4 悲鳴
覚悟も無いのに知ることほど残酷な事は無いだろう
僕が目を覚ました時、そこは白い天井だった。
周りにはカーテンが引かれており少し薄暗い。
いつの間にか寝ていたのか?
白い枕に白いシーツ。
柔らかいというよりパリッとしたその毛布の間隔がシつも寝ているベッドと違うためくすぐったい気もしている。
シャァァァ!
「目が覚めたかい?」
カーテンを開けて話しかけてきたのは50代ぐらいの白衣の男だった。
髪はボリューム感のある黒。
顔から予想する年齢に比べればその頭には薄い部分が見られない。
伸長は大きい175㎝あるくらいだ。
体型は白衣であまりわからないがやせ形ではないだろう。
「どこ……ですか? ここ?」
僕は白衣の男に話しかける。
「ここは病院だよ、君は破壊されたビルの前で倒れてたんだよ」
男の口からでたその言葉には不自然な単語がでた。
「……破壊されたビル……?」
僕は質問する。
なんだそれは?
そんな言葉生きてて聞くものなのか?
まず破壊されたなんてそんな誰かがやったみたいな言い方されても解体の間違いか?
「破壊されたビルって何ですか……? 解体したビルとか……?」
すると男は不思議そうな顔をしてこっちを見る。
「えっと……何ですか……?」
マズいことでも言ったか。
間違えてたら確かにこの人恥ずかしいよな……。
本当に失敗した……。
「君はあんな所にいて見てないのかい?」
理解するのに時間がかかる。
あんなところ?
ビルの前か?
どうして僕はその壊れたビルの前で倒れていたんだろう。
いやまずどうしてそのビルが壊れたかだよな。
「あの……いったい何が……」
白衣の男が答えた。
それが当たり前のように、
「ロボットだよ、3人の」
「…………………………は?」
何言ってるんだこの人?
ロボットなんて言われてわかるわけないに決まってるだろ?
まずロボットなのに3人ってなんだ?
三体の解体ロボットがビルを取り壊ししてたとかなのか?
「今すごいニュースになってるよ、どのチャンネルもその話題で持ちきりだ」
そんなにすごいロボットがあるのか。
今どきのロボットはすごいんだな。
……おかしいよな?
ロボットがそんなにニュースに出るだろうか。
解体中に事故でも起こしたとかなのだろうか。
「いや……あれはロボットというよりあの中に人間が入ってるみたいな感じかもしれないなあ」
ロボットの中に人間?
しかしロボットといって浮かんでくるあれ。
そうだ。
思い出した。
メタルマンだ。
2人のメタルマン。
青色の英雄。
灰色の悪魔。
ズタズタにされた青色の英雄……。
目の前で青色の英雄が言った言葉。
……。
…………あれ?
なんだっけ?
そういえばあの後どうなったんだっけ?
灰色のメタルマンが出てきてそしたら青色のメタルマンが僕を抱え込んで、空を飛んで、そして……。
「……なんだっけ? 思い出せない」
その先が抜けていた。
すっぽりとその部分がわからない。
その場にいたのはなんとなく覚えている。
思いだそうと考えた。
しかし。
ズキン!
「うっ……!?」
ズキン……!
ズキン……!
急に強い頭痛に襲われた。
僕は目を瞑り頭を抱え下を向く。
「大丈夫かい?」
右肩に熱を感じた。
白衣の男は僕の肩に手を添えたのだろう。
ズキン……!
ズキン…………!
ズキン…………………。
ズキン……。
……。
痛みが和らいできた。
「無理に思い出さなくていい、今はしっかり休みなさい」
白衣の男は兵藤が横になったのを確認し布団をかける。
その男は微笑をかけてからカーテンから出る。
「まだ寝てなさい」
兵藤は頭を縦に振り目を瞑る。
「お休み」
シャァァァァ--
白衣の男がカーテンを閉めようとする。
「あの……」
ァァァ……。
カーテンの音が止まる。
聞こえたのだろう。
その男の視線を感じる。
兵藤は目を瞑ったまま質問した。
「あなたは……?」
男は少し間を空けてから咳払いし呼吸を整え答えた。
「私は江野崎です、ここでは外科、内科等をしています」
その返答に軽く頭を下げる。
そういえば僕はいつ退院出来るんだろうか?
まずどこか怪我したわけではない。
体が所々痛いわけではないしあったとすればさっきの頭痛くらいだ。
聞こうと思い目を開けたが江野崎先生はもういなかった。
それからしばらくの時間がたった。
やることもなくただただ呆然と時間を浪費する。
目の前の景色も白い天井と周りを囲うカーテンだけでなにもない。
ここだけ時間が止まっているみたいだと兵藤は思う。
「今……何時だ?」
ふと考えた。
そして少し寒気を感じた。
本当に何が起きてるかわからないのにただこの場所に一人でいる。
たいしたことないはずなのにそれが少し怖かった。
僕はポケットの中に携帯があるか確かめる。
携帯のディスプレイをみればすぐに時間がわかる。
そう考え手をポケットの中に入れる。
ガサガサ。
しかし何故かポケットの中がいつもより深いと思った。
いつも入れているはずなのにどうしてなのだろうか。
コツン。
……あった。
携帯を取ろうとしたが不意に顔を上げたら兵藤の目の前にあるカーテンの隙間から時計が見えた。
その時計の針が見えたためその手にある携帯をそのままポケットの中に落とした。
「7時半か……」
今は夜の7時半……。
正直夜かわからないが多分そうな気がする。
カーテンで隠れてはいるが時計を見た場所から光が漏れている。
部屋の明かりがついているのだろう。
そんな事をふと思いしかし兵藤の頭はまだ働く。
いつもなら家に帰ってたいしてめぼしいテレビも無いからベッドの中でずっと横になってるんだろうな。
しかし驚いた。
僕の目の前にまさかテレビのヒーローが現れるなんて。
瓦礫の中から出てきた時は本当に撮影かと思っちゃった。
けどなんであんなところに。
ズキン!
「うっ……!!」
さっきより痛い。
頭を抑えてうずくまる。
しかしさっきより頭痛が短い。
すぐに痛みが退いた。
「つぅ……考えるのは明日にしよう」
兵藤は目を瞑りその意識が遠のくのを感じた。
◆
チュンチュン。
小鳥が鳴いている。
どうして鳴いている。
そんな早くからどうして……そうか……。
朝だ。
しかもまだそんな明るいわけではない。
慣れないところで寝たから早く起きてしまった。
「もう一回寝よ……」
目を瞑り寝ようと考えたがすでに目が覚めてしまったので起きることにする。
カーテンの隙間から見た時計。
まだ朝の6時半、起きてる人もいないだろう。
何分かは覚えてないが人が起きてくる時間まで布団の中でぼぉっとしていた。
何か忘れてるような気がする。
大事な事を。
けど思い出せない。
「ダメだ、布団から出よう」
自分でも気分が沈んでいたのが気が付けた。
とりあえず日に当たろうとカーテンを力強く引っ張る。
シャァァァァ!
小さな雲が数えられるくらいの青空。
太陽が雲に隠れていないので僕は直射日光を大いに受ける。
「いい天気だ」
ベッドの横に設置されている棚から病院のスリッパを取り出し自販機で何か飲もうと思い棚の上にある財布を掴む。
大事なものなのにそんなところに置いてあったのかと少し焦った。
スリッパを履き部屋の扉を静かに開けて退出する。
そのまま廊下を歩き自販機を探すことにした。
ここはどこの病院だろう。
生まれてまだ小さい頃は何かの病気でよく病院に通っていたらしいが昔の話、あまり覚えがない。
けどこんな廊下だった気がする。
子供用スリッパで母と手を繋ぎながら歩いた記憶が残っている。
白い廊下を歩き広間についた。
僕だけかと思ったが案外年配の方々が起きている。
ソファでくつろいでいる40代くらいのパジャマ姿の男性。
左腕にギプスをつけている金髪で髭を生やした20代くらいの男性。
僕は近くの自販機で飲み物を買うことにする。
チリン。
チリン。
100円玉と50円を入れ選ぶ。
しかし自販機と言っても病院。
コーラのような炭酸があるわけでもなくそのかわりのように乳酸飲料が並べられている。
目線に入った清涼水を押す。
ガコン!
落ちてきた清涼水を拾い広間にあるソファに向かう。
「ニュースです」
耳に入ってきたテレビの音。
僕は無意識に足を止めテレビの方を向いた。
「昨日の昼、4時頃ターミナルに突如現れたマスクをかぶった3人組が建物を破壊するという事件が起こりました、損傷が激しく倒壊したターミナルおよびビルの破片により死者16名、重傷者24名、軽傷者34名と多大な被害がでています、なお不可解なことに行方不明者が76人と建物の中での救助作業の結果でたそうです」
テレビから流れたニュース。
それを聞いてすぐに頭痛がくる。
「うぐっ…!?」
片手で頭を抑え痛みを堪える。
昨日より頭痛が激しい。
しかし慣れと言うものなのか耐える事が出来た。
「ビルを破壊した容疑者は全員マスクをかぶっており全身金属のスーツという異質な姿で現れた模様で、周りの声を聞くと昔テレビで放映された特撮物の主人公、メタルマンだと述べております、警察はこれに対し小規模なテロ行為と判断し顔が割れていないとのことで市民には厳重注意という対策が置かれたとの事です」
聞いていれば変なニュースだが僕は実際に見ている。
驚きはない。
ズキン!
ズキン!
ズキン!
しかし疑問がある。
「〝三人〟…?」
僕の知らない三人目。
僕の見た〝青色〟と〝灰色〟のメタルマン。
それ以外にもメタルマンが存在するという。
「兵藤さん」
呼ばれて兵藤は振り向く。
そこには白衣の男がいた。
「江野崎さん……」
その時には痛みは消えており頭を抑えるのを自然に止めていた。
「どうかしましたか?」
江野崎が聞いてくる。
今まで頭痛に悩まされたが今は何ともない。
だから兵藤は。
「いえ、何でもないです」
そう答え逆に質問仕返す。
「僕に何か?」
そうだ。
ついでにいつ退院出来るか聞かないとだけどまず江野崎さんの話をきいてからにしようそのあとにでも聞けばいい。
しかしその必要も無くなった。
「兵藤さん君はもう問題がない、退院だよ」
そういう、江野崎の顔はとても無表情だった。
「退院おめでとうございます」
兵藤はそれを聞き病院から出ることにした。
「ニュースです、昨日、昼11時35分に山田正史さん23歳が行方不明となりました、家の中には遺書のようなものがあり、昨日のテロ事件とかかわりがあると警察は考えその点から事件性があるか調べています」
◆
今は病院前のバス停留所。
朝のバスの数は多いから後2分くらいにはバスがくる。
昨日破壊されたターミナル上階は会議室では無くあまり使用されていない物置場のようであったためバスは運転されることになった。
こんなときぐらい休ませればいいのに父さん。
今日は帰ってどうしょう。
プーッ!
兵藤はバスに乗り扉近くの後ろの席に座る。
学校に行くときと違い人がいないと手短に済ましてしまう。
しかしぽつぽつと乗っている人がいる。
支障があるわけではないためそのまま楽にした。
昨日のは何だったんだろう。
今でも夢の中にいるみたいだ。
ターミナル上階にメタルマンが二人。
青色の英雄が……。
ズキン!
「う……」
まただ。
一体何なんだ。
メタルマンに会ってからの記憶がない。
思いだそうとするたび頭痛に襲われる。
人には見られてないようだ。
しかしこのままだと悪目立ちする可能性が高い、バスを止められても困る。
他のお客さんに迷惑だ。
見られないうちに降りようかな。
痛みも頭が痛いだけで歩けない訳ではない。
プーッ!
兵藤はボタンを押した。
そしてすぐに失敗だと気づいた。まだ家まで距離あるぞ……。
しかし押してしまったものは仕方ない。
降りることにしよう。
すると僕に視線が多く刺さった。
何だと思って僕は周りを見渡す。
すると目に入った風景が確証を与える。
〝ターミナル〟
確かにタイミングが悪い。
何故破壊された場所に止まる。
プーッ!
ダメだ降りよう。
兵藤は少し早足で降りることにした。
周囲の目線が痛い。
「ありがとうございました」
兵藤は手持ちの定期券を見せる。
運転手の目線までも痛い。
もはや睨みつけられているみたいだ。
兵藤はすぐに目線を外し降りた。
兵藤は周りを見渡すが誰もいない。
どうしょう……。
次のバス何時だろう……。
そう考えたがすぐに考えるのを忘れてしまう。
兵藤はみた。
破壊された停留所を。
周りには赤い三角コーンとkeep outというテープが囲っている。
警察が置いたままなのか、周りのビルの方に警察がもってかれたのか誰もいない。
兵藤はテープがあるにも関わらずテープをよけて中に入る。
悪いことなのはわかっている。
しかし兵藤はまるで吸い込まれるようにその場を進む。
壊れた瓦礫の上に乗りながら前を進んだ。
そしてすぐに立ち止まる。
端から見れば瓦礫。
ただの瓦礫の山だ。
しかし何かが引っかかる。
何なんだろうか。
ズキン!!
「うぐっ……!?」
まただ。
今までで一番の痛みが頭を襲う。
「ぐうっ……!!あぁぁ……!」
僕はあまりの痛みに膝をついた。
しかしこの痛み……。
思い出そうとしているのではないか?
記憶喪失の人間は自分が関係する場所を見れば自分の記憶をたどり取り戻すことが出来たとテレビでよく聞いた話だ。
「あぁぁ……!!ぐぎっ……!」
痛みとともに僕の脳内に浮かんだ映像。
〝後は……任せたぞ……〟。
青色の英雄が仮面から素顔を見せそんな言葉を置いて……。
そうだ。
思い出した。
「うぐっ……!? う……うあああああああ……!!」
青色の英雄は僕を助け、光になって消えた。
死んだんだ。
兵藤は泣いていた。
僕の救ってくれた人の死。
僕があんなところにいなければあの人は死ななかったんだ。
僕があの人を殺したんだ。
痛みと感情が混ざり合い、四つん這いになる。
「あ……ああ…………あ……………あああああああ……!!」
嘔吐のような叫び。
悲鳴に近いその叫び。
嗚咽を漏らししかし叫ばずにいられない。
思い出さなければよかった。
何も考えないでそのまま家に帰っていれば思い出さなかったかもしれないのだ。
その後悔。
そしてその罪に泣いた。
カシャン!
「うぐぁ……!!あああ……!あああ……!……あ…………?」
ポケットから落ちた。
ポケットから滑り落ちたのは携帯だった。
サークル状の黒い装飾がついた赤い携帯。
〝後は……任せたぞ……〟。
「ああぁあぁあ!!!」
僕はこの十字架を二度と下ろす事は出来ないだろう。
これが僕の狂いだした人生の始まり。
僕はもう。
この戦いの渦から逃れれることは出来ない。