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エピローグ
僕は今、懐かしい道をゆったりと歩いている。その道には今までの湊との思い出が鮮明に刻み込まれていた。
僕はその一つ一つを‘彼’に話して聞かせた。‘彼’は柔らかい表情で、じっくりと僕の話に耳を傾けてくれている。
湊との約束の場所は近い。桜並木を通り抜けて信号を一つ渡ったところ、はっきりとその場所が見えた。
信号が青になった瞬間僕は走り出した。目の前の扉を開けて、息を整える。
「……いらっしゃいませ」
聞き覚えのある優しい声が耳に届いた。見上げると、見慣れた栗色の髪がカウンター越しに覗いていた。今はすっかり短めにカットされているけれど、間違いない。
遅れて、‘彼’が入ってきた。
僕は‘彼’の手をギュッと握る。
「ねえ、あの日の約束、覚えてる?」
何年ぶりかに見るその目が、まん丸に開かれた。
「……おかえり、千広」
「ただいま、……湊」