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久しぶりの再会

「――れ……蓮…………蓮花!」


誰かが私の名前を呼んでいる?そうか、デスティニーの言っていた監視役が部屋に来たのか。


「起きてるって……朝っぱらからうるさいなあ――ってお前かよ!」


堅く閉ざされた扉が開くと、そこには一人の少女が立っていた。

暑くも寒くもない適度な温度だというのに、彼女は真冬に着るような分厚いコートを身に包んでいる。

手入れの行き届いた髪がきらめくように光を反射する。


「始めてきたけど、わりといい感じの部屋なのね」


そう言って、何の遠慮もなく、部屋の中をじろじろと見回す。


「私を上に連れて来るように言われたんだろ?だったら早く行こうぜ、霙」


彼女の名前は雪野ゆきのみぞれ

私と同じく、デスティニーに造られた人工生命体、正式には《5thコア》なのである。

いきなり5thだなんて言われても意味がわからないと思うかもしれない。

簡単に言ってしまえば、身体の中にコアを持つ、機械生命体……それをこの世界ではコア種と呼んでいる。

動物や植物などのように多種多様な種族が存在し、ある程度大きな括りで1stから4thまでのコアが存在する。

最初に自然発生的に生まれたのは1stコアであり、大した力も持たず、みな共通して一つ目の目玉を持っている。

その1stコアの突然変異体である2ndコアは、様々な進化を遂げ、弱点である核を身体の中へと隠しているものが多い。

更なる進化を遂げた3rdコア、4thコアは人型のものが多く、優れた力と高い思考能力を併せ持つ。

では、5thコアである私達は何なのか?

答えはとてもシンプルである。

私達は、4thコアであるデスティニーによって造られた人工的なコアなのだ。

それ故に私達の存在を知る裏界隈では、3rd、4thコアを越える存在という意味合いで、5thコアなどと呼ぶようになったらしい。

――とまあ、話が少し脱線してしまったので、ここで彼女の紹介に戻ろう。

彼女の正式な名前はスノウで、私とは一番違いで造られたこともあり、昔から仲が良い。

とはいっても、私がこの部屋に閉じ込められてからは会う機会はなかった。

長年の仲なのだから、一度くらい来てくれてもいいと思うのは私だけなのだろうか。


「もう、せっかちね蓮花。どうせ今日はあなたをデスティニー様のところに連れていけばいいだけなんだから少しくらい道草してもいいでしょ」


そう言うと、霙はまた部屋の中を探索して回る。

昔から好奇心旺盛で、退屈な書物など一緒に読まされたっけ……


「あんまり散らかすなよ」


「大丈夫よ、最初に入った時に物がどういう風に置いてあったか、覚えてるから。その通りに戻すわよ」


「相変わらずの無駄記憶力だな、お前」


「そう?」


そんな感じで他愛もない話で時間を潰すこと、約三十分。

ようやく霙の方も気が済んだとようで、私の方へと近づいてくる。


「さてと、じゃあ行きましょうか」


そう言って私に向かって手を差しだしてくる。


「何なんだ、その手は?」


「どっちでもいいから手を出してくれない?一応念のためにね」


そう言ってポケットから腕輪を取り出す。

それには術式が刻まれているようで、何とも嫌な気配がする。

おそらく、魔力封印の腕輪だろう。

私が抵抗できないようにとデスティニーが持たせたに違いない。


「そんなもの着けなくても暴れたりしないっての!」


「まあ、いいからいいから。観念しなさいよね!」


そういう私をよそに霙はむりやり私の手を引っ張ると、あっという間に腕輪を装着した。

何て器用な奴……


「はい、じゃあ行きましょうか」


霙に言われるがままについて行く。


地下何百mの隔離施設から直通のエレベーターに乗ること数分。

一年ぶりの研究室……しかし、特に感動はない。


「さあ、行きましょうか」


霙の顔にさっきまでの笑顔はない。

淡々と任務をこなしていた昔の私のようで胸が痛む。


「さあ、ここからはあなた一人だけで行きなさい」


デスティニーの部屋の前で霙はそう言った。


「私の任務はここまでよ、だから頑張りなさいよね」


そう言って、霙はすたすたと去って行った。


「何を頑張ればいいのやら……」


渋々中に入ると、後ろを向いたままのデスティニーがいた。

気を張っていなければ、吸い込まれてしまいそうになる黒髪。

巫女服を改良したような変な格好。

一年前と何も変わらない姿。

私をあの部屋に閉じ込めた時のデスティニーの表情を思い出す。

無念さというか苦しみに満ちたあの表情を……


「何も緊張する必要はないわ、今日はただ明日からの定期検査について話しておきたかっただけなのだから」


久々に聞く声……そこから先のことは何も覚えていない。

気が付くと、私は自分の部屋の中に居た。

隔離部屋ではなく、一年前まで暮らしていた研究室に付属する居住施設の部屋。


後から霙に聞いたのだが、デスティニーの部屋から出た私は顔面蒼白だったらしい。

とても自力で戻れそうにないと判断して、私を抱えて部屋まで運んでくれたようだ。


「デスティニーを前にすると自分が自分でなくなるような感覚に襲われる……昔はこんなことなかったのに」


この感覚は何もデスティニーに対して疑問を抱いてからこうなったのではなかった。

六年前くらいからだろうか……思えばあの頃からデスティニーは私に対してよそよそしくなったような気がする。

そういえば、何かあったような……

思い……出せない……

…………

……


遠い日の思い出……そういえば私は、一度だけデスティニーに連れられて遊園地に行ったことがあったっけ。

私とデスティニーの二人だけで、あの時は妙に優しかった気がする。

一緒にメリーゴーランドに乗って、ソフトクリームなんて甘い食べ物も買ってもらったかな……

二人で撮った写真は一体どこに行ったっけ?

そういえばデスティニーがとても怒っていたような気がする……

誰に向かって?

どうしても思い出せない……


「また……あの夢か」


何度も何度も夢に出る思い出なのに、どうしても最後が思い出せない。

デスティニーの怒った顔を最後にいつも目覚めてしまう。


「夢なんかに惑わされちゃダメだ。デスティニーは私のことなんて便利な道具くらいにしか思っていないんだ」


そう強く思えば思うほど、胸が痛むような感覚が私を襲うような気がした。


「もう起きてる?蓮花――あれ、珍しい」


「いきなり入って来るなんてとんだ無作法ものだな、お前」


「別に蓮花ならいいでしょ?何か隠さなきゃいけないものでもあるの?」


「そんなものはないけど」


「でしょうね、じゃあさっさと会議室の方に行きましょうか」


昨日と同じく霙に引っ張られるような形でついて行く。


「今日は定期検査をするんじゃなかったのか?どうして会議室なんかに?」


「よくわからないけど、昨日緊急に決まったことがあるみたいで、それを全員に報告するんだって」


「何じゃそりゃ?というか全員ってことは私以外の地下組も一緒って事か?」


「そうみたいね」


その話を聞いて呆気に取られる。

地下組というのは私も含め、いわゆる隔離施設に閉じ込められている連中のことを指す。

私以外のやつらは強すぎる力とそれを制御するには不完全な精神故に閉じ込められている者がほとんどで、はっきり言ってちょっとした会議程度で出して良いはずがない。


「何だか嫌な予感がするなあ……」


言いようのない不安に襲われるが、悩んでいてもしょうがないと思い、勢いよく会議室の扉を開けた。

思った以上に速く着いてしまったのか、中には半分ほどの人数しか集まっていなかった。

適当に空いた席に座ると、後ろから突然悲鳴のような声がした。


「れっ、蓮花さん!どうやってあの部屋から脱獄してきたんですか!?」


久々の再会だというのにいきなり失礼なことを言うこの少女は板元いたもとつくることインダストリアルだった。

昔から私の姿を見る度にがくがく震える変な奴……という面識しかない。


「いきなりうっさいなあ……いっぺん殴るぞ?」


そう言うと案の定、後からやってきた友人である水門みなとアスカことマテリアルの後ろに隠れる。


「また、作を脅してたんですか?蓮花さん」


アスカは私に怯えながらも、必死に作を守るような体勢を取る。


「そんなわけないだろ、こいつが勝手に悲鳴上げて逃げただけだ」


「そ、それならいいんですけどね……」


強がってはいるが、今にも泣き出しそうなほどに眼は涙を溜めている。

こうなると私だけではどうにもならない。

下手に動こうものなら、泣かれて余計に面倒くさくなる。

そんな私の態度を見かねて、隣に座っている霙が私の前に立ち塞がる。


「もう、蓮花ったらダメでしょ。こんな可愛い女の子達を苛めたりして……ごめんね、作にアスカ。私から強く言っておくから許してね」


霙はそう言ってアスカ達に軽く頭を下げる。

彼女の仲介もあって、意味の分からないいざこざはようやく終わりを告げる。


「蓮花、少しは殺気を振りまくの止めたら?そんなんじゃいつまで経っても彼女達は心を開いてはくれないわよ」


「これは生まれつきだ……ほっとけ」


デスティニーの為にひたすら鍛錬の繰り返し、自分を強くすることだけにこれまでの人生を注いできた私だ。

いまさら人付き合いをよくしようなんて思ってはいない。


そうこうしている内に、集合の時間が来た。

誰一人として遅れることもなく、ただ静かに二十七名の5thコア全てが集結している。


ここらで一つ話をさせてもらうことにしよう。

総勢二十七名というところとRやS、Iなどの名前で気付く人も多いだろうが、私達はアルファベットの名前を与えられている。

基本は、それぞれの能力に応じて名づけられているらしいが、怪しいやつも何人かいる。

戦闘能力や能力の有用性などでランキング付けをされており、上位の者はとても良い待遇を受けている。

まあ、その分面倒な任務をたくさん押し付けられて毎日忙しいのだが……


「待たせたわね、じゃあ早速本題に入りましょうか」


予定時間から遅れること五分。

いよいよ大ボスであるデスティニーが姿を現す。

先ほど以上の緊張が部屋の中を襲い、私自身も口の中がみるみる乾燥していくのがわかった。

そんな緊張を知ってか知らずかデスティニーは淡々と話を始めていた。

自分の現在研究中のテーマについての発表や、研究所の反抗勢力の特徴など、今の私にはどうでもいい話ばかりであった。


「最後に、今回の定期検査について話しておくわ。」


半分眠りかけていた意識を正し、背筋を伸ばす。

どうやら定期検査は私だけではなく、他の面子も同時進行で行われるらしい。

自分だけだと思っていたので、変に絡まれないか心配になった。

一年間ろくに力を使っていないので、手加減を失敗するかも……なんて。

全員の定期検査を行なうのであれば、今日全員集合で会議報告するのも筋が通っているような気がした。


「何故この時期に全員の定期検査をする必要があるのかしら?」


全員集合での会議報告において質問が起こることはまずない。

デスティニーの決定に対して異を唱えるなど、反抗的行為に他ならないからだ。

だが、それがどうしたと言わんばかりに真っ直ぐに右手を伸ばして発言をするのは……


オペレート……まさかお前が質問してくるとは意外ね」


フリフリの衣服に身を包む青髪ツインテールの少女……小手川おてかわめいだ。

戦闘能力は皆無と言っていいが、優れた頭脳を持ち、この研究所のブレインとして欠かせない存在である。


「当たり前でしょ。一部の例外を除いて私達はつい数週間前に定期検査を終えたばかりじゃない。こっちはあなたに押し付けられた研究が山ほどあるっていうのに……時間の無駄よ」


命の発言がもっともだと思っている者は多いようで、表情がそう訴えていた。

定期検査は短くても一週間は掛かる。その間、ろくに休息もなくデータを作成管理させられる命からすれば、たまったものではないだろう。


「それがどうした?お前自身が言っていたように一部の例外は定期検査を行っていない。それがわからないお前でもあるまい。」


それを聞くや否や、命は私を指差してこう言った。


「蓮花の為にあのくそ面倒くさい定期検査をやり直せってことでしょ!?わざわざこの時期にこいつを出すなんて私に何か恨みでも――!」


そこで命の言葉が止まる。

檀上の方を見ていると、デスティニーが何とも言えない表情で威圧していた。

有無を言わさないような圧倒的なプレッシャー……そういう他に表現のしようがない。


「……ちっ!わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば!!」


さすがの命も折れずにはいられないようで、ぶつぶつとボヤキながら椅子に座った。


「……もう、質問はないわね?」


もう質問するなと言わんばかりのプレッシャーをかけながらデスティニーはその場を去った。

次第に重苦しい空気も消えて行き、一人、また一人と会議室を後にする。

私の後ろの席では、ぶつぶつと文句を言う命を作とアスカが宥めている。

この三人はいわゆるデスティニーの研究補助の名目で造られており、その性能も知性に極振りしたようなステータスである。


「とりあえず、定期検査自体は明日の午前七時からってことでいいのか?」


隣の席でぼけーっとしている霙に話しかける。


「え?そ、それでいいんじゃない……それで」


何故かよくわからないが、やけに落ち込んでいるような気がする……


「――そいつはな、明日エネルギーと、お出かけをする予定だったらしいからな、それで凹んでんだよ」


憎たらしく笑いながらこっちに向かってきたのは、ハイドラこと、毒島ぶすじま排人はいどであった。

銀髪の髪に片方だけ三つ編みをしている変わったやつで、何かにつけて私をいじってくる。

そして、その後ろで縮こまっている少女は、ルナティックこと、ルナであった。

服装は地味な茶色ベースのフリル付きの変な服で、頭にはメイドカチューシャを付けている。

いつもビクビクしていて排人の背後に隠れているが、私と同じ地下組の一人である。


「それにしても今回の会議には遅刻しなかったんだな、珍しい」


そう言って排人は私の頭を無造作に撫でる。


それをすぐさまに払いのけて文句を言う。


「触んじゃねえよ、ボコボコにしてやろうか、あぁ?」


「ボコボコだと?出来るものならやってみろ、バーカ」


お互いに睨み合い、臨戦態勢に入る。


「ふ、二人とも喧嘩はダメだよーー」


風でも吹けば掻き消えるほどの小さな声と共に、ルナは私達の前に立ち塞がる。

その手は一目でわかるほどにガタガタ震えている。


「大丈夫だって、ルナ。これは挨拶みたいなもんだ。それよりも、一年ぶりだっていうのに何にも変わんねえんだな、蓮花」


「そういうお前もな」


お互いに久しぶりの再会の言葉を言い終えると、排人は命達の元へと向かう。


「命、いつまでもいじけてないでさっさと帰ろうぜ」


そう言って排人はいじける命を軽く持ち上げる。


「は、離せ!私は納得したわけじゃないんだからな!私は負けてなーーーーい!!」


手足をばたばた振って抵抗する命であるが、排人の前ではそんなこと無意味だ。


「はいはい、ほらお前らも行こうぜ」


「「うん」」


排人に促されるように作とアスカの二人もついて行く。


「霙のこと頼んだぜ、蓮花ー」


「また、会いましょうね……蓮花さん、霙さん」


排人一行がいなくなり、会議室は急に静寂を取り戻す。


「全く相変わらず騒がしいやつらだな、あのグループは」


「……」


いつの間にか会議室には私と霙の二人しか残っていなかった。


「私……ずっと楽しみにしてたのに……ぐすん」


私だけになったからだろうか、霙の眼からは大粒の涙がぽたりぽたりと零れた。

普段は冷静沈着なくせに、Eが絡むとすぐにポンコツになるのは悪いところだ。

Eは手がやけに大きい、いかにも力があるようなやつではあるが、身長は低いし、なにかと不器用な奴だ。

だから正直に言って、彼女があいつのどこに魅力を感じたのか私には到底理解できない。


「ちょっ、霙。何も泣かなくてもいいだろ!また次の予定を作ろう、Eだってきっと喜ぶさ」


「私なんかがまた誘って……一緒に行ってくれるかな?」


「大丈夫、大丈夫。霙は可愛いからこの私が保証するって!」


「……本当?」


「勿論!この私が今まで嘘ついたことなんてあったか?」


「自分だって出来ないくせに……」


「何か言った?」


「……別に」


そういうやり取りを延々と続けること、一時間。

ようやく霙も元気を取り戻したようで、やっと会議室から退出した。

私も安心してほっと溜息をつくと、途端に腹の虫が鳴る。


「よく考えたら朝ご飯食べてないなあ……食堂に行かない?」


そんな私を見て、霙はがっかりそうな反応をする。


「もう、蓮花ってば。今を生きてるって感じで羨ましいわね。悩み事とかないタイプじゃないの?」


「失礼な奴だな。私にだって悩み事の一つや二つあるっての!」


「――そういえば、一つくらいはあったかもね~」


急に霙がにやにやと笑う。

こいつがこんな表情をするときは決まってろくなことがない。


「な、何を笑って――うわっ!」


「おっと!」


前を見ないで歩いていたせいで誰かにぶつかる。


地面に腰かける形になった私に手を差し伸べる一人の青年。

それはブラッディであった。


「一年振りだっていうのに全然変わらないんだね、君達は」


黒に近い褐色の肌。そのためにより一層強調された白髪が光り輝く。

すらっとしたスタイルに映える金属製のチェーンは、クールな彼を際立たせている。


「ご、ごご、ごめんなさい、前を見てなくて――」


「はは、久しぶりの再会だもんね。仕方ないよ。」


そう言って優しく微笑みながら私の頭をぽんと撫でる。


「ほ、本当に!だ、だ、大丈夫ですから!」


私は赤面した顔を見られまいと、俯く。

そんな様子を霙は今日一番の笑顔で見ている。

あの女、後でぶっ飛ばす。


「じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。」


「あ――」


何か急いでいるのかBはそう言うと、あっという間に走り去って行った。

お礼を言うくらいすぐに出来そうなものなのに、どうしても口が動かなかった。

もう、私のバカバカバカ!

どうしてBの前だとこんなにも緊張してしまうのだろうか。

いつもの私が保てなくなる……この感情はやっぱりこ、ここ恋なのかな……なーんて。

そんなはずない、そんなはずない。

恋なんて私と対極に存在する絵空事なんだ。

これはきっと何か悪い病気に違いない。

落ち着け、落ち着くんだ!


「おーい、戻ってこーい、蓮花」


急に霙が下から顔を覗き込んで来る。


「うわっ!?み、霙、お前まだいたのか……っていうか、さっきはよくも私を笑ったな!」


「あんなにおかしな蓮花を見せられて、笑うなというほうが無理ってものよ。そんなんじゃ、いつまで経ってもBに振り向いてもらえないわよ?」


霙の言葉にドキッとする。


「な、な、な、なんのことかなあ~」


口笛を吹いてごまかそうとするが、私はそんなことは出来ない。

空しく、ヒューヒューと音が出るだけであった。


「バレバレよ、蓮花。Bに対する態度が恋する乙女そのものだし、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいよ?」


「そ、そう?」


「まあ、Bは誰に対しても分け隔てなく接しているみたいだし、こういうのは鈍感っぽいから彼には感づかれてないかもね」


自分が思っている以上に私の態度は周りに筒抜けのようだ。


「はあ、蓮花もだらしないわね。私にはEのことで強気で行けなんて無茶言う癖に、自分なんて真面に話すことも出来てないじゃない」


「その件は、そのー、……ごめん」


あまりにも正論だったので、素直に謝る。


「わかればよろしい。じゃあ、私も小腹が空いてきたし、食堂まで競争よ!」


そう言うと、霙は一足先にと走り出す。


「ちょっ!ま、負けるかっての!」


走ること一、二分。私達は目的の食堂まで辿り着く。

ここは私達だけではなく、研究所の職員も利用するため、思ったより広い。

適当に空いた席に座り、机の上にあるリモコンを手に取る。


「霙、もう何にするか決めた?」


「私は冷やしきつねうどんでいいわ。蓮花は?」


「そうだな……いざ決めるとなると悩むな」


少し悩んで、結局日替わりメニューにするのが、常であったが、今日は一年ぶりの食堂だ。

記念に豪華なものでも食べてみるか、と思いステーキセットを選ぼうとしたその時、背後から黒い気配を感じた。


「それじゃ面白みがない、これでも食べてろ」


そういって奴が勝手に選んだのは激辛カレーであった。


「あああああああああ!!!てめえ、シャドー何しやがる!!」


「その反応、その反応。やっぱりお前面白いな」


「おもしろいー、おもしろいー」


全身黒尽くめのコートを着た男、そしてその肩にちょこんと乗っている少女……言うまでもない、&ことシャドーとクラッシュのバカップルだ。


「お前が苦しんでるところをクラナが見たがってるんだ、しかたないだろ?」


「しかたない、しかたない」


全身を硬質な殻で拘束されているCは私と同じ地下組の一人だ。

シャドーと一緒にいなければ、何をするかわからない危険な奴である。


「まあ、我慢しなさい蓮花。この人達に絡まれた時点で回避不可能なことくらいわかってるでしょ」


霙は同情するようにそう言う。


「私の……私の記念すべき食事だったのにーー!!」


こうして、その日はずっと耐えがたい激痛に襲われる羽目になるのであった。

あの二人、いつか覚えていろ!

それ相応の苦しみをきっと味あわせてやると心に誓うのであった。


====================================


静寂に包まれた宵闇の中で、微かな明かりを灯してゆらめく人影が一つあった。

その人物は明日への最終調整に急いでいた。


「計画は順調に進んでいる……もう後には戻れない」


その人物は机の上に散らばった資料の中から、一枚を取り出す。

そこには5thコア全員の写真と各々の簡単な経歴が記されている。


「今まで私のために尽力してくれた兵器共であったが、これで終わりだ。私の未来のために死んでくれ」


そう言って無造作にその資料に火を放つ。

一瞬の輝きだけを見せて黒墨となった資料は突然吹き込んできた風に呑まれるように、闇夜に消えた。


「明日が楽しみだ、最高のショーの始まりをね……」


不気味な笑い声が反響する夜空はとても儚げで、これからの出来事を予兆しているかのように世界を闇に落としていった。

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