↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東の果てのマビノギオン  作者: 秋月つかさ
PR
45/60

胎動する渡辺党 ②


「今回、私が君達を呼び寄せた理由……それは一週間ほど前にね、鬼道(きどう)を通ってやって来る憑鬼(つき)モノどもを見鬼(けんき)たちが払い切れず、とうとう八十年ぶりに、『鬼憑(おにつ)き(人鬼)』が出現してしまった由(よし)、渡辺家より報告、委細を受け承(たまわ)ってしまったからなんだね」


 十六夜(いざよい)が喋り終わると、さすがに一同は全員、十六夜のほうに視線を集中させた。


 十六夜が小さくアクビをした時点で、「本当に出たの?」と、疑いを込めた表情で口を開いたのは、莉奈子(りなこ)である。


「はい?何が本当ですって?」


「『鬼憑(おにつ)き』よ。今まで80年以上も出ていなかったわけでしょ?それが、何で、今になって……」


 「まさか」という思いの強さから、しだいに尻すぼみになってゆく莉奈子の言葉を補うような形で、


「誤報、という可能性も、あるんじゃないですか?」


 と、由利絵(ゆりえ)が口を挟む。


 由利絵(ゆりえ)本人は、莉奈子をフォローするような形となってしまった事に、どこまでも不本意そうだ。


 少し赤面した顔を莉奈子からは見えないように、どもり気味で語を継ぐ。


「た、例えば80年前の鬼憑きだって、戦争のために、人為的に、ワザと造ったんだって話だし、今回だって、もしかしてって事、あるかもしれないじゃないですか」


「渡辺(わたなべ)洸(こう)本人から直々に連絡を受けたんだから、間違いないでしょ。実際に源(みなもと)家では、一週間前、とんでもない事が起きていたらしいですから」


 一週間前、卜部(うらべ)家の当主、卜部(うらべ)季武(すえたけ)が源家で起こした一連の騒乱を、十六夜は、集まっている面々に語って聞かせた。


 季武が、鬼道(きどう)からやって来る鬼を源家に引き入れ、源家の「お姫様」を、鬼に連れて行かせようと仕組んだ事。


 その際、邪魔な他の見鬼(けんき)達を、偽(にせ)の予知で、見当違いの方向へと分散させた事など、要所要所を短く、しかも、あまり正確ではない上に、順序立てて説明したわけでも無かったが、とにかく話した。


 話した後で、十六夜は小さく一息をつく。


 それから意地の悪そうな顔で、


「問題の、その日、狂った源(みなもと)征一郎(せいいちろう)が殺してまわったのは、一体を残して、すべて人間だったってさ」


 と、嘲(あざけ)るように締めくくった。


「それでも、鬼殺しの剣も持ってねぇ奴が、一体でも鬼を仕留めるとはな」


 良平(りょうへい)は、その点については素直に感心したようだった。


「そうでもない」


 十六夜が、再び声に毒を含ませる。まるで、そこに征一郎がいるかのような、声と目つきだ。


「報告では、その鬼は碓井(うすい)家の可愛らしい見鬼(けんき)どのと交戦中だったと言うから、うまく不意をつけたんだろ」


 吐き捨てるがごとき言葉は、嫌悪感たっぷりだ。


「それにしても、一週間も前にそんな重要な連絡を受けておきながら、招集が今日って、遅すぎませんか?」


 由利絵(ゆりえ)が、訝(いぶか)しさの滲み出る声で指摘した。


 同じ疑問を、良平の隣に座っている蓮(れん)も抱いたらしく、由利絵の指摘と同時に頷く。


「いや、何ね、もう一つの渡辺党、久遠寺(くおんじ)家がどう動くのか、見てからにしようと思って。せっかくだから、こっちは後出しジャンケンで攻めようかな、と」


 のほほんとした十六夜の顔は、どこか自慢気でもある。


 源(みなもと)一族や渡辺(わたなべ)一族同様、「渡辺党」も、千年もの歴史を有している。


 旧(ふる)い旧(ふる)い一族なのだ。


 それゆえ、千年間、何事も無く、少しの不協和音(ふきょうわおん)も抱えずに、組織を一枚岩で保ち続けるなど不可能である。


 そんな集団なんて、あるわけが無い。


 それを思えば、渡辺党が二派に分かれたのは、むしろ自然の成り行きであり、それどころか、よく、まとまってきたとさえ言える。


 ただ、渡辺党「久遠寺(くおんじ)」は、日本が太平洋戦争へと突入してゆく昭和の初期ごろ、当時の軍部の要請を受けて、巴(ともえ)家が立ち上げた「皇軍(こうぐん)勝利のための人鬼兵の製造」に、加担したのだ。


 それ以来、二つの渡辺党の間柄は奇妙にねじれて、いつしか久遠寺家は、多々良家と同じ「渡辺党」を名乗るのを良しとはせずと考えたのか、「党(とう」の字を「刀(とう)」と変えて、「渡辺刀」と名乗るようになっていた。


 しかも久遠寺家は、同じ渡辺党でも多々良家には無い、伝説の鬼殺しの剣を所有している。


 その点も、久遠寺家は、十六夜の競争意識を煽って止まぬ存在なのだった。


「十六夜さん、彼等は敵ではありませんよ?味方です。わかってます?」


 不安そうに、蓮(れん)が詰め寄る。


「でもさぁ、アイツら、どうも現在の渡辺家の筆頭見鬼(けんき)である渡辺洸(こう)よりも、分家(ぶんけ)の、渡辺遥(はるか)のほうに肩入れしようとしているらしいんだよねぇ」


 遥の名前が出たことで、もっとも近しい血縁関係にある蓮の顔が強張(こわば)る。


「おい、本当なんだろうな?それ?」


 蓮を庇うように、良平が十六夜に詰め寄る。


 この二人は性格がまるで違うものの、莉奈子と由利絵とは違い、幼馴染み的な関係にある。


「本当、本当。これってさぁ、謀叛(むほん)でしょ、謀叛。こうなってくると、仲良く皆で鬼退治、なんてわけには、当然、行かなくなってくるよねぇ」


 十六夜は、ここにいる全員に向けて取りなすように、それでいて、楽しそうな口調で語を継ぐ。


「どうも久遠寺の連中、先の騒乱の責任の一端が、渡辺洸にあると思っているらしいんだな」


 座が、静まりかえった。


 現在の渡辺党は、多々良家だけでは、たったの五人。


 本来なら、多々良と久遠寺、二つの家を合わせた人数で「敵」にあたるべきなのに、このまま行くと、多々良と久遠寺は、バラバラに鬼と戦うことになるんじゃないかとの思いが、誰の頭にも、当たり前のようによぎった。


 ましてや多々良十六夜は、もう一方の渡辺党である久遠寺家とは、これっぽっちも共闘しようなどという気は無いようだ。


「だからさぁ、せっかくだからさぁ、この機会に、アイツら追い落としちゃおうぜい」


 そんな、まったく冗談に聞こえない十六夜の提案に、皆が一斉に引き気味の表情(かお)を作った、その時────


「はいはい、そこまで」


 いつの間に入ってきたのか、十六夜の兄、多々良朔夜(さくや)が、一人で暴走気味の妹に、言葉で横槍を入れた。


 十六夜は不機嫌そうに四つ上の兄の顔を見上げると、「あれぇ?おかしいなぁ」と、ワザとらしく声を張り上げた。


「ハタチを過ぎて、とっくに『神力』を失った兄さんが、何で『渡辺党』以外入る資格の無い、この別棟(べつとう)にいるのかなぁ?変だなぁ」


「俺は、お前のそういうとこ、マジで心配だよ……」


 朔夜は鈍痛をこらえるような顔で、眉間に深いシワを寄せた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。