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8 調査

この世界は着々と狂いだしていく

僕は今自分の席に座っていた。

クラスのみんなは僕から机一個分離れて僕を睨む。


「人殺しだ」


「何で学校いんの?」


「ぼっちリーダーじゃん」


聞こえるか聞こえないかぐらいの声が呟かれる。

僕は聞き流した。

今は考えたくない。

苦しいだけだ。

だけど全てを聞き流すなんて器用な事は出来なかった。

〝人殺し〟。

その言葉が頭をよぎる。

僕は伏せる。

目蓋を閉じれば浮かぶ惨劇。

両腕を飛ばした少女。

肉の塊となり喰われた女性。

なんも素振りも無く踏み殺された男性。

僕の助けるために光となったクラスメート。

そして……。

最後まで諦めないでビルに押し潰され言葉だけ残した……僕が初めて愛した人。

噛み締める。

自分の無力さを。

もう誰とも関わっちゃダメだ。

それだけで僕は相手を不幸にする。

僕はもう生きるのがツラい。

死にたかった。


「あ、人殺しだ」


ザワッ!

周りが一気に騒ぎ出す。


「何だよ……金崎……」


沈黙を打ち破ったのは金崎だった。


「何でお前みたいな人殺しが学校いんの?」


金崎は汚い笑いをしながら質問してくる。

僕は黙る。

何も喋りたくない。

言ってどうする。

意味がないじゃないか。

お前が昨日余計に騒がなければ僕たちが学校を早退する事は無かったんだ。

僕は体を持ち上げる。


「……っつうか、昨日のあれ、どういうつもりだよ」

そう言いながら僕の机に座る。

汗臭い。


「何がだよ……」


僕は背もたれに体を預けるように座る。

動揺を隠すように冷静に答えたのは今考えれば最悪の選択をした。

だけど今の僕にはそれほど余裕がなかった。


「お前調子乗るなよ、てめぇみたいなぼっちが馬鹿見てえに投げやがって」


金崎は睨みを効かせドスのある声を聞かせる。


「肩も外れるかと思ったぞ」


そしてこう言った。


「一輝……学校が嫌いになっちゃうかもなー、一輝もう来れなくなるわー」


金崎は笑いながら答える。


キーンコーンカーンコーン♪

朝の鐘が鳴る。

ガラッ。

鐘と共に担任教師が入ってくる。


「朝のSHR始めるぞー、……その前に兵藤、今警察の人たちがいらっしゃってるからすぐに相談室に行ってきなさい、正直に喋るんだぞ」


担任は僕を睨みつける。


「じゃあ後でな、ぼっち」


僕は何も言わず前の扉から教室を出た。



相談室。

僕は椅子に座り机を境に40代前後の男性がいた。

黒いスーツで青色のネクタイ。

体は少しふくよかで髪は白髪頭のオールバック。

顔はしわがあるが整った顔立ちをしている。

その顔は少し微笑んでいる。


「兵藤くんですね、ちょっと質問してもいいかな?」


その言葉を聞いて僕は頭を縦に振る。


「じゃあ早速質問しましょうか……」それを聞くと机の上に置いてあった資料を手に取りパラパラと見る。

ピタリと途中で読むのを止め資料を机の上に置いて喋り出した。


「ちなみに私の名前は大岩健人と言います」


喋りながら左ポケットから煙草の箱を取り出す。

しかし目線だけはこちらを向いている。

その目は鋭くとても威圧的な目だった。

僕は動揺したのかどうかわからない。

だけど自然と平静を保っている自分がいた。


「では質問します、兵藤くん何故君は昨日あの時間あの現場にいたんでしょうか?」


僕はただ答えた。

学校であったことを話してもそれは違う問題だ。


「昼休みに学校を早退したんです」


ただそれだけを。

すると男は僕を見つめる。

じろりとした目線に僕は目線を下に向けた。

警察の取り調べってこんな感じなのだろうか。

けど僕にそれを定める術はない。

ただ質問を答えることにしよう。


「早退したのはあれですか……体調不良ですか?」


いまだに目線をこちらに向けている男の声は妙に軽い感じだ。

まるでどうでもいいという感じだ。


「いえ……まぁ、そんな感じです」


教室の話をしたら僕は多分金崎に手を出されたと言われ僕が悪者扱いされるだろう。

今更かも知れないけれどそれはそれでヤだな……


「その時兵藤くん、あなたは一人で帰ったのですか?」


男は僕から目線を外し資料をゆっくりと眺める。


「……いえ……一緒に斎藤と山本がいました」


ここは正直に言わなきゃいけないと思った。

二人の最後を見た責任として。

それを聞くと男はこちらに目線を向けた。


「……それはつまり、あなたはあの二人の最後を見たのですか?」


僕は頭を縦に振ろうと思ったが止めた。


「いえ、見たのは斎藤だけです……山本は途中で警察を呼びに行くと言って先に……」


ここで山本が光の粒になって消えたなんて言えない。

ましてや僕が殺したなんて。


「どうして山本さんが飛び出したのでしょうかねぇ」


男の目つきが最初に比べて険しい。


「わかりません……」


僕はそう答えた。

多分山本の考えでは自分があの化け物を倒して終わらせるつもりだったのだろう。


「現場では斎藤さんの遺体だけがありましてね正直あまりよろしい亡くなり方をしていなかった、しかしですね、山本さんの遺体だけがどうしても見つからないんですよ」


それはそうだろう。

消えたんだから。


「兵藤くん、あなた何か知ってませんか?」


僕は下を向きながら頭を横に振った。

僕が殺したなんて言えない。


「……わかりました、ありがとうございます今日もう大丈夫ですよ」


男は隣の椅子の上に置いていたであろう鞄を机の上に置き、目の前の資料をゆっくり鞄の中に入れた。


「はい、ありがとう御座いました」


僕は深く頭を下げた後腰を持ち上げ扉に向かう。

僕がドアノブを握ったその時だった。


「……兵藤くん、最後に聞いてもいいですか?」


僕は顔だけ男の方に向ける。


「何ですか?」


男は口を開く。


「君は……この世界にヒーローが存在すると思いますか?」


男の表情は本気そのものだった。

試すような言葉。

最初の興味の無さとは違い、その男の目は鋭くそして強く見えた。

だけど僕は現実を知っている。

答えはすぐに浮かんだ。


「ヒーローはいないと思います、〝誰も助ける事が出来ない〟のだから……」


僕はそう言い残し相談室を出た。



相談室から少年が出て行って今この部屋にいるのは私だけだ。

私はそれを機に最初に取り出した煙草の箱の中から一本抜き取る。

さすがに未成年の前で煙草を吸うのは駄目ですね。

煙草をくわえ、右ポケットから100円ライターを取り出す。

カチッ。

カチッ。

シュボッ!

煙草に火を付け一服する。

口から吐き出された煙は最初は見えるがいつの間にかそれは見えなくなった。


「……面白い少年でしたねぇ……」


私はそう呟いた。

あの少年は何かを隠している。

そして半年前ぐらいから密かに起き始めている殺戮事件。

どれも警察が到着する頃には壊れた建物ばかりとなっていた。

世間ではこの話を内密にしあまり捜査もさせてくれない。

国はいったい何をやっているのだか。

〝ヒーローはいないと思います、誰も助ける事が出来ないのだから……〟


あの少年を調べれば何かわかるかも知れない。

この〝少年少女失踪事件〟と。

〝英雄伝〟の正体を。

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