終わり始めのプロローグ
この世界は、嘘をついている。
私はそれを暴きたくて、変えたくて、必死にもがくけれど。
そのために、いろいろなものを捨ててきたけれど。
「っ!!」
失敗した。ここまでの犠牲を以ってしても、私の、私たちの願いは、聞き届けられなかった。
ああ、もう体の感覚が薄くなって来た。痛みさえ等しく消えていくのが、せめてもの救いだろうか。
「あー、あ」
一番そばにいて欲しい人たちは、側にいてくれない。寂しい。悲しい。悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて仕方ない。
「うああっ!!」
それは、一瞬。
気を張り続けて来た体が、もう限界だと叫ぶように、膝が折れた。その一瞬を、彼らは逃さない。
瞬く閃光は体を貫き、溢れ出す暖かい血が、それを致命傷だと物語っていた。
「…………どうしてだ?どうして、君がそんな行動を起こす?」
黒いローブをまとったそれらは、この世界には存在しないはずの、『魔術師』という存在。
その中の一人は、少しの感傷を含んだ声をかけつつ、私の喉元に死を突きつけて来る。
ああ、そうか、私、殺されるんだ。
この人たちに、殺されてしまうんだ。
目の前に立つ、黒いローブを着た集団は、じりじりと私に詰め寄ってくる。
助け————は、来ないだろう。いいや、来ることなど、私が許さない。
それに、誰もいない深夜の住宅街で、私に気づいてくれる人はいない。そもそも目撃者が出るようなヘマはしないだろう。そういう連中だ、こいつらは。
『————ごめんね……っ!』
…………ああ、泣かないで、双葉。
『————頑張りなさい』
…………茜先輩、無茶言わないでよ。
『————先輩ならできますよ』
…………無責任なこと言うな、空。
頑張った、たった一人で、平和だったあの部屋を、幸せだった時間を取り戻すために頑張ったんだよ?
汚いこともした。嘘も、数え切れないくらいについた。いいや、私の存在そのものが嘘だった。
でも、それでも歩みを止めなかった。信じていた。その先に、希望があるって、信じていたからだ。
全部。全部全部全部全部全部、全部、私は裏切って。
そして最後に、こんなところで、仲間が命がけでくれた信頼まで、裏切ろうとしている。
ああ、こんなに頑張って、苦しんで、それでも届かなかったんだから、しょうがないじゃないのか?
努力だけじゃ、想いの強さだけじゃ、どうにもならないことってたくさんあるんだから。
『————待ってる、優香!!』
…………馬鹿。本当に本当に、馬鹿野郎。
待ってるなんて、言うな。私に、後悔を残させるな。
「いつだって、あなたは無責任だよ……っ!!」
「何?」
魔術師は驚いている。それもそのはずだ。私は致命傷を負ったのだから、一歩たりとも動けるはずがないのだ。
それでも、立ち上がった。
立った。立ったのなら、まだ終わっていない。
足を踏み出せば歩ける。足を蹴り出せば走れる。
なら、ならば私は————
「————終焉、破壊の王。血肉は黒鉄と成り、打たれ焦がれ、真紅とならん」
「なんだその詠唱は。魔術師の真似事か?」
「いいや、違う。これは、私の力さ」
「……何?」
この身は魔術師ではない。血に選ばれない者が魔術を使うということが、どれほど危険なことか。それを知っているからこそ、彼らは私が魔術を使うだなんて信じない。
視界が揺れる。
「因果、反転。私は世界を……」
「っ!?」
「この詠唱……?まさかっ!?」
最後に、光を見た。
あの景色を。みんなで、くだらないゲームを作って笑いあえていた、あの頃を。
偽物なんかじゃない、あの時間を。
「————拒絶する!!!!」




