プロローグ
今回、お国から田舎にいくように命じられた。
依頼の内容といえば、とある村の護衛である。
聞くところによればべつに難しい任務でもないらしく、たまにやってくる賊の類いから村を守ればいいとのことだった。
(たまにはいいのかもな)
和泉はそれまで都会の守衛をまかされていたが、この度、初めて田舎にいくことになった。とくに左遷というわけではないらしい。
日頃から剣や弓の鍛錬をかかさなかった賜物か、和泉は武芸者として上からの信任が厚いらしく、また光栄でもあった。貴族から理由をきいたところによると、今回の任務は新人の育成という側面もあるらしい。
まだ経験のあさい兵士を危険度の低い場所に送り込んでそだてるという目的が。どうやら和泉はそのサポート役に命じられたようなのだ。
(田舎、か……)
この危険というか管理されてご時世、上はそれなりに能力値の高い武者を抱えておかないとマズいこともある。
田舎ではときおり小競り合いが起こるし、各国の間では戦のにらみ合いがあったりして、物騒なこときわまりない。
お国の役にたつことを願って、武芸や勉学にもそれなりに励んできたつもりだったが、都会にいると神経のすり減ることばかりで、たまには静かな場所で過ごしてみたいとちょうど思っていたところだった。
これはもしかしたら、休んでもいい、そんな天の恵みなのかもしれない。
誤解をまね表現があったかもしれないが、都会がきらいというわけではない。金回りのいい仕事はたくさんあるし、食生活も豪華で、望みさえすれば貴重な真珠などの装飾具も手にはいる。
なんと華やかな町だ。
商人たちがそこかしこに店をたて威勢のいいかけ声とともに客を呼んだり、一歩あるけばうつくしい女たちもその辺にたくさんいるぐらいだ。
ただ残念なことに、和泉はこのにぎやかな町の空気が、最近いきぐるしかったりする。とくになにかがあったというわけではないが、なんというか、この都会特有の人間の欲望がうずまく空気感に息がつまりそうなのだ。
権力、金、女。
そういう人間を多くみてきたためか、明るくてぎらついた空気を吸っていると窮屈になるのだ。
和泉は人の黒い欲望をみたすためだけに、武芸や勉学に励んできたわけではない。
子供のころは楽だった。
ただひたすら純粋に、お国のためにと必死に活動ができたのだから。
(嘆いてばかりいても仕方ないか)
今回のことはちょっとした気の迷いだ。これまでだって人の身勝手な欲望に気落ちすることは度々あった。少しガス抜きをすれば、また気分も上向きになるだろう。
和泉は、そう思って今回の依頼を引き受けるつもりだった。
運命の皮肉というか、この時の和泉は信じられただろうか、この度の任務が自分の未来を左右することになるとは。
なまじ、田舎の村であの少女にであったばかりに――