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悲しき恋の記憶 始まり

作者: daishin
掲載日:2017/02/11

 これは俺の記憶である。

 俺はもうすぐ死ぬ。誰かに殺されるのではない。自ら死ぬのだ。

 恐怖はなかった。今の俺は黒だった。光の通る隙間のない漆黒だった。

 色々なものがなくなって、ここにいる俺に意味などなかった。

 ただそれでも俺は俺を残して置きたかった。それをどう感じるかはそれぞれだが、大半は俺を罪深きものと見るだろう。

 それは正しい。

 だけど、これは俺の勝手な考えかもしれないが、共感する者もいると思う。

 だから1つの悪い見本だと思って欲しい。

 恋は盲目だと客観的に眺めて欲しい。恋とは甘い蜜のようなものだが、その棘はすべて串刺しにするということを。

 だけど俺はすべてを語らない。深く後悔していながら思い出したくなかった。つまり俺はそういうやつだということだ。だからこの物語の導入だけを話そうと思う。

 まだ完全な黒だはなかったが、濁り始めたその時の話を――




 その日は夏休みに入ってすぐのことだった。俺、黒凪(くろなぎ)大翔(ひろと)はいつもならバスケットボール部に入っているので部活があるが今日は休みだった。休日はだいたいゲームをするか本を読んでいるがその日は違った。今日は隣に住んでいる幼なじみの女の子と買い物に行くことになっている。といっても別に彼女というわけでもなく、ただ荷物持ちをするためにたまに呼ばれる。彼女には色々お世話になっているし、嫌なわけではなかった。

 朝食を食べながらテレビをつけて天気予報を確認する。もう夏なので気温が高い。明日のクラブは地獄だなと蒸し暑い体育館を想像する。洗濯や掃除を早々に終わらして準備をする。デートというわけではないが、女の子と出かけるのだから、身だしなみには気をつける。

 誰もいない家を出る。鍵はしっかりかけて、隣の家に向かいインターフォンを鳴らす。しばらくして慌ただしい音と共にドアが開く。


「遅れてごめんね」


そういって出てきた女の子は幼なじみの白咲(しらさき)(あおい)だ。優花は腰まである黒い髪のロングヘアーで、顔も整っていて、薄い桜色の唇は誰をも魅了する。白色とピンクで統一された夏らしい服装はよく似合っていた。


「おはよう、それと別に遅れてないよ」


 簡単な挨拶をして、蒼とショッピングモールに向かう。駅で電車に乗らないといけないが、蒼と道中他愛のない話をしていたのでそんなに長く感じなかった。俺にはその他愛ない話がとても楽しかったのだ。


 ショッピングモールはたぶんこの辺りで一番大きいので多くの人で賑わっていた。


 女性の買い物は長い。蒼の買い物に付き合って、店の前で座って待っていると、


「やあやあお二人さん、今日も仲睦まじいことことで」


 声がした方向には俺の親友の中村(なかむら)宗介(そうすけ)が立っていた。面倒くさいのが来たと思いながら、


「なにかようか、宗介?」


と聞く。宗介とはクラブも同じで学校でよく話している。俗に言う友達というやつだ。するとニヤニヤしながら、


「いや別に、デート中邪魔して悪かったな」

「これがそんなことじゃないって分かってて言ってんだろ」

「もちろん。大翔がそんなことするわけないじゃないか」


 こんなことを毎度飽きずに茶々入れてくるのが宗介だ。悪いやつではないんだが。


「お前がそんなことができるなら今頃告って振られたショックで泣いているか、喜びに浸っているかのどっちかだろ。このままだといつか取られるぞ」


 宗介が笑いながら言う。顔は笑っているが声は笑っていない。


「そうかもな......」


 俺は少し考えて言った。言葉が詰まった。すると宗介は、


「やっぱりお前...」


と言い出した。(この時の俺は宗介がなにか忠告しようとしたことはわかったが、この続きに来るであろう言葉がわからなかった。今になって思えば、この続きは容易に想像できた。きっと宗介は俺が壊れかけていると言いたかったのだと思う。)


 でも続きはない。宗介は俺のことを俺以上に知っている。他人の心情を本人よりも知りたがる。そういうやつだ。


 蒼が戻って来た。


「あっ、こんにちは、中村くん」

「こんにちは白咲さん。じゃあ僕はいくよ」


 宗介はそう言ってどこかに行ってしまった。忙しいやつだ。


「中村くんと何話してたの?」


 蒼が聞いてきたので


「うーん、忠告かな? それより早く行くぞ」


 俺はそう言って蒼の荷物を持って歩く。俺は宗介の言葉を重要視できなかった。後ろで蒼が「忠告?」と首をかしげているが気づかないふりをして歩く。

 

 結局ショッピングモールを出たのは5時ぐらいだった。


『このままだといつか取られるぞ』


 さっきの宗介の話が頭に浮かんだ。わかっている、そんなこと。そう俺はは小学生の時から現在までずっと蒼が好きだった。本当に好きだった。でも告白する勇気もなく、そのままズルズルと引き延ばしていた。ただ今の関係を維持したかった。もし拒絶されたら俺は生きていける自信がなかった。それぐらい好きだった。それでも早くしないとという焦りを感じながら、これでいいんだといつも自分を言い聞かせてきた。


 夕日は建物の間を縫って地面にオレンジの光を差している。周りに人の気配はなく、静まりかえっている。映画のワンシーンのようだった。


 そして突然俺は強い焦燥感に駆られた。なにかに操られるように俺の口は動いた。この機を逃せばチャンスはもうないように感じられたのだ。


「あ、あの蒼......」


 俺がそう言おうとした時、違和感に気づく。蒼の下の地面に半径一メートルほどの円ができ、読めない文字らしきものや幾何学的な模様が浮かび上がり光りだす。本能は全霊をもって俺を警告した。


「蒼!」


 俺はそう叫んだが、蒼が気づいたときにはもう手遅れだった。俺は無我夢中でその光の中に飛び込んだが、蒼に触れることはできなかった。目の前が真っ暗になった。



 尻に冷たい感覚と衝撃を受けて地面に落ちる。やっと顔を上げて見回すと辺りは木で覆われていた。木が所々に立っていて、木の葉が上を覆っているので薄暗く視界が悪い。しばらく放心してから、急いでもう一人の被害者の幼なじみが少し離れた所横に倒れているのに気づく。

 彼女を揺らして起こすと彼女もまた俺と同じように目を丸くして驚く。


「ねえ、ここどこ......?」


 不安げに聞いてくるが、わからない、としか俺は答えられなかった。しばらく沈黙して、


「とりあえず移動するか」


 気まずくなってそう提案する。彼女は首を縦に振って頷く。


「行くぞ」


 正直内面不安しかないが、ここは男として意地を張る。最初、体が強張って汗が薄っすらとできるぐらい緊張していたが、しばらく歩いているとその緊張は解れてきて会話が生まれた。


「本当に木しかないな。ここ森のだいぶ奥か」

「どこかに人がいたらいいのにね」


 さっきから適当に真っ直ぐ進んでいるがただ木が生えているだけでまったく同じ景色だ。蒼を守るという憧れていたことをしているのだ。この時、何も知らない俺は絶望的な状況下を確かに楽しんでいた。


しかしちょっとして、

 

「あれっ」

「どうしたの?」

「今さっき生き物がいたような――」


 そう確かにいま俺は生き物をみた。生き物が動いていたのでよく見えなかったが。

 すると近くで何かにぶつかる音を聞いて、


「ちょっと待って!」


 一旦止まって周りを見渡す。音はだんだんと近づいてきているが、反響して聞こえる方向がわからない。

 さらに近づいてきて、やっとその音が木の倒れる音だと気づいた時にはもう遅かった。そこにはイノシシのような生き物がいた。

 本能的にやばいと思った。だから彼女に向かって全力で叫んだ。


「逃げろ!」


 彼女もそれに気づき逃げようとする。だが目の前の生き物を見てから、足の震えが止まらない。俺もさっきから恐怖で足が動かない。それでも無理矢理体に鞭を打って、彼女の手を握って走る。たぶん足はガクガクでほとんど進んでいない。でも少しでも逃げようとする。


 そのイノシシのような生き物が本物のイノシシでないことはすぐにわかった。だって――どう見ても大きすぎるもん――例えるなら大型の車だ。ちなみに追ってくる速さも車並に出ているのではないかと思うほど速い。大分距離が空いていたはずなのに、もう、すぐ後ろに来ている。

 さらに悪い事に、ここはかなり足場が悪い。ゴツゴツしていて、たまにぬかるんでいるところもある。足場と緊張感の所為でものすごく疲れる。こっちは凸凹の走りにくい地面、木が迷路のように生えているところを通っているのに、向こうはお構いなしに突進してくる。後ろを見ると通った道がどうなっているかほんの少し気になったが、振り向いたら追いつかれそうな気の方が大きかったので黙々と足を動かす。

 

 確実にこのままだと駄目だと思い最後の力を振り絞って、横に見えた草むらに彼女ごとジャンプした。イノシシはそのまま直進していった。どうやら上手くいったようだ。安心すると途端に体が披露で体が動かなくなった。とりあえずその辺の木にもたれ掛かった。

 とりあえず息を整えながら空を見上げる。実際には木の葉が邪魔でなにも見えないけど。彼女も限界のようで何を言うでもなく休んでいる。


 だが、すぐに脅威はやってくる。


 休憩していると、急に何かが飛んできて、俺の足をかすって止まった。それを見て体に緊張が走る。飛んできたのは矢だった。足からは血が流れていた。もし外れていなかったら今ので死んでいただろう。未だに休憩を求めている体に活を入れて動こうとするが足が動かない。殺されるかもしれない、そんな感情をさっきまでより鮮明に感じた俺は体を拘束されたように動けなくなった。


 矢が向かってきた方向に顔を向けると緑と黒を合わせたような深緑色のゴツゴツした体つきの生き物が姿を見せた。人型だが背は俺の腰ぐらいしかない。四体いて、一体は弓と矢を持っており、残りはナイフのような刃物を持っている。獲物が動けなくなったのを見計らって出てきたのだろう。額の汗が頬を伝う。絶体絶命というやつだ。体から次々よ流れ出る汗は風に当って冷たい。


 この状況でも俺は蒼を忘れることはできなかった。彼女の安否を確かめてほっとする。だけどピンチなのには変わりはない。

 その緑の生物はゆっくり近づいてくる。感情のようなものは読み取れなかったが、嘲るように俺の命を狩りに来る死神のように見える。

 無駄だとわかっていても、せめて彼女だけでも守らなければと、彼女の前に出る。

 彼女はうずくまって、恐怖で震えている。

俺は今まで神様がいるとは思ったことはないが、初めて神様に向かって祈った。


――彼女だけでも助けて下さい――


そんなことしかできない自分が不甲斐なく情けなかった。


俺の願いなどどこ吹く風だというように、前にいる生き物は確実に近づいてくる。


もう後一メートルほどになった。この時俺は諦めていた。俺の力ではなにもできないと悟っていた。


 その時だ、そいつと始めて会ったのは。


そう――俺達の後ろから火の玉が飛んできたのだ。緑色の生き物は驚いて逃げていく。

それを逃がさないというように火の玉は追いかけて、緑色の生き物を焼いた。緑色の生き物は立ち上がろうとして少し動いたが、その後動くことはなかった。


呆然とする俺達の後ろにいたのは、俺たちと同じくらいの歳の少年だった。金髪の短い整えられた髪で、騎士が着ていそうな日本では絶対に見ることはないような鎧を纏っていた。さらに男の俺でも一目でイケメンだと思った整った顔。その腰にはゲームで勇者が持っていそうなかっこいい剣。


「大丈夫か?」


彼が初めて俺達に掛けた声はそれだった。透き通った綺麗な声だった。楽器を奏でるように心に染み込んできた。そう言いながら、彼は俺の近くにいた彼女に手をとって立たせた。


「あの......ありがとうございます」


蒼は本心からそう思ったのだろう。緊張や恐怖から解き放たれた彼女の声は喜に満ちていた。


彼女は気づいていないようだったが、この時俺は最愛の人が恋に落ちる場面を目撃してしまった。

同時に俺の深くにあった歯車は狂った。


 俺はこの男に強力な拒否反応を感じた。そしてこの時僅かに内に影を得た。

彼は同じことを俺に言ったので、一言「大丈夫」と答えて自分で立った。足はまだかなり痛かったが、ここで彼の力を借りたら負けだと思った。勝負なんかにはならないとどこかで知りながら。


「こっちから大きい道に出られる」


 彼はそう言って歩いていく。彼女は彼に近づいてなにか楽しそうに話している。

その離れていく背中を見ていることしか出来ない俺は離れすぎないようについていく。そんなに長くは無い時間だったが、居心地は最悪だった。

変な生き物と一回も出会わずとすんなり広い道に出てしまった。道といっても整備もなにもされていない凸凹な地面だが、そこには草が生えていなかったから道だと思った。道中に随分仲がよくなったのか、さっきからずっと話している。


 その道に何かが止まっているのが見えた。目を凝らしてよく見ると、馬車だった。

 その瞬間浮かんだのは――ここは異世界だ――ということだった。


 そうでなければ化物イノシシやあんな緑色の生き物に襲われるなんてありえない。もちろん他にも可能性はあったかもしれないが、その時は考えられなかった。

 とても重要なことだったが、俺にとってはどうでもいいことに感じられた。


 その馬車の周りに鎧で完全武装状態の騎士らしき人がこっちに気づいて来た。


「ご無事ですか」


 その騎士の男は頭を下げて言う。


「大丈夫だ。それより客人がいる」


 そう言って俺達をここまで連れてきた彼は騎士に俺達を紹介する。


「白咲蒼です」

「黒凪大翔です」


 それぞれ一言言って、一応お辞儀をする。


「彼らに事情を話すために城に行く。」


 騎士にそう言って、俺達に馬車に乗るように促した。蒼が馬車に乗ったので、俺に選択権はなかった。

 馬車の中は意外と広かった。たぶん六人ぐらい座れる。ほかにも騎士はいたようで、馬車の横で別の馬に乗っていた。

 俺達が座ると彼は俺を見て自己紹介を始めた。


「俺の名前はアルフ。勇者だ。蒼さんのことは聞いたけど、君は初めてだね。」


 彼はそう言って俺に手を差し出した。



 

 これが俺とアルフが始めて出会った時のことだ。ここで1つ付け加えるならアルフはとてもいいやつだと言っておこう。

 これから俺は愛という海に溺れていくことになる。もしくは恋という名の炎に身を焦がすことになる。

 もし俺がここでその前兆を少しでも感じる余裕があれば、結末は変わったかもしれない。それぐらいの良心は持っていると自負していた。

 そして少しずつ、だけど確実に黒に近づいていくことになる。

 繰り返すがこれはまだ始まりだ。まだ小さな種火かもしれないが、この火種が俺の人生を燃やし尽くした。

 始まりでしかなくとも続きは容易に想像できるだろう。


 さて、俺はもう行こう。もし出会った時は続きを話そう。

 願わくば、第2の俺が生まれることのないように――

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