茶色さんの恋
「ねぇ、茶色さん。愛してるわ。」
リリーは俺のことを、茶色さん、ブラウニーと名づけた人だ。
きっと俺の長い茶髭を見て名づけたのだろう。安直だが、悪くない。
そんなリリーは白い肌とあんまり輝くものだから日を浴びると白く見える金髪を持っている。
お揃いなのは空色の瞳だけだ。
小さくて太っちょな醜い俺とリリーが釣り合う要素は0だ。
だけど、俺たちはいつも一緒にいる。
なぜかって?さあ、なぜだろうな。
わからんが、検討はつく。
俺の予想はこうだ。まあ、聞いていけ。
俺は今はリリーの家で使用人をしているが、前はギャングを手伝っていた。
盗み、暴力、殺し……何でもやった。なんてたって、ギャングだからな。いくら妖精たって、そうファンタジックにゃなれねえのさ。
まあ、なんだ。そこでな。俺は人を殺した。
罪悪感なんてのはなかった。今はあるさ。
俺に気づかず歩いてて、俺につまずいた野郎にゃちゃんと謝るさ。
え、それは謝る必要がない?難しいな、罪悪感ってのは。
まあそういうことで、団のためなら何人でも殺した。
そん中にな、いたのよ。まあその、リリーの恋人が。
正義感の強い警官だった。
それは邪魔だったよ。優秀だったからな。
リリーはあんななりだ。周りにゃあれこれされちまう。虐げられるつぅのはそう珍しいことじゃねえ。そんなリリーを守ってやってたのがその男だな。
幼なじみらしくてよ。
昔からでしゃばり、じゃねえや正義感が強かったからよ、誰かがリリーをいじめようもんなら、身を呈して守ってやってた。
そいつが突然死んだんだ。
リリーの心に開いた穴のサイズなんて、俺の背丈じゃ足りねぇ。
俺は知らなかったんだ。誰かがいなくなりゃ、誰かが悲しむっつうことを。
俺はある日たまたま、リリーの家の前を通りかかった。
門つきの大邸宅。
こりゃ何か金目のものがあるだろうと思って、こっそり忍び入った。
残念ながら金目のものはほぼなかったが、代わりに俺にゃ聞こえた。リリーの細い泣き声が。
水の音ひとつしなかったから無人だと思っていたのに。
俺は好奇心にかられて音がした方へと足を進めた。
目が、合っちまった。
リリーが微笑む。
その一部始終を見て、俺は逃げられなくなった。
「おいで。」
リリーは俺にそう言った。
掲げた手は真っ白で、骨が浮いている。笑顔もおせじにも上手いとは言えない。
そんなリリーは俺を膝の上に乗せ、静かに恋人との思い出を語りだした。
話を聞けば聞くほど思い知らされる。
ああ、そいつは俺が殺した、あの警官だ。
この女がこんなに苦しむほどのことを俺はしたんだ、と思ったよ。
俺はギャングと手を切った。
そして再びリリーの屋敷を訪れた。
お手伝いを募集してませんか、ってな。
リリーは喜んで俺を受け入れてくれた。
それからだよ。お互い絶対好きになるわけないくせに、恋人まがいの生活をし始めたのは。
リリーは時々こういう。
「私を1人にしないでね。茶色さん。
私を好きでいてくれるのはあなただけよ。
愛してるわ。」
俺はいつも、罪悪感のせいで嘘をつく。
「ああ。離しゃしないよ。
愛してる。」
そしてまた新しい罪悪感をこさえるのさ。
本当にリリーのことが好きなやつなんて、もうこの世にいないのにな。




