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プロローグ

私の名前は五領蓮花ごりょうれんか

どこにでもいるような普通の女の子……とは違う。

ある研究者によって造られた人工生命体とでも言っておこうかな。

まあ、細かいところは後々明らかになっていくことだから、最初に長ったらしく話すことでもないのかもしれない。

ただ、後一つだけ言うとするならば、これから語られる物語は私の人生にとって、とても大きな出来事だったということ。

あまりにも残酷で、心が打ちのめされそうになりながらも必死に生きた私の物語――――――


=====================================


悪い夢だと……そう思った。

でも、頭の中で囁く声がはっきりと言っている。


《これは現実……変えようのない現実……逃げ出すことは出来ない!》


私はゆっくりと立ち上がる。

空は不気味なほどに澄んでいて、私の身体を呑み込んでしまいそうに思った。


《さて、感情の整理は終わったかしら?それでは始めましょうか……命を賭けたサバイバルゲームをね!》


「――はっ!」


私は弾ける様にベッドから飛び起きる。

全身から妙な汗が噴き出す。

まるでさっきまでの出来事が本当であったかのような嫌にリアルな感覚が私を震えさせる。


「夢……か。ふふ、この私としたことがあんなことに恐怖を抱くなんてね」


窓もない牢獄のような部屋に閉じ込められて早一年。

衣食住は満ち足りていたので、ただ生きるだけなら何も苦は感じなかった。

それ以前から鍛錬漬けの日々を送っていた私にとって、むしろこの環境は喜ばしいほどである。

ただ一つの懸念を除いては……


リヴァーシブル……こんな時間にお目覚めとは、さほど楽しい夢でも見ていたのかしらね》


嫌味ったらしく私の頭に囁く声……


「何の用だ?暇つぶしなら怒るぞ?」


《まあまあ、そんな明らかに嫌そうな顔で睨まなくても良いじゃない》


この部屋には至る所に監視カメラが設置されている。

私が不審な動きを取ろうものなら容赦なく、催眠ガスが部屋全体を覆いつくす。

そんなことを何度も経験している私にはもはや抵抗する気もなかった。

私は屈していないという、表情だけを残して。


だが、今日の奴は少し様子が違っていた。

妙に楽しそうというか、まるで今まで抱えていた悩みでもなくなったかのような軽い口調……


《その部屋から……出たいとは思わない?》


「部屋から出るだと?どういった気の変わりようなんだ?」


《別にお前の行いを許したわけではないわ。ただ、それ以上にお前のような存在をそんなところで腐らせるわけにもいかなくてね。……簡単に言えば、身体検査を行いたいというわけ》


「身体検査ねえ……」


私は面倒くさそうに頭をぼりぼりと掻く。

この部屋に閉じ込められるまでは、毎年半年に一度の間隔で身体検査を行っていた。

健康状態はもちろんのこと、身体能力や戦闘能力など数多の項目を約一週間かけて調べ尽くすというものだ。


「本当に出してしまっても良いのか?私が大人しく検査を受けると本気で思っているのか?」


私がそう言うと、奴は微かに笑いながらこう言った。


《その点なら問題ないわ……お前が馬鹿な事をしないように監視役を付けるから》


「監視役だと?私も甘く見られたものだ。そんなことで抑えられるとでも?」


《……明日の午前七時に迎えに行かせるから、それまで待っておくことね》


そこで奴との会話は終わった。


「あんな奴の言われたままに行動するかっての!」


私は少し苛立ちながら、ベッドに横たわる。


「最初は様子が変な気がしたけど、やっぱりデスティニーは何も変わらないのね……何も」


ふとあの頃のことを思い出す。

私がデスティニーを裏切ったあの日の事を……


それまでの私は、デスティニーの為にどんなこともやってきた。

デスティニーの邪魔になる敵の排除、施設の破壊、獰猛な生物から研究に使用する素材調達等、挙げればきりがないほどに。


私はそんな日々に満足していた。


だが、ある時ふと思ったのだ。

このままで良いのだろうかと。

ただ、道具のように扱われているこの日々に意味はあるのかと――


それからの私はひどいものであった。

あんなにも熱意を持って打ち込んでいた任務が馬鹿らしくなり、何度も奴の期待を裏切った。

先ほどのような武骨な態度はその頃は取っていなかったが、それでも勘の鋭いデスティニーはすぐに私の想いに気づいたようであった。


「お前には悪いが、ここで少し頭を冷やすと良い」


そう言って、私を地下の隔離部屋へ閉じ込めたのであった。


「私は……デスティニーにとってどういう存在なのだろうか?」


ただの道具?それとも愛すべき家族?

幾度も私を悩ませる疑問――答えが出ないことなんてわかっているのに、考えずにはいられない。

そして、いつも最後は決まってこうなる。

考えることを拒むように、私の身体は眠りへと誘われていく。


明日から凄惨たる日々を送ることになるとも知らずに――――

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