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東の果てのマビノギオン  作者: 秋月つかさ
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夜行(やこう)


 遥と大通連(だいつうれん)が走り出してすぐ、大通連の耳がピクピクと動いた。彼女の耳に付いている、小さな鈴のイヤリングが、シャリン、シャリンと鳴っている。


「へぇ……もう一人の子は、すごいわね」


「もう一人?」


「ほら、いつだったか、初めて会った時、貴方(あなた)と一緒に戦っていた子」


「ああ、由良(ゆら)か」


「その由良って子、指定された場所に、現れなかったそうよ。いま、妹から連絡があったわ」

 

 あっちはあっちで、足止めするつもりだったんだけど、と、少しバツの悪そうな顔で大通連は言った。

 

 途中で気付いたか、それとも最初から疑っていたのか……。抜け目の無い由良らしいと、遥は思った。

 

 目指している場所は、多分、由良も同じだろう。

 

 だが────


 何だか、嫌な予感がする。

 

 考えてみれば、卜部(うらべ)季武(すえたけ)は予知をするのだ。

 

 予知────

 

 どんなやり方で、それをするのかは分からない。


 そもそも卜部の「卜」という字は、その縦線が「人間」と「神様」を結ぶ線を意味し、その右に出ている短い斜線が、神様が「神託」として下す答えを表しているらしい。

 

 ────要するに、季武さんには普通に未来が視えるってことなのか?

 

 それとも、卜部家の予知能力ってのは、あくまでも「鬼道」のみに限定されたものなんだろうか?

 

 童子切を手にした遥と大通連は、なるべく目立たない路地を、ジグザグの進路で走った。

 

 かなり離れたところで、表通りへと出る。そして最初に目に留めたタクシーをスルーして、次のタクシーを拾った。

 

 タクシーを止めた少年は日本刀らしきものを持ち、着ている制服で性別を判別しなくてはならないくらいに線が細い。


 そして、少年と一緒にいる黒髪の少女は、一見、どこか異国を匂わせる顔立ちをしているうえ、今どき珍しい着物姿である。


 この目立つカップリングは、当然のように、初老の運転手の表情を微妙なものへと変えさせた。

 

 だが、すぐに人の良さそうな営業スマイルへと戻る。


「本日の御乗車、有難う御座います」

 

 の台詞を聞いて、遥はホッと胸を撫で下ろした。

 

 思った通りというか期待通りというか、今やすっかり定着した感のある、コスプレか何かだろうと勝手に思い込んでくれたようだった。



 

 ザァッという音を立てて、風が、源家(みなもとけ)の屋敷の周囲を取り囲んでいる竹林の中を吹き抜けていった。

 

 鈴子(すずこ)を囮として、寄ってくる鬼を迎撃する。

 

 その最終防衛ラインを築く場所として選ばれたのは、つい最近、皐月(さつき)とカエル男が大立ち回りを演じた、あの中庭である。

 

 坂田(さかた)皐月は、内心の不安を押し殺すようにしながら、自分の背後を肩越しに(かえ)りみた。

 

 心細そうに(たたず)む源鈴子を中心に、30人を超える人間たちが、ぐるりと半円を描くように人垣を作り上げている。

 

 鈴子の(かたわ)らには、皐月も知っている、腰巾着みたいな源家の伯父2人。

 

 そして、自分と同い年くらいの、眼帯と包帯の、やせた少女に抱えられた────不気味な、源家の当主。

 

 その横で、卜部(うらべ)季武(すえたけ)と並んで立っているのは、(こう)さんの妹で遥の従兄弟(いとこ)渡辺(わたなべ)(むすび)だ。

 

 彼女と季武は、この特殊な状況で、いわば鬼を見ることのできる「目」として、急遽(きゅうきょ)、招集されたのである。

 

 例え武器は無くとも、「目」は貴重だ。

 

 皐月が知っているのはこの6人までで、あとの30人近くは、いわば彼女からしてみたら、足手まといに等しい。

 

 姫君と源家当主を守るように人垣を作っているのは、源家の伯父2人が気休めでそろえた、源家のボディーガード達である。


「伯父たちは、それなりに人数が(そろ)ってさえいれば、それだけで安心するんでしょうから」

 

 季武はそう言って、そして、放っておきましょう、と付け加えた。

 

 それが、部外者の存在に異を唱えた皐月に対しての、季武の素っ気ない答えだった。



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