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桜ノ雨

幼くて傷つけた~恋の実2~

「待ってたのに…ずっと」


ソノヒトは、目に涙を浮かべて言った。



*♪*



ソノヒトの名前を知ったのは、おとどしの夏の大会の前だった。


1年だった俺は部活(野球部)の先輩に指示され、他の1年と共にクラブ棟の前の広場に集められた。



ソノヒトを見たのは、3度目。

名前はおろか学年も知らなかった。



ソノヒトと話をしていた去年の応援担当の先輩-野村先輩が、不意に俺を呼んだ。



「こいつ国貞智昭(くにさだ ともあき)

いい仕事するから。」



そして、突然ソノヒトに紹介された。



「彼女は、吹奏楽部のパーカッション(打楽器)のリーダーで応援の担当の矢野さん。厳しいよ(笑)」



「野村クン!?

変な印象持たせないでくれる?

2年の矢野悠里(やの ゆうり)です。

確かに人使い荒いけど、よろしくねー。」



そして、ソノヒト(矢野先輩)が自己紹介してくれた。



「早速だけど連絡先教えて?」



「すいません。

部室から取ってきていいっすか? 」



「あーそうよね。その格好(練習着)じゃ持てないよね。

野村クン?いいよね?」



「仰せのままに(笑)」




という訳であっさり気になっていた矢野先輩の連絡先を入手。



で、なんで連絡先が必要だったかというと…




ぴろりん



彼女(矢野先輩)専用のメールの着信音の音だ。



---

明日の全校朝会は、夏の大会の壮行会。

7:30に3人よろしくね♪

---



こんなメールが届くからだ。



慣習として、吹奏楽部が楽器を動かす時や人手が必要な時に手伝うことになっているらしい。

その代わりに、公式戦だけでなく練習試合やそれこそ普通の練習の時にも野球部が要請すれば、応援してくれるらしい。

あと合同で花見や花火大会・クリスマス会や卒業祝賀会をやるらしい。最もこれは有志らしいが…


吹奏楽部の先輩と付き合っている先輩が多い理由が分かった。

これだけイベントを一緒にやれば自然と仲がよくなるわな。



そうゆう俺も夏休みが終わる頃には、吹奏楽部員が呼ぶように矢野先輩をユーリ先輩と呼ぶようになった。

逆にユーリ先輩を始めとする吹奏楽部員からは「ともくん」と呼ばれるようになった。



そして冬が始まる頃には、なんとなく朝通学中にユーリ先輩にメールを送ってたら、その日のうちに返事が返ってきてた。




そんな感じに緩く繋がっていたが、春が来て学年が上がり、夏到来。

先輩は文化祭で事実上引退し、それぞれ応援担当も引き継いでしまうと緩かった繋がりはますます緩くなった。



吹奏楽部のクラスメイトが言うには、どうやら結構難しい大学を受けるらしい。



そんなこと聞くと勉強の邪魔になっては…と思いメールも送らなくなった。



心に隙間ができたようだったが、部活に専念することで気が付かない振りをした。




でも、ユーリ先輩を見かける度胸は高鳴った。





恋の実は確かにここ(オレの中)にあった。





*♪*





ユーリ先輩に久しぶりにメールを送った。

明日二人で会えないかと。



でも、応とも否とも返事は来なかった。






*♪*





次の日は、とてもいい天気だった。

青というより白い空だった。




「ユーリ先輩忙しいかな?」



相変わらずメールは、返ってきてない。




それも無理はないか。

今日先輩は、卒業していく。

合同の卒業祝賀会には参加するだろうから、直接聞こう。



だが、その考えは、甘かったみたいだ。

厳しいけど面倒見がいいユーリ先輩は、吹奏楽部員に囲まれていた。

そう、常に。

野球部(オレたち)が近づきにくいと思うほどに。



結局、何も言えないうちに祝賀会も終わってしまった。

幹事だったオレは、1年に片付けの指示を出しながら盛大なため息を吐く。



この恋はこれまでか…




不意に風が通りすぎ



「片付け終わるまで、校内で時間つぶしてるから」



声が降ってきた。



ん?

この声!?




もう姿は見えないけど、確かにユーリ先輩の声だ。



がぜんやる気が出た。

どんどん指示を飛ばし、がんがん働き予定よりも少し早く解散できた。




「先輩にメール…」



そう言えば、ずっとピアノの音が聞こえてた。

明日試験が始まるから在校生ではないし、卒業生のほとんどがまだ受験真っ只中のはず。




「よしっっ」



四階まで駆け上がり、音楽室のドアをそっと開ける。



ビンゴ!



まだ上がり気味の呼吸の音が聞こえないよう圧し殺し、先輩が弾くピアノの音に耳を傾ける。

うまいかどうかは分からないけど、綺麗な曲だった。



ふと視線を上げた先輩が、目を丸くする。

少し恥ずかしそうに言う。



「来たなら、声かけてくれればよかったのに」



「気持ちよさそうに弾いてたから。

なんて曲です?」



その問いには、苦笑いしか返って来なかった。



「久しぶりね?メールも会うのも。

また背伸びてない?」




その問いには、苦笑いで返す。

とりあえず、




「卒業おめでとうございます。

これ気持ちだけなんすけど…」



「ありがとー

開けてもいい?」



手渡したのは、地元では有名なお菓子屋で買った焼菓子の詰め合わせだ。



「わぁ!ありがとー

ここの好きなんだ!!」



先輩は満面の笑みをオレ向ける。


存じとります。

前に一度だけ、そうゆう話をしたのを覚えているから。


どうか次のセリフを聞いても、その表情でいてくれ。



「好きでした。ユーリ先輩のことが」



願いはむなしく砕けちり、先輩は困った顔をした。



「…か、過去形?」



上目遣いに聞いてくるその姿に悩殺されそうですよ、先輩。

とは、言わず



「いえ、進行系で。

ユーリ先輩が、好きです。」



見上げられていた目は伏せられ、小さなそっぽ向かれた。




「待ってたのに、ずっと」




先輩の目には、涙が浮かんでいる。



「どうして、メールをくれなかったの?

待ってたのに…」



とうとう涙が溢れ出す。



「勉強の邪魔になりたくなかったから」



「邪魔かどうかは私が判断するわ。

むしろ急に来なくなる方がよっぽど気になった。

送っても送っても返って来ないから、諦めなきゃいけないと思ってたの。

私は、さび…」



「悠里」



はっっと顔を上げた先輩と視線が絡む。



「答えが聞きたい。

オレは悠里が好きです。

悠里は?」



絡んでいた視線が外され、焼菓子を入れた袋を持つ手が固く握り締められた。

ひとつ深呼吸したユーリ先輩が、再び視線をオレに向ける。



「好きよ。

でも、連絡してくれない人は嫌いよ」



少しからかいを混ぜた笑顔ごと抱きしめる。



「すいませんでした。

以後ないようにします」



そっと唇を落とそうとしたら、先輩の人差し指で止められた。

不満な顔して指を離せば



「ダメよ?

明日から試験でしょう?

早く帰って勉強しなきゃ」



とダメだし。

恨みがましく見つめると苦笑いされた。



「同じ大学を受けるでしょう?」



「あー?もう決まってんの!?」



〇大学(地元の国立)

推薦で去年のうちに決まってるよ。」



そうだった。

この人頭いいんだった。

学年のトップクラスにいられるくらい。

ん?



「去年のうち?聞いてない…」



「あまり言いふらすなと言われてたからね。

クリスマスは無理だったから、ギリギリね」



どうやら、心配は無用だったわけだ。



「だから、今日はこれからお家帰って勉強なさい」



ユーリ先輩がにっこり微笑む。


でもな、試験期間以外は部活があるし…

ん?今日はってことは!



「先輩、明日2教科なんすよ。

その後ご飯食べませんか?

で、英語教えてください」




「喜んで」



先輩の顔の笑みが深まる。



でも、ダメです。

腕の中でそんな可愛い顔されると。

少しだけ狼になっていいですかね?




*♪*



幼くて傷つけた

きっとこれからも傷つけるだろう

でもその都度大人になっていくよ

あなたのために

これ以上傷つけないために



悠里が弾いてたのは、ショパンの別れの曲という設定だったり

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