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9 陰湿

押し寄せていく圧力も知らない回りに一人はただ傷が刻み込まれる

僕が教室に戻ってきたのは一時限目から20分たったくらいの時間だ。

教科は現代文。

僕は先生の前に行き。


「すいません、遅れました」


と小さく会釈した。

僕は先生の反応を見ずに自分の席に向かう。

現代文担当の國石は一人オドオドしていた。

細身で身長が少し高めの女性教師。

いや細過ぎる。

そしてもっとも特徴的なものが出っ歯な事。

性格は内向的であまり強い口調にならない教師。

〝金崎の絶好のカモ〟だ。

授業中のミスも他の教師に比べれば多く。

クラスの何人かが騒いだら注意もしてくれるが口調も全く厳しくない。

金崎は教師のほぼ半数にあだ名をつけた。

國石のあだ名は何だったっけ。

……。

クンニだ……。

気持ち悪いな金崎のつけるあだ名。

これで笑える奴も多いんだから僕がおかしいのかな?


僕は自分の机の前で座ろうとしたが……。

やめた。

僕は少しの間立ち尽くした。

僕の机には夥しい数の落書きがあった。

絵が描いてある訳ではない。

文字だ。

大きく濃くそして汚く書いた文字。

小さく汚い文字。

大きくが薄く書いてある文字。


〝とっとと死ね!!〟


〝生ゴミ処理機(笑)〟


〝かずき! らめぇぇぇぇ!! byまい☆〟


〝ぼっちに充実〟


〝山本は補充要員専用オナホ〟


〝人殺し!!〟


直接胸を突き刺す言葉からネチネチと書かれている文字。

僕は黙って机に座る。

だが。

僕はどうしても机から目を離せなかった。

どうせ金崎達のやった事何だろう。

そう思えれば楽なのだが今日はそうは思えなかった。

どれもこれも筆圧が違うのだ。

女子が書いたんじゃないかと思わせる筆圧の言葉もある。

金崎達がここまで器用な事が出来ただろうか。

僕はそう考えると胸が苦しくなった。

僕は自分の喉の皮を引っ張る。

息苦しい。

少しでも喉の通りがよくならないだろうか。

僕は机を文字を人通り見た後筆箱から消しゴムを取ろうと手を入れた。

紙ケースの感触を感じそれを取り出した。

コロン。

僕は消しゴムを取り出した時に一緒に筆箱から何かが出てきた。

机に転がっている。

見たところ首の無い蜂の死体だ。

昨日全部取れなかったのか……。

僕は手で机の上を払いおもむろに机の上を消しゴムが駆けた。



昼休み。

僕は机で弁当を食べる事にする。

とは言っても今日はメロンパン一個だが。

今日は台所で見つけて誰も食べないだろうと踏み持ってきたわけだ。

家の近くのセーコマで買ってきたのだろうか。

僕は左腕を鞄の中に突っ込み袋に詰められたメロンパンを取り出す。

僕は両手で袋を開ける。

バスッ。

袋を開けて一気に空気が出た。

僕は袋からメロンパンを少しだけ押し出す。

何日か経っているのだろう。

メロンパンの皮は固く見えない。

……。

なんか落ち着かない。

気のせいか?

視線を感じる。僕はメロンパンから目線を離し少しだけ目線を泳がす。

僕の右前の席。

女子か……。

その女の子は僕のメロンパンを凝視している。

身長は低めでショートカットの女の子。


「珍しいなお前がパンなんて」


後ろから声が聞こえる。

僕は振り向くとそこには肥えた男がいた。

金崎だ。


「別にいいだろ」


僕はそう答えた。

金崎は僕の後ろの席に座る。

嫌な事に金崎の席は僕の真後ろだ。

そして何事も無く話してくるコイツがたまらなく腹立たしい。

僕が目線を元に戻した時女の子はいなかった。


「あっつい……」


後ろから金崎の声が聞こえる。

だからどうした。

周りの皆は汗一つ垂らしていない。

僕もそうだ。

しかし金崎だけが例外だった。

額から脂汗がにじみ出ている。


「一輝、マジあっつい……」


金崎は右腕で汗をぬぐい取った。

だからなんだ。


「汗臭い一輝」


それがどうした。


「汚いんだよ一輝!」


急に金崎が怒鳴り散らした。

わけがわからない。


「お前臭いんだよ」


どう考えたってお前のが汗臭い。


「臭くねえよ」


僕はメロンパンにかじりついた。

モサァ。

パンが噛み切られ口の中で甘い香りが充満する。


「あぁ、きめぇ」


金崎はそう言うとポケットから何かを取り出した。

あれか?

ちっちゃい頃遠足とかでよく見た濡れティッシュみたいなやつ。

金崎はそれで体中を拭き始めた。


「これでスッキリしたわー」


そりゃそうだろう。

体中スースーするだろう。


「それ体拭くもんじゃねえだろ」


「なわけ、…………あ……」


体を拭くタイプもあるのかも知れない。

しかしだ。

金崎の持っているものは名前の下にちょっとした大きさで手拭き用と書いている。


「……意味わかんねぇ」


これには同情するよ。


「ふっざけんなや」


バッ。

そう言いながら僕の手にあるメロンパンを奪う。


「あ……」


急な事に僕は間抜けな声をだした。

金崎は自分の体を拭いた濡れティッシュをメロンパンの袋に押し込んだ。


「はぁ!? 何やってんだよ!?」


僕はメロンパンを奪い取る。

しかし金崎はメロンパンの上を潰すように押し込んだためもう食べられるものでは無くなった。


「……」


沈黙。

ただ沈黙する。

今日これしか無いのに。


「ざまぁ」


金崎は笑いながら机を立ち教室を出た。



帰りのSHRの前のちょっとした休み時間。

今日は散々だった。

昼全く食べれてないや。

僕はそう思いながらトイレで用をたす。


〝君はこの世界にヒーローが存在すると思いますか?〟


急に浮かんできた言葉。

朝の警察の人の言葉だ。


「僕にどうしろと……」


僕は目線を右ポケットに移した。

この力は一体何なんだ……?

用をたし終えた僕は手を洗い教室に向かう。


「アイツ人殺しだよな?」


「ヤバい殺されるんじゃないの……」


「ぼっちだぼっち」


ただ廊下を歩いているだけなのに何だこの扱いは。

しかし僕も変わったと思う。

こんなに強気で物事を考えていただろうか?

それとも最近の衝撃が強過ぎて追いつけないのか。

どちらでもいい。

僕は教室に入る。


「ん?」


僕は自分の机に人が集っているのを見た。

金崎達だ。

また何か書いているのだろう。

僕は机に向かう。

その歩行はいつもより早い。


「きたし」


米村が気づきそれを見て皆が笑い出した。

僕は机の上を見る。

机の上には一匹のハエがいた。

正確に言えばハエの死体だ。

よくこんなものばかり取ってくる。

「ほら、食べろよ」


金崎がそう促し席に座らされる。


「喰わねえよ」


当たり前だ。

コイツら当たり前に僕がハエを食べると思ってやがる。


「そうか……食べづらいか……」


いや食べづらいじゃなくて食べねえよ。

ジャラッ。

よく聴いたことのある音。

僕の筆箱だ。

革製のよくある筆箱。

米村の手にはそれがあった。


「何で持って――」


ジャララッ!

僕の机の上に筆記用具やら消しゴムが転がる。


「何散らかしてんだよ」


僕は米村から筆箱を奪い取り机の上にある筆記用具を筆箱に入れる。

僕が赤のボールペンを取ろうした時だった。

となりで金崎が僕の机から定規を拾う。

そして。

グニィ。

僕の机の上にいるハエをその定規で押しつぶした。


「きたねえ」


「いやマジで止めろや……」


僕は周りの筆記用具を拾う。

ウヌッ。

僕は不意に目線をハエの方に移動させた時だった。

ハエの中から白い何かがうねっていた。


「うわぁっ!!」


皆が机から離れる。

僕も例外ではない。

僕は椅子をずらし少し距離を置く。

蛆だった。

気持ち悪い。

そう思ったのは僕だけではなかったようだ。

金崎もこうなるとは思っていなかったようだ。

顔がひきつっている。


「いい加減にしろや、てめえ!!」


僕は金崎の胸元を両手で掴む。

このまま絞め殺してやろうか……。


「離せよ、人殺し」

金崎が笑いながら答える今日一番の醜悪な面をしている。


「人殺しが手をあげたー!!!」


金崎が大きな声で叫ぶ。

クラスが一気に騒がしくなり僕の周りを囲む。


「いい加減にしれよ兵藤!!」


「麻衣ちゃんみたいにまた殺すの!?」


「何でお前がこんな学校来てんだよ!!」


「補充要員はお呼びじゃありませーん!!」


周りの皆が怒鳴り出す。

そして思い出す。

机に書いてあった文字を。


〝人殺し!!〟


〝帰れ!!〟


〝迷惑だから消えて〟


そうか……。

今日僕の机にあった文字は金崎達〝だけ〟じゃ無かったのか。

今日はクラスの皆が僕の敵だったんだ。


「今日からお前はウジ虫だ」


金崎は持っていた定規で左眉の少し左を思いっきり突き刺した。

ズッ!


「う゛ぁ゛っ!?」


僕は金崎から手を離し膝をついた。

僕は左手で刺された部分を抑える。

ズキン!

ズキン!

ズキン!

僕は左手から溢れ出た液体を見て思う。

誰も助けてくれない。

そうだ。

何を勘違いしていた。

麻衣を見ていて何かが変わったか?

現実を見ろよ。

これが〝今〟なんだ。


〝この世にヒーローなんて存在しないんだ。〟


僕は床についた血液を見て悟った。

右手で僕は右ポケットの中の携帯を握る。

コイツは〝俺に〟とって最悪の疫病神だ。


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