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東の果てのマビノギオン  作者: 秋月つかさ
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外道の鬼追い (オマケ)


「潮時だな」

 

 家々の窓に明かりが灯ってゆく様子を目を止め、(ともえ)一族の男が言った。


「逃がしてもらえるとでも、思ってるの?」

 

 皐月が、男の顔を見ながら鼻先で(わら)う。だが、巴一族の男は可笑(おか)しそうに手の甲を口元に当てて、「くくっ」と、喉の奥で短く笑うだけだ。


「何が可笑しいのよ?言っとくけど、あんたが素手だからって、容赦する気なんて無いから」


「いや、だって君……」


「?」


「ずっとチラチラ見えてるんだけど、いくら何でもクマパン(・・・・)は無いでしょう?」

 

 ワンテンポ遅れて、皐月の顔がみるみると赤くなる。男の方は、抑えが効かなくなったように笑いが止まらない。


「な…ちょ、み、見たわね!」

 

 唸りを生じさせて、骨喰(ほねばみ)眞守(さねもり)が男に襲いかかる。が、斬撃は空を斬るばかりで、男の体に擦り傷ひとつ付けられない。

 

 やがて皐月が息を切らせてその場に膝をつくと、そっくりな顔をもつ二人の少女が、いつの間に戻ったのか、男の両脇に(かしこ)まったように控えていた。


「すいません、やっぱり邪魔が入っちゃいました」


「あ、やっぱり?」

 

 納得したように言いながら、男は、くるりと背を向ける。左右の二人もそれに(なら)い、三人は、(あか)りを散りばめた夜の街へと歩み去りはじめた。


 男が後ろ向きに、皐月に手を振る。その表情に苦笑が差したのは、肩越しに皐月のことを顧みて、そして睨み返されてしまったからだ。


「御主人様~、もしかして、またセクハラですかぁ?」

 

 いいかげん困り果てたように、背の低いほうの少女が言った。


「いや、だってさぁ、可愛かったから、つい…」

 

  心底うれしそうに言う男の顔を見て、背の低いほうの少女は、不機嫌そうに疲労感たっぷりの声を出した。


「つい、じゃありませんよ、まったく!私達は、現在(いま)は源家と敵対しているんですから」


「そうそう、いいかげん、立場というものを自覚していただかないと」

 

 どちらが姉で、どちらが妹なのか、そもそも二人は姉妹なのか、二人の少女が、左右からステレオで説くように言う。


「いきなりキスして、嫉妬に狂った童子切(どうじきり)に手を出されているのも、とうてい自覚ある行為とは言えません!」

 

  背の低いほうの少女が、もう片方の少女にも、強い口調で戒めるように言った。言われたほうは、急に頬を淡く染めて、恥ずかしそうに両手を自分の頬へと当てる。


「だって、だって見鬼の視線ってさ、私たちには……わかるでしょ?」

 

 頬を赤らめ、もじもじ(・・・・)と語尾が小さくなってゆく。もう片方の少女も、()もありなん、という表情で、コホン、と恥ずかしそうに咳払いをした。


「と、とにかく、現在の渡辺、坂田、碓井の見鬼は未熟です。彼等が見鬼として成長してしまう前に、しかけちゃいますよ?」

 

 念を押すような口調だった。


「はい はい は~い」

 

 とてもよく似た二つの顔のうち、片方が明るく応じると、もう片方は、軽く唇をかんだ後、深い溜息をついた。


 いつのまにか、月が昇りはじめている。

 

 それにしても────

 

 低い月に目を止めながら、男は、つい思ってしまう。(こいつ)は、鬼姫と、それを取り巻く者たちの、千年に渡る観客なのだ、と。

 

  ────それにしたって、千年だぞ、千年。俺も他人(ひと)のこたぁ言えんが、よくもまぁ、延々と続けてきたもんだ。

 

 この千年間、地べたを這いずる者たちの行いは、遥か天空の傍観者の目に、果たしてどう映っていることやら。

 

 柄にもなく抱いた、自らのそんな思いに、男は思わず失笑した。

 

 つい出てしまったらしい小さな笑いを耳にとめて、背の低いほうの少女は、視線だけ動かして男の横顔を見た。高いほうの少女は、小首を傾げながら、不思議そうにまじまじ(・・・・)と男の横顔を見る。

 

  男は、顔を近づけてきた背の高いほうの少女の顔だけ、ウザそうに押しのけた。


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