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君が望んだ友愛  作者: 長谷川名雪
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守衛としての役目 その2

「お、お……ぉっ」

 村人の静かなどよめきが走る。敵を倒した当初こそは無音であったが、賊の脅威が去りゆくのを村人達が認識しているのか、次第にどよめきの声が大きくなる。それはいつしか歓声へと変わっていった。

「やったのか……?」

「……あの人」

「これで村が襲われなくて……済む?」

 村人の疑問はやがて確信へと変わっていく。ささくれだった声音からは棘が抜け、そこに優しげな音色が混じっていく。

(よかった)

 任務としても共に飯を食べたりする仲の人達が、かつての穏やかさを取り戻し、とりあえずはほっとした。

 とはいえ、これで戦闘が終わったわけではなく、色々と後始末をしなくてはならないから本番はこれからだろうか。まだまだ気を抜けない。

「さすが……です。自分はお役に立てなかったのに……」

 地面に倒れ伏した、兵士の顔に冷たい影が落ちる。

「そんなことはない。お前がここで持ちこたえてくれたから、私はここにこれたんだ。村の人達とともによくやってくれた」

「なんてありがたいお言葉。自分は……こんなみっともない姿をさらしているのに……」

「馬鹿もの。強さと自身は背負った敗北や怪我からもついてくるんだ。むしろこれからだろ。今は周り、できれば私を頼ってくれてもいいんだ」

「もったいないお言葉……」

 兵士の瞳からぽろぽろと涙が流れていく。

(いいんだ、今はそれで)

 彼は何も努力をしてこなかったわけではない。

 一生懸命努力をして今の地位にいるのだ。育てる人材といっても、数いるなかからこの男が選ばれたのだ。初めから完璧にこなせるのが一番かもしれないが、徐々にできるようになっていけばいい。

 今はただ、この男が生き延びてくれたのが幸いだった。

「う……あぁ……っ」

 他の倒れている男達といえば、人の手をかりて村の中に運ばれたりしている。

 女子供は何もできなかった無力感を噛み締めているのか、顔を泣きはらしているものさえいる。

 前線で戦った男達は手厚い看護を受けることだろう。

 不幸中の幸いなのは致命傷を負っている人間がいないことだろう。この分だと日常生活には支障が出なさそうだ。

「いや、本当にありがとうございました。この度はあんといったらいいのか……」

 地主は頭をさげた。

「いえ、当然のことをしたまでです。これも任務ですから」

「あなたがいてくれて助かりました。村を代表して感謝いたします」

「そこまで畏まらなくても――あ、そうだ。では少しよろしいでしょうか?」

「私でよければ何なりと」

「この賊達についてはどうするのでしょうか?」

「この者達でしょうか?」

 地主はチラッと倒れてる賊達をみた。

「もちろん処罰をくだしますよ。こちらに敵意をむけてきたようなものですからね」

(やはりそうだよな)

 この者達は村を襲った賊なのだから当然といえば当然なのだろう。罰を下されても仕方がない。

 ただそれでは価値観があわないというか――。

「それだけは止めてくれ……」

 賊はさっきまで威勢が嘘のように弱々しくなり、言葉が尻すぼみになっていく。

「意識があったのか」

 和泉の時とは打って変わり、地主は高圧的な視線を賊に送った。

 賊は明らかに萎縮する。

「お、俺達も悪かったから……」

「無理な相談だ。私達の村にここまでのことをしてくれたんだ。許せるわけがないだろう」

「いや、いやいや待ってくれ! これにはわけがあって……っ!?」

 聞けば賊達はもとはただの村人だったらしい。

 皮肉というか何というか、この人達の村は本物の賊に襲われ、食料をほとんど持って行かれたらしい。初めはそれでも我慢していたが、飢えには敵わなかったらしく、こうして賊のような好意に走ったのだそうだ。本物の賊が食料を奪っていったように、この人達もこの村を襲って食料を奪おうとして。

「それはお前達の事情だ。やられたこっちは堪ったものではない」

「そんな…‥」

 ボロボロになった賊は力を失い、意気消沈とする。そこにはもはや生命力が見受けられなかった。

(見てられないな。こういうのが甘いのかもしれないが)

 未遂とはいえ賊のような行為を働いたこの者達は、この村の人達からすれば許せないだろう。ただこういうギスギスした現場に居合わせるのはきついものがあって。

 その上、賊の話を聞いて彼らに同情している自分もいるのだ。さて、どうしたものだろうか。

「あの、お話を遮って申し訳ありませんが――」

 ふと、言いかけたところで止めた。

 これから言おうとしていることは、この村の人達の逆鱗に触れるかもしれない。そう思うと発言をするのにも二の足を踏んでしまう。

「どうかされましたか?」

 と、地主が和泉の顔を覗き込んでくる。

「あ――、いえ、やはり何でもないです」

「何かありましたらお気軽に仰ってください。あなたはこの村を救ってくださってのですから」

「といわれましても……」

 和泉は空いている左指で首筋をかいた。

「もしかして遠慮をされているのでしょうか? だとしたらとんでもないです。こちらのことでしたらお気になさらず」

 友好的な笑顔を浮かべる地主。

(これは引き下がれないな)

 こちらの思いつきでうっかり話題を提供してしまった。

 パートナーともいえる村の人にここまでいわせて、今更口をつぐむというのも失礼だろう。それにどちらかといえば、和泉は賊の件を穏便にすませたい。このままだと彼らは村の人達から酷い目にあわされるかもしれない。

 個人のわがままかもしれないが、人がつらい目に合うというのは見ていられない。

「――では単刀直入に申し上げます。この者達に寛大な処置をして頂けないでしょうか?」

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