プロローグ
僕、こと立川千広には高校に入って最初にできた一番の親友がいる。名前は桜井湊、今住んでる学生寮の同室者でもある。
僕達の出会いは半年前の入寮日、翌日に入学式を控えてお互い期待と不安が入り混じった中での対面だった。アパートみたいな形の第三学生寮の二○四号室、そこがこれからの三年間、僕達に割り当てられた部屋だったのだけど、ほとんど同じタイミングで部屋の前に到着した僕達は、緊張してなんだかぎこちない挨拶しか交わせなかったのを覚えている。それも今からすれば笑い話の一つだ。
それから半年同じ部屋で一緒に暮らして、いつしかお互い名前で呼び合うようになって分かってきたのは、性格は正反対だけど僕達二人の趣味や好みが意外に一致していること、湊の料理は美味いこと、その代わり他の家事は僕の方ができること--湊は意外と大雑把で、四角い部屋の四隅を丸く掃くタイプだった--、昔湊がロンドンに住んでいて、そこにいる元カノと今でも電話でやり取りしていること、そして僕自身も驚いたけど、そんな二人のやり取りを聴いていると嫉妬を感じてしまうこと。
湊に対する独り身の僻みじゃない。顔も知らないし、ましてや言葉さえも通じないロンドンの少女への嫉妬なのだから困った話だ。
簡単に言ってしまえば、僕はどうやら湊に恋愛感情を抱いているらしい。