第12話
お待たせしました。
東方閉瞳神録第12話、世界樹編最終話です。
冒頭からの回想の部分だけで約5000文字・・・
ここにきて久しぶりに原作キャラが出てきますよ?
次回は、後日談か第三章を投稿致します。
最初、私達は互いに離れた場所で、数多の世界を創り、終わらせており、私も最初は、人間達が死んでいく様を見て哀しみにくれ、顔を背けていました。
そんな私を、貴方はいつも慰めてくれました。
・・・ほんとうに狡い人。
普段は離れているのに、私が弱いときだけ側にいて、私を優しく抱き締めてくれました。
次第に人間達の死に慣れてきたころ、貴方はまた私から離れていきました。
そうなると当然の如く、貴方に会えない日々が続き、私はとても寂しかった。
そんな私の気持ちを知ってか知らぬか、貴方は私に振り向いてくれませんでした。
互いに顔を合わせることもなく時が過ぎていき、私は日々貴方に想いを募らせ恋焦がれているのに、貴方はいつも変わらない。
そんな状況に堪え兼ねた私は、意を決して貴方に想いを告げました。
・・・応えは「喜んで」でした。
それを聞いた瞬間、嬉しさでどうにかなってしまいそうでした。
それから、私達はいつも一緒にいました。
始めから夫婦だったんじゃないかと思うくらい、長い間共にいました。
繰り返される世界の中で、ときにはその世界の人間達に混じり、共に住んでいた時期もありました。
人間と同じように泣いたり、笑い合ったり、人間達が寿命で死んでいくなか、貴方は死んでいく人間達を見て、いつも涙を流していました。
人間が死ぬ様を見るのは、私が世界を終わらせているときにいつも必ず見ている筈なのに、貴方は誰かが死ぬ度に泣いていました。
正直、貴方のそんな姿を毎日見ているのは見ていて心苦しい思いでした。
最初の世界を創った頃から、貴方はよく、好んで小さな島国に降りていき、そこで人間達と住んでいました。
貴方は人間達を愛し、人間達もまた貴方を愛していました。
中でも特に人間の女性は、貴方に対して深い愛情を向けている者が多く、愛に狂って貴方を狙う女性同士で互いに殺しあっているときが多々ありました。
私は同じ女性として、彼女達の想いは分からなくはないですが、私は彼女達みたいに深い愛情を注ぐことはあれ、愛に狂うことはありませんでした。
それだけならまだよかったのですが、人間だけじゃなく、何処で出会ったのか、妖怪や妖獣まで貴方への愛に狂う女性が多かったのです。
正直、こればかりは私としてもどうしようもありませんでした。
何度か世界を創り直したある日、私達の予想がつかなかった出来事が起き、たった一組の男女を残して、人間達が死んでしまいました。
「その出来事が、今と何か関わりがあるのか?」
『ええ、かなり関わり深いです。本人達は知る由もないですが。」
たった一組の男女を残して人間達が滅亡したある日、貴方はその二人にそれぞれ、自身の名と似た名をつけました。
男の方には【伊邪那岐尊】、女の方には【伊邪那美命】と。
「伊邪那岐に、伊邪那美・・・だと?!」
『もちろん、今の世界の彼等とは似て異なる存在ですが、彼等は正真正銘、今の彼等と同じ存在です。』
名を与えられた二人は、後に貴方が好んで住んでいた島国を護る主神として、世に名を連ねるようになりました。
そして伊邪那岐と伊邪那美が事実上誕生した世界が終焉を迎える頃、貴方は彼等の存在が消滅するのを酷く拒み、どうにかして彼等を次の世界に連れてこれないのかと、私に話しを持ちかけてきました。
私が『一度消滅した世界の生命は何であれ、そのまま次の世界に連れてくることは出来ない。』と言うと、貴方は来た時よりも更に哀しそうな顔をして戻っていきました。
「どうして、その生命を連れてこられないんだ?多少なりと形を変えれば、連れてこられるんじゃ?」
『そのまま生命を連れてくれば、新しい世界の輪廻の輪に古い世界の生命が入り、新しい世界の輪廻の輪が乱れ、それが原因で全ての生命が消滅する原因になりうるからです。』
「じゃあ、魂魄はどうなんだ?アレでも駄目なのか?」
『確かに、魂魄なら可能性はありますが、アレは一つの生命が形を変えただけ、更に生を終えた生命なのです。ですから、魂魄にして連れてくるとなれば、彼等を殺さなくてはならない。しかしそれをしたら貴方が余計に悲しんでしまう。それだけは避けなければならない為、結局はどうにもならなかったのです。』
そして、世界が終焉を迎え、必然的に消滅していった彼等を見て、貴方はただひたすら、「ごめん二人共・・・ほんとうにごめん・・・」と泣きながら謝り続けていました。
それからというもの、貴方は私の声も届いてない様子で、ずっと塞ぎ込んでいました。
自分の子供同然に見守ってきた二人を亡くした貴方の気持ちは理解できてましたが、しかしだからと言っていつまでも次の世界を創らないわけにはいかず、なんとか貴方を以前の状態に戻そうと色々手を尽くしましたがどれも上手くいきませんでした。
「・・・ちなみに、どういうことをしたんだ?」
『寝ている貴方と交わったり、起きているときにも抱きついたり、人間達がやっていた裸エプロンというのもやってみたり、他にもコスプレとかいうので、制服やらナース服とやらを着てみせたりしました。』
「凄くいい笑顔でなんつーことを言っとるんだ君は・・・」
そうして私が四苦八苦していると、ふと貴方は木の葉をとり、それを口元に持っていき、草笛を吹くようになりました。
そのときの音色は、まるで貴方そのものを表しているようで、優しさと、強さと、哀しみと、様々な感情や想いが籠っていました。
貴方が奏でる草笛に、私は何もかも忘れたように聞き入っていました。
貴方が地上で草笛を奏でれば、その音色に惹かれるように、地上の動物達が集まっていってました。
なかには、妖獣達まで来たりしていました。
「そんな昔から、俺は草笛を吹いていたのか・・・」
『当時から貴方が唯一好んでいたものでしたからね。草笛を吹いていない日がなかった程、貴方の心の癒しになっていたのでしょう。』
そうして月日が経つにつれ、貴方は徐々に生気を取り戻していきました。
毎日のように地上に降りては草笛を奏でる。
貴方のそんな風景を見ている私は、それだけでとても嬉しくなりました。
そんなある日、貴方がいつものように草笛を奏でていると、一頭の麒麟が貴方の近くに寄ってきました。
そして何を思ったのか、貴方はその麒麟に触れ、その後に、その麒麟を自分の式にしたいと言ってきました。
私が了承すると、貴方は麒麟に【神楽】と名付けました。
そして貴方が神楽を式にしたすぐ後に、神楽に人型になれるのかと聞いたところ、神楽はそれに応え、私達と同じ人型になったのです。
人型になった神楽は、自分は存在自体が、元々人間達の空想による存在しないものだった。そこに貴方の音色が影響し、こうやって実態を保てるようになったと言っていました。
「まさか、ほんとうに俺が神楽を創ってたとはな。」
「ご主人様が居なければ私はこうして喋ることも、存在することもありませんでした。ですから、ご主人様が記憶を無くしたと知ったときはとても悲しい気持ちになりました。」
『貴方の草笛の音色には、何か特別な力でもあったのでしょうね。何回聞いても飽きることがありませんでしたから。』
神楽を式にしてから、貴方は塞ぎ込む前よりもかなりよくなりました。
おそらく、自身の心の癒しと支えを手に入れたことによる安心感や喜びからきていたのでしょう。
それからまた、何回も世界を創り直し、どの世界においても最後には消滅していく人間達に対して涙を流すのだけは変わりませんでした。
その光景に最初は色々戸惑うかと思われた神楽は案外平気そうな顔をしていました。
気になって聞いてみたところ、草笛の音色から様々な想いが読み取れていたから慣れていると言っていました。
また、自分よりも貴方の方が苦しい想いをしているから我慢しているとも言っていました。
「また随分と迷惑を掛けてたみたいだな。」
「いいえ、ご主人様と同じ苦しみを感じることでご主人様の心が少しでも和らげることができれば、私は何も辛くありません。」
そうして時は流れ、貴方はいつものように地上に降りるようになり、神楽も貴方についていってました。
貴方が地上に降りなくなっていた間、地上の動物や妖獣達はかなり不安定な状態にありました。
中でも力の強い妖獣程、貴方に依存するほどでした。
そのほとんどは音色を聞いたら安定した状態に戻りましたが、一匹だけ、元に戻らない妖獣がいました。
その妖獣は透き通るような純白の毛と、九本の尾を持つ妖狐でした。
「・・・まさかその妖狐は・・・」
『御察しの通り、久遠です。』
「ご主人様の優しさは、私たちのような妖怪にはかなり毒なのですよ。」
「妖怪は力が強いほど、愛情に飢えているのです。そこにご主人様程の深く優しい愛情が入れば、必ずその優しさに溺れる者が出てきます。」
『そして一度でも貴方の優しさに触れてしまった妖怪は、また貴方の優しさに触れていたいと、貴方を求めるようになり、その想いが強い妖怪程、心を病む人が多いのです。』
「・・・もう何も言わないぞ。」
その妖狐を見た貴方は神楽のときと同じように、その妖狐を自分の式としたことで、なんとか元に戻すことができました。
そして貴方はその妖狐に【久遠】と名付け、久遠もまた、貴方の影響で人型になれるようになったらしいです。
二人の式と共に地上で暮らし、争いもなく、平和な日々が続いていました。
このまま静かに暮らしていけたらいいと、自らの役割を忘れるほど、平和でした。
ですが、それも長く続きませんでした。
ある日、貴方がいつものように地上に降りていると、無防にも人間達が貴方に対して敵意を剥き出しにして襲い掛かってきました。
しかし、貴方を守ろうと集まっていた妖怪や妖獣達が、人間達に襲い掛かり、人間と妖の大規模な戦争が始まってしまったのです。
そしてその波紋は徐々に広がっていき、遂には世界規模にまで広がりを見せました。
その大戦は約数百年に渡って続き、後に人妖大戦と呼ばれるようになりました。
「そんな大変なことが・・・」
『常に妖が付きまとっている貴方を見て、畏怖から恐怖へと変わってしまったのでしょう。例え自分達が信仰している神が相手でも、その側には妖怪の姿。人間達には信じられない光景だったのでしょう。』
数百年続いた人妖大戦が終わりを迎えた頃、世界中のありとあらゆる場所が人間と妖の死体で埋め尽くされていました。
その土地に建っていたであろう建物は跡形も無く崩れ、土地は焼け、山は消滅し、海は蒸発していました。
本来なら、まだ数千億年先になる世界の終焉が、まだ百億年足らずのうちに消滅してしまったのです。
そしてその原因を作ったのが自分だと、貴方は自らを責め続け、以前よりも深く塞ぎ込むようになりました。
「何ていうか、我ながら随分と自己嫌悪が強いんだな・・・」
『貴方は深い愛情を与え、暖かく包み込んでくれる代わりに、一度負の思考に入ってしまうと、私でさえどうしようもありませんでした。』
「あぁ・・・確かにそうだろうな。」
久遠の声も、神楽の声も届かず、私の声にも反応しなかった貴方は、ある日突然私達の前から姿を消しました。
それに気が付いたのは貴方がいなくなって新しい世界で人間達が生まれた数億年後のことでした。
貴方の代わりに地上に降りるようになり、私は色々な場所を回るようになりました。
貴方がいなくなったことですっかり気落ちしていた私の前を、ふと一人の人間が通りました。
忘れる筈がない、間違える筈がない貴方の力を感じました。
喜びに浸っていたのも束の間、私は逸る気持ちを抑えて貴方を呼び止めました。
突然名前を呼ばれ、こちらを振り返った貴方が私を見て言った言葉に、これ以上ない悲しみを覚えました。
「その言葉っていうのは・・・」
『どなたですか?貴方はそう言いました。それこそ、私の事を知らないとでも言うように・・・』
それから私は、貴方がどうして人間になったのかわからぬまま、幾つも世界を超えて、その度に貴方の側に降り、ずっと貴方を呼び続けていました。
しかし幾度繰り返そうと、貴方の記憶が戻ることはなく、貴方が生まれ変わる度に記憶が戻らないまま、人間としての生を終えるばかりでした。
「・・・なるほどね。」
彼女、ユガの話しを聞いている間ずっと引っかかっていたこと、話しが進むに連れて、空いた枠を埋めるように、段々とはっきりしてきた。
もうほとんどの記憶は取り戻せた。
だが、あと一つ・・・あと一つ何か大切な・・・
ズゴゴゴゴゴ!!!!
「っ!今のは?!」
『おそらく、世界樹でしょう。元々これを使ってこの世界を終わらせるつもりでしたし、私の管理から外れて行動することもありえます。』
突然の地響に慌てることなく、彼女は平然と言い切る。
「何を悠長に言ってるんだ!君が動かしたんだろ、どうにか止められないのか?!」
『何故止める必要があるのです?私は貴方の記憶が戻ればこの世界などどうでもいいのですよ?』
まさかと思った、まさか彼女からそんな言葉が出るなんて思わなかった。
「・・・そうか、やはり君もそっちだったんだな。」
彼女だけは違ってほしかったが、仕方ない。
『?何を言ってるのですか?』
わからないといった顔でこちらを見るユガ。
そんなんじゃ、これからの俺の隣には立てないな。
「知らぬ者に言う必要はない。」
『桜華?いったい何を・・・』
突然世界樹の核へと歩き出した俺にユガが問う。
「何って、世界樹を止めるんだよ。」
『正気ですか?今更止めることなんてできませんよ。』
そんなんじゃ、これからの俺の隣には立てないな。
「できるさ。久遠、神楽。」
「「はい、ご主人様」」
「彼女を連れて今すぐここから出て行け。」
「「わかりました。」」
俺の言葉によってユガの元へと向かう二人。
やっぱり、二人は俺が何をしようとしてるのかわかってるみたいだな。
『桜華?!これはどういうことですか?!二人共離しなさい!!』
「「できません、ご主人様の命ですから。」」
『何をしようと言うのですか?!桜華!!』
「・・・行け。」
『嫌!嫌です!!せっかく貴方に会えたのに、ようやく・・・ようやく貴方が記憶を取り戻してきたばかりなのに・・・!!』
少しずつ、外へと向かって連れて行かれているユガが、駄々をこねる子どものように、嫌々と首を振りながら凄い勢いで泣き出している。
『こんなの・・・こんなのって酷いです。私はずっと貴方の為だけに色々としてきたのに・・・どうして、どうしてですか?!桜華!!』
泣きじゃくる彼女の問いに答えるように、取り戻した記憶の中の、あの頃の俺の姿へと変える。
「・・・ごめんな、これは俺の罪なんだ。俺が今まで犯してきた、世界を、人間達を殺してきた罪。そして罪は償わければならない。だから、これは俺が止めるのさ。」
『っ!!桜華・・・貴方まさか記憶が・・・』
「・・・さよなら、今までありがとうな。君と過ごした時間は、絶対忘れないよ。」
『っ!!嫌!そんなの嫌です!桜華!桜華ぁぁぁ!!!』
その言葉を最後に、遂に外へと連れ出されたユガの声が、痛く胸に突き刺さった。
だけど、悲しみに耽る暇はない。
「さて・・・それじゃあ、星に華を咲かせようか!!」
核へとたどり着き、世界樹を止める為に自らの神力を核へと流し込む。
「はあぁぁぁぁぁ!!!」
少しずつ、ゆっくりと世界樹に力が戻ってきているのがわかる。
「ぐぅ!やはり、相当な量を消費するな・・・」
余りにも膨大な量を送り続けているせいか、すぐに立ち眩みが起きてしまう。
だが、ここでやめるわけにはいかない。
「もう少しだ・・・もう少しで、世界樹が!星に華が咲く!!」
核へと流し込むこと僅か5分、しかしこの5分で、既に自身の半分の量を消費している。
「これで最後だ!さぁ、世界樹よ。この星に華を咲かせよう!!」
核へと流し込んだ神力が、全て世界樹へと流れ、世界樹が元に戻っていってるのがわかる。
そして、世界樹から眩い光が放たれ、全てを包み込むように広がっていく。
そして光は一つの形を作っていく。
ーーーー月
「ねぇ、永琳。あれはなに?」
「あれ?・・・あれは、華?」
ーーーー向日葵畑
(ユウカ、ユウカ。オハナダヨ、オッキナオハナ!)
「あらほんと、凄く大きな華ね。とても力強くて、優しい。だけど、どこか悲しい華ね。」
ーーーー???
「お?神奈子ー、来てみなよ。」
「なんだいまったく。せっかく今から飲もうと思ってたのに・・・」
「それなら、最高の摘みがあるじゃないか。ほら、見てみなよ。あの華。」
「華ぁ?・・・あぁ、なるほど。これは間違いないね。」
「やっぱり神奈子も気づいちゃう?神奈子はあの人にべた惚れだもんね〜。」
「そういう諏訪子だって、あの人にべた惚れじゃないか。人のことは言えないよ?」
「当然さ!わたしが唯一惚れた人なんだ。嫌いになるわけがないよ!」
「私だって同じさ。あの人に関しては、例え諏訪子が相手でも譲らないよ?」
「臨むところだよ?神奈子。」
ーーーー世界樹周辺
「ご主人様、やはりそうなされましたか。」
『・・・これは、華?そう、そういうことなのですね。』
桜華、やはり貴方は私の夫ですね。
『星に華が咲くとき、世界は終焉へと導かれる。』
「そして華は光り、世界は始まりを告げる。」
『私が今までの私達の関係を全て終わらせ』
「俺がこれからの俺達の関係を始める」
『愛しい貴方。』
「愛しい君。」
「『我等の関係は、決して変わることがなく、我等は常に共にあり』」
「世界の始まりと」
『世界の終わりを』
「『共に見届け、導かん。』」