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もし、もし  作者: 龍
1/3

1.白線

 自分の真面目さが、嫌いだ。

 くたびれたクツが薄れた白線をなぞるように進む。

 転校して一週間。初めての目の前で繰り広げられるイジメに我慢が出来なかった。

 気づいた時には飛び出して、昨日自己紹介し合ったばかり賢吾の頬を殴り飛ばしていた。

 当たり前だが、次の日の朝にはみんなが持つ自己防衛ルールにのっとって、おはようは返ってこなくなった。

 仲良くなりかけた幹大(かんた)も、委員長の伸二(しんじ)も、近所に住む新井(あらい)さんさえも、僕を世界から消し去った。

「おはよう」も、「あのね」も制服についたチョークの粉みたいにはたいて外に締め出された。

 そうなってから初めて自分は失敗したとひどく痛感した。この中学校という場所には、タヌキみたいな校長が垂れ流す正義よりも、みんなが持つ暗黙のルールしか通用しない。

 自己防衛以外の生徒は嫌がらせを始めた。持ち物はなくなり、靴はゴミ箱へ。一部の人間はどうしても僕だけに足が引っかかるらしい。

 新任の女教師は頑としてこれを認めず、「仲良しなクラス」という幻想に溺れていた。

 これでもかと真っ白な白線の上を落ちないように進む。無限に広がる白線をたどっていけば、いつか家にたどり着けるのだろうか。いろんな方向に曲がって切れる白線をときどき外れてズルをしながら帰る。

 こんなところだけズルできるところを見ると僕の正義なんて案外ちっぽけなものだ。

 僕の正義って融通が利かなくて、頑固で、問題児。この白線みたいに細く切り取ってごつごつのアスファルトの上にでも捨ててやろうか。

 たぶん、車や人にここから出るなよーって、ずっと一人で誰にも気づかれずに叫び続けて、踏まれて、雨に殴られて、ゆっくりと消えいっちゃうんだろうな。消えても何にも変わらなくて、いろんな人がその上を踏むんだろうな。

 ばかばかしいや。でもそれが僕だなんて、もっとばかばかしい。

 できるだけ白線が消えるように靴底でこすって帰った。


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