プロローグ
人という生き物は、往々として自分の利益のために他人を騙す。
時には己すらも騙し他人を欺く。
皆も騙された経験はあるはずだ。
それは小学生が見栄を張るだけの小さな嘘かもしれない。
100万単位で奪い取られる極悪非道な詐欺かもしれない。
しかしどのような目に会おうと人は再び騙される。
それはなぜか。
弱いからだ。
人は弱いからこそ他人を頼る。
そして他人に期待し、信じる。
結論を言おう。
人間不信は最強だ。
そして人間不信な俺は宇宙一強い。
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近年地球では温暖化の影響で異常気象が続いている。
この頃はずっと猛暑日だ。
一昨年、都内にある大きくも小さくもない会社に就職した。
こんな俺が就職出来たことすら奇跡だったのだが、問題が1つあった。
営業職だったのだ。
他人を信用しない俺には非常にやり辛い仕事だった。
やめようかとも思ったのだが、この会社以外にこんな俺を雇うような会社があるとも思えない。
必死にやるしかなかった。
今も、今月のノルマを達成するために新しい委託先を見つけてきて会社に歩いて戻る途中だ。
「あちぃよ。誰だよ温暖化起こしたの。どーせ人間だろ?だから人間は嫌いだ。」
俺は暑さに耐えかね近くのコンビニに駆け込んだ。
「らっしゃいませー」
若い男の声が聞こえる。
こいつもどーせあれだ。
俺を見て、『うわ汗だくのやつ入ってきたよ。お前のせいで店の中臭くなるだろが、とっとと去れよ。』とか思っているのだ。
そうだ。そうに決まってる。
俺は、レジ横に鎮座するコーヒーメーカーで100円コーヒーを注ぐ。
もちろんアイスだ。
なぜかこのコーヒーって美味しく感じるよね。
なんでだろ。
偉大なコンビニコーヒーに敬礼。
そんなことをしていたからだろうか、コンビニの外から近づいてくる異様な集団に気づくことができなかった。
「このコンビニにあるすべての金を渡せ!このバックに入れるんだ!」
「は、はいっ!わ、わ、わかりましたっ」
その強盗は2人組で、どちらも成人したばかりかそこらの若い男だった。
目出し帽かぶっていてよくわからんがそんくらいだと思う。
というかこの猛暑日に目出し帽かぶって強盗するなんて理解できない。
絶対暑いだろ。
汗だくで辛そう。
何より臭そう。
そんなにお金に困っているのだろうか。
とにかく俺には関係ない。
強盗とコンビニの問題だ。
大人しくしておこう。
「い、入れ終わりました!ど、ど、どうぞ」
「確かに。おい、いくぞ!」
「ちょい待ってください兄貴。」
兄貴と呼ばれた男が今にもコンビニから飛び出そうとするのを、もう1人の男が止めた。
いやいや、早く行けよ。
もうやることないだろ。
そしてなぜこっちを恨めしそうな目で見る?
俺大人しくしてたよね?
「こいつ殺していいでしょか?」
「「…は?」」
俺と兄貴は同時に言った。
気が合いましたね、兄貴さん。
貴方とは仲良くできそうです。
俺釣りとか好きなんで今度一緒に行きましょうよ。
釣りって俺と魚だけで完結するから良いんだよね。
人と関わる必要ないもんね。
おっと現実逃避は良くない。
「いやね。こいつ、俺を騙して有金全部もってった昔の知り合いと顔が似てるんすよ。俺がコンビニ強盗なんてしてるのもそいつのせいなんす。恨んでも恨みきれない奴なんすよ。なんで、この人にも死んでもらうんす。」
え?こいつ何言ってんの?
顔が似てるから殺す?
そんな理由で人を殺せるのか?
俺は混乱して声が出ない。
「そんなことしたら確実にブタ箱行きだぞ。早まるんじゃねぇ。」
「少しでも恨みが晴らせれば捕まるのなんてどーってことないっす。どーせ十何年かで出られるっすよ。」
そう言うと男は手に持っていた刃渡り30cm程のナイフで俺の心臓を刺した。
男があっさり俺を刺したのを見て兄貴の顔色が真っ青になり、やがて真っ赤になった。
兄貴、お前器用だな。
釣りに向いてるぜ。
「おい、お前何してんだ?コンビニで人殺しなんてありえねぇだろ。何考えてんだ?……もういい!これ以上は面倒見れねぇ!勝手にしろ!くそっ!」
兄貴は、コンビニ強盗で得た金すら置いて一目散に逃げ出した。
「ははっ、俺やったっす。やったっすよ。うふふふふ。」
残された男は達成感に包まれ放心状態に陥っている。
俺の心臓にはナイフが突き立っている。
………これ、俺死ぬよね。
不思議と痛みのない人生の終わりに虚しさすら感じる。
そして最後の思考を迎えた。
「やはり人間は嫌いだ。」
こうして俺、新庄和人の人生は幕を閉じた。




