したの。分かるよね?」


 人間は、【吸血鬼(ヴァンパイア)】に血を吸われることによって、サーシャのような【人形(ドール)】になれる。しかし、【人形(ドール)】になれるのはほんの一握りなのだ。殆どは失敗作の【異形(クリーチャー)】・・・醜い化け物へと変貌する。


「・・・つまり、西園寺武はもう・・・」

「ええ。私はあんな化け物、もう愛せないわ。だって、彼、理性がないもの」


 マサは友里の返答にぞっとした。そんなに愛した人間を、化け物に変わっただけで簡単に手放すことができるのか。今まで捨てられてきた『彼女』が、今度は『捨てる側』になったのだ。


「マサ君言ったよね?『恋人』は自分が安心して帰れるところ・・・って、私はあんな化け物を帰る場所にしたくないの。

 ・・・ああ、西園寺武を襲ったときに、彼が部屋に連れ込んでいた女子高生に転移してこの体になったのよ。抜け殻の死体は、適当なところに捨てたわ」


 『明日、彼氏の家に遊びに行く』という友里の最後のブログをマサは思い出した。そして、あのブログが更新されないのは、単純に中身が『今までの友里』ではなくなったからだった。


 「私は、女子高生として生活することに決めたの」

 

そして・・・と、彼女はマサを見る。

その目は残酷な【吸血鬼(ヴァンパイア)】ではなく、年相応の恋をする少女の目であった。


「あなたが私の消しゴムを拾ってくれた日、私はあなたに運命を感じた。それから情報収集して、あなたが探偵事務所の人間であることも知った。そして、あなたに接触したのよ。依頼内容は、あなたに近づくためだけのもの。

 ・・・【吸血鬼(ヴァンパイア)】の関係者で、謎を解明されてしまったのは予想外だけど。

でも、もう終わり」

 

 再び、彼女は不快な笑い声を公園に響かせる。

「ふふふ・・・、私の【能力(エフェクト)】は結構、制限が厳しくてね。」


「まさか・・・、やめ」


 マサは静止の声をあげるが、彼女は暗唱の如く続ける。


「1つ目、対象は『メス』であること」

 彼女の声が静かに公園に響く。


「2つ目、【能力(エフェクト)】の再使用は20日後。・・・前は焦っちゃって失敗しちゃったなぁ」

もう、前回の被害者、田中早紀の死体発見から20日以上経過している。


「あ、大丈夫、今まで【吸血鬼(ヴァンパイア)】や【人形(ドール)】にも乗り移ったこともあるの。

 ・・・ま、そいつらが持っていた元の力は全部消えちゃったけど」


 乗り移った先の【吸血鬼(ヴァンパイア)】や【人形(ドール)】の【能力(エフェクト)】は引き継がれることはないらしい。・・・しかし、今はそれは問題ではない。


「で、発動条件は・・・」


 『彼女』は勝利を宣言した。




「対象に触れていること・・・、ふふ、残念だったわね、サーシャァァアア!!!!!!!!」


 

 しかし、


 その時は訪れなかった。


「・・・え?」


 サーシャに拘束されたまま、戸惑う『彼女』に今度はサーシャが勝ち誇る番であった。


「残念でしたね・・・、あなたは私に乗り移ることができない」


 マサも、安堵のため息を漏らす。

 彼も、『彼女』がサーシャに乗り移ることができないと知っていても、やはり、どこかで恐怖はあったのだ。


「うそ、なんで・・・、確かに、条件は満たしたはず」


 拘束されたままの『彼女』は、言葉と表情で困惑を示す。


「条件は、対象が『メス』であること、前回の【能力(エフェクト)】から20日以上経過してること、対象に触れていること・・・、全部満たしてるじゃない!」


「いえ、満たされてませんね」


 この場で初めてサーシャが笑い声を零す。




「私、『男』ですよ。残念でしたね」




「・・・は?」


 『彼女』の思考は一瞬、凍りつく。そこに追い討ちをかけるように、サーシャは続けた。


「私は、飛縁姉弟の【人形(ドール)】。【能力(エフェクト)】は、【瞬間移動(テレポート)】。

代償(コスト)】は、女装をすることです。どうぞ、以後、お見知りおきを」


 サーシャの声色には、本来の性別を感じさせる要素など、どこにもなかった。

2019日3日3日 初公開。

寝落ちにより、目標時間オーバー。寝てないから毎日更新理論。

遅れるなどの報告→ツイッター:@kuroi_sumura


感想、ブックマーク、ありがとうございます!!ついにサーシャの秘密が明かされました。

疑問点やおかしいところがあれば修正します。


次回更新目標:3日24時半

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