守衛としての役目 その3
「この者達とは――もしやこの賊、のことでしょうか?」
一瞬、地主の瞳に剣呑な光りが宿る。
救済措置を言って後悔をしているわけではないが、こういう頑なな態度を取られると心に来るものがある。
「その通りです」
「……なぜそのようなことを仰るのでしょう。この者達は村を襲いました。あやうく村が危険な目に合いそうになったのですよ」
「まったくその通りなのですが――話を聞いていますと同情の余地がありそうでしたので。彼らも決して本意ではなかったようですし」
「この惨状をみてもですか?」
地主は両手を扇状に広げると村人達を指し示した。村人のなかには土や血にまみれ、憔悴さえしている者もいる。
「……あなた型のお怒り、私としても理解できます。ただ――いえ、すみません。私がこれからこの者達に起きることから目をそらしたかっただけです。出過ぎた真似をして申しわけありませんでした」
(やはり無理があるか)
馬鹿げた発言をしたとは自覚している。浅いとはいえこの村の被害を考えれば、この賊達のしたことはとうてい許せることではないだろう。
だからこれは和泉個人のわがままなのだ。
「あの……」
どこからか声がした。いつからか村人の一人が手を上げている。
「……どうした?」
静かな怒りもあるからか、地主の目がその村人を射貫く。
「私達家族からもお願いしたいのですが、どうかその人達の処置を優しいものにして頂けないでしょうか?」
「何だと?」
「勘違いなさらないでください。私もその賊達がしたことは許せ満船。ですが――他ならない和泉様のお頼みですから」
「どういう意味だ」
「私達は和泉様を支持しています。といいますのも、和泉様がこの村に赴任してきてから、この村の雰囲気は温かくなりました。私達にはその空気が愛おしいのです。賊のせいでせっかくの、その空気をこわしたくないのです。だからどうか……」
「…………」
意外なところからの援護だった。
これにはさすがに地主も閉口したらしい。
同時に様子を窺っていた村人達もざわざわと騒ぎ始める。
「確かに和泉様がきてから村が穏やかに……」
「私達にも優しく接してくれますし」
「暴力は暴力しかうまないからな」
それは和泉への追い風だった。まさかこんな話の流れになるとは想像もしていなかっただけに、安心もひとしおだった。
(とりあえず支持してくれる人達もいて助かった)
賊の救済を口にしたときは、さすがに出過ぎた真似をしてしまい村の空気を悪くしたとも思ったが、事なきを得てよかった。
「和泉様には頭が上がりませんね」
地主は疲れ混じりの吐息を吐き出した。
「ひとまず村の者達と相談して決めることにします。和泉様のご提案を参考にして。おそらく賊達には害のないような結果になるでしょう」
「……ありがたいお言葉を」
和泉は胸をなで下ろした。
口にしてよかった。
血なまぐさい光景やギスギスした空気はごめんだった。それよりは平和な方がずっといい。
「――とりあえず戻りましょうか。荒事をしたゆえお疲れでしょうし」
「ご寛恕ありがとうございます」
「では」
地主がそう言うや、つられたように村人達が村のなかにもどっていく。
和泉はその光景を見届けると、自分もと彼らにならって歩き出した――まではよかったのだが、突如、目の前に一人の少女のシルエットが現われた。
それもいつの間にか。