俺の母と授乳
俺がこの世界に転生してきてすでに1週間が過ぎた。
この1週間でいくつかわかったことがある。
まず、この世界の言語についてだ。
俺は、生まれた瞬間から両親の話している言葉が理解できた。
それはなぜか。
この世界の人達が日本語を話しているからである。
始めに気づいた時はさすがに驚いたが、これは俺にとって好都合である。
日本語がこの国の言葉なのか、世界共通語なのかはわからないが、異世界生活を送るにあたって最高のスタートが切れたことは喜ばしいことだ。
他にもわかったことがある。
それは俺の母さんが超絶かわいいということだ。
俺が今まで出会った人の中ではダントツで1番だ。
こんなにかわいい人見たことない。
いや、そういえばある。
あの自称神様だ。
あいつ見た目だけは最強だった。
さすが神様。
俺も無事に転生できたことだし、そろそろ自称をとってやってもいいかもしれない。
いや、やめた。
なんかあいつ神様にしては態度軽いし。
信用できない。
そして、ここで俺は声を大にして言いたいことがある。
「ばぶばぶばー!ばぶぶぶばぶばー!」
……そういえば今俺赤ちゃんだった。
すっかり忘れていた。
俺は『人は中身だ!見た目なんてどうでもいい!』と言いたかったのだ。
しかしそれは俺の母親でなければの話だ。
「どうしたのヒルちゃん。お腹すいたのかなー?」
母さんは、その神秘的な青色をした瞳をこちらに向け心配そうに俺に話しかけた。
確かにお腹はすいている。
しかしここでそれを正直に言ってしまうと、地獄の時間が始まる。
俺はそれを否定するため声を出す。
「ばぶ!ばーぶ!ばぶ!」
ふむ、我ながら完璧だ。
これで母さんも俺がお腹が空いていないことをわかってくれるはずだ。
これが俺が1週間かけて身につけた能力、声だけでの意思表示だ。
普通の赤子のなせる技ではない。
俺だけの技だ。
「そっかそっか。ちょっと待ってね、ヒルちゃーん。」
そう言うと母さんは服をまくり始めた。
……ちょっとまて。
今の俺の意思表示は完璧だったはず。
どこか間違えていたのだろうか。
最後のばぶをもう少し伸ばすべきだったのだろうか。
赤子の世界はどこまでも奥が深い。
「よし。どうぞ、ヒルちゃん。召し上がれ。」
母さんはすでに準備できてしまったようだ。
しかし俺は全然準備出来ていない。
主に心が。
赤子にとってその行為が食事であり、それ以上でもそれ以下でもないことはわかっている。
しかし、俺の心は赤子ではない。
立派な社会人なのだ。
そんな俺にとってその行為は地獄以外の何者でもない。
だってそうだろ?
相手は前世の俺より年下で、しかもめちゃくちゃかわいい子なのだ。
そんな子が俺に対して少し控えめな胸をさらけ出し、嬉しそうに「召し上がれ。」と言ってくる。
そして俺は生きる為にそれを吸わなくちゃならない。
こんな状況に耐えられる男などいるはずがない。
これはまさしく生き地獄だ。
罪悪感で死ねる。
「いっぱい飲んで大きくなるんだよ。」
そう言われ俺は、ピンク色をしたそれにかぶりついた。
心をできるだけ無心にし、無邪気に吸うように努力する。
そこに下心など存在しない。
俺は母さんに言われた通り大きくなるためだけに乳を吸う。
「おつかれヒルちゃん。またお腹が空いたら言うんだよ。」
「ばぶ!」
やっと地獄の時間が終わった。
母さんは嬉しそうにまくっていた服を元に戻す。
早く離乳食にならないだろうか。
これを毎日やるのはさすがに辛い。
精神的に。
そして俺は眠りにつく。
赤ちゃんは食事のあとは睡眠と決まっているものだ。
うん、おやすみ。
……俺の母さんはかわいい。
そして優しい。
そんな人の子に生まれたことを喜ぶべきなのかどうか悩みながら俺は意識を手放した。




