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2 英雄

正義が必ずしも勝利すると一体誰が決めた

バァァァァァァアン!!!

その光はターミナル上層部の壁を貫き粉砕する。

瓦礫は空を舞い、落ちてきた瓦礫から地面をえぐった。

落ちてきたものは瓦礫だけではない。

上層部にあったのだろう業務用の机にパイプ椅子が甲高い音を発し弾け。

瓦礫に破壊された車は爆発し、それに巻き込まれた人々は血飛沫をあげる。


「「うああああああああああああ!!」」


わけもわからずただ恐怖だけが伝染する。

周りの人々が必死の形相でターミナルから逃げるように走り出す。

絶望的な表情をする人々が兵藤を横切り……突き飛ばし……追い抜いた。

だが……。

兵藤は逃げようと思わなかった。

理由はとても理解はしてもらえないだろう。

高揚したのだ。

いつもただなんも面白味もなく痛みと我慢を重ねるだけの毎日から。

突如起きたいつもと違う世界。

いつしか僕は恐怖ではなく興奮を覚えていた。

この辛いだけの現実の中。

それを続けるだけならば今このまま死にたい。

ただ、変わるきっかけが欲しかったのだ。

見たいんだ。

何が起きているのかを。

そのとき兵藤の頭の中にはそれしかなかった。

幸いなことに父親は今日休日であったため心配はない。

しかし今兵藤にはその父親のことなど頭の片隅にも無かった。

兵藤は本能のままターミナルに走り込んだ。

小さいころよく母とターミナルに顔を出しに行ったことがある。

父親がまだ平社員だったときだ。

よく弁当を持っていくよりも早く出かける父親の仕事場に入り弁当を届けに行っていた。

あの時の記憶はぼんやりだが覚えている。

騒ぎのおかげで社員もいなければ警備員もいない。

全員逃げたのだろう。

この期を通じて僕は社員用階段を駆け上がる。

実は初めてだった。

この階段を上がることが。

顔を出していたといってもその時父は平社員。

平社員はターミナル一回にある少し広めの場所に集められ雑務をしていた。

上の階は上層部が会議を設けるために設けた場所のため昔の父や兵藤は入れなかったのだ。

僕は生きてきた中で最速とも呼べるスピードで階段を駆け上がる。

手すりに掴まりながらその足は上の階に上っていく。

茶色の木で作られた扉に手を添えその扉を開ける。

さっきの衝撃のせいだろう部屋は大量の埃で充満していた。

しかしそれ以外に特に変わったことはないためその部屋から出てまた上の階に上がる。

2階、3階と階ごとにある扉を開けて何かあるか確かめ、何もなかったら次の階に上る。

これを繰り返して6階。

みた感じだと被害が一番デカい気がする。

瓦礫に埋まった机や書類の山。

捻じ曲がったパイプ椅子に割れた額縁。

ただそれだけだと思った。

まだ上かと思って扉から離れようと思った時だった。

ガラガラッ!

部屋にある小さな瓦礫の山が崩れた。

瓦礫の中で何かが動いたんだ。

兵藤は中に入る。

煙たいその部屋を突っ走り動いた瓦礫のそばに来た。

兵藤はその瓦礫のそばにいくと次にゆっくりとまたその瓦礫に近づく。

不発したミサイルだろうか……?

小型ジェット機……?

まさか…………隕石……?

だったらどうして動くんだ?

そんな疑問も浮かばずただ漠然と"それ"を見ていた。

早く見たくて我慢できなかった。

ガラガラッ!

瓦礫の中から何かが飛び出してきた。

腕だ。

金属製の白い腕のようなものが瓦礫の中から飛び出してきたのだ。

その腕が周りの瓦礫を掻き分ける。


「なっ!? 嘘!? 宇宙人!?」


未知との遭遇。

そう考えた僕は興奮を抑えられなかった。

心臓の音が高鳴る。


ドクン!


ドクン!


ドクン!


"いったい何が…………"


僕はそう思い口の中に溜まった唾を飲んだ。

ガラガラッ!

それは僕の常識が破壊された一瞬。

でてきたものは昔憧れていた、僕の大好きだった英雄だった。


「……メタルマン」


そう。

目の前には体を金属で覆われた英雄が立っていた。

力強いフォルムに一つ目、あのころの記憶が蘇る。

しかし目の前の英雄は違っていた。

見たところだと所々形が違い、一番の違いが青色であった。

だがそれ以外は全てが変わらない…と思っていた。


「いやだ……!まだ死にたくねえ……!」


ヒーローから聞いた最初の言葉がそれだった。

青色のメタルマンは声を震わしながら肩で息をしている。

何を言っているかわからなかった。

僕の憧れたヒーローがこんな情けないことを言っただろうか。

こいつはメタルマンじゃない。

そう思った時兵藤に気付いたのか青色の英雄は僕に近づき話しかけてきた。


「な!? なにをやっているんだこんな所で!早くここから離れるんだ!!」


青色の英雄には落ち着きを感じられない。

一体どうしたのかと言いたい。

普通なら出来事を認識できないだろう。

兵藤はただ黙っていた。


「なにぼけっとしてる! 早く逃げ――!」


一瞬。

青色の英雄は急に兵藤に向かって、空手のようなスタンスをとる。

しかしその腕は震えていた。

体もへっぴり腰で足も定まっていない。

その動きにはとても正常だとは言えない状態を醸し出した。

そして青色の英雄の前にいたのは、灰色のメタルマンだった。


「な……!? メタルマンが二人!?」


もう現実とは思えない状況。

しかしすぐにこのメタルマンもおかしいと気づいた。

このメタルマンは全身灰色一色で、青色の英雄とは違い体が鱗に覆われているような形をしている。

兵藤は口が塞がらなかった。

こんな事があり得るのかと実質これが現実なのだが信じきれない。

兵藤は動けなかった。

ここまでの現実に思考がついていかない。

その時。


「あぶない!」


兵藤の目の前に青色の英雄が現れ僕を抱え込んだ。

そしてすぐ僕と英雄は突風のようなものに吹き飛ばされた。


一瞬の無重力体験。

そして気づく。

落ちるのではない。

引き寄せられるように地面に叩きつけられる。

ダァァァァァァァアン!!

地面がえぐれる。

地面のコンクリートの欠片が飛び散り、甲高く響く音が近くにあった硝子を振動により割れた事を伝えた。

周りは煙が巻き上がり視界が悪い。

兵藤が目を開けたら僕の下で倒れている英雄がいた。


「メタルマンっ!!」


僕は英雄をクッションにしたおかげで助かったようだ。

だが英雄は衝撃をじかに喰らったため体が動かないようだ。


「起きてくれメタルマン! メタルマン以外にアイツを倒せる奴なんていないんだ! お願いだから起きてくれ!!」


兵藤は必死に訴えかけた。

もしメタルマンがやられたら手の内ようが無くなる。

街はさらに壊されるだろう。

いや……町だけでは済まないだろう。

この地球が破壊される。

それに僕の知っている英雄がこんな所で負けて欲しくなかった。


「お願いだメタルマン!! 目を覚ましてくれ!!」


……。

…………。

………………。

…………ピクッ……。

すると青色の英雄はかすかに動いた。


「……う……生きてるの……か……?」


英雄がしゃべった。

やった!

助かった。

……しかし。


「……やっぱり……もう動けない……か……」


限界に達していたその体を覆ったスーツのメタルが所々亀裂が走っており背中は地面の瓦礫で隠れているがそのかわりにメタルマンの周りにはおびただしい量の血が流れていた。

僕は絶望する。

死んだ。

そう思った。

正直死ぬ覚悟なんて出来てなかった。

最初はもし瓦礫に押しつぶされて死んでも構わないと思っていたが、こんなわけのわからない状況で死ぬなんて馬鹿らしい。

いや受け入れられない。

そして目の前で倒れている英雄。

もう勝ち目がない。

終わった。








「……なあ……君……」


兵藤は目線をメタルマンに合わせメタルマンの話を遮って話した。


「メタルマン……僕達死ぬのかな……」


その弱りきった質問に青色の英雄は途切れ途切れ答えた。


「わからない……だけど……悪い……俺はもう……限界……なんだ……」


「やっぱり……死ぬのかよ……」


兵藤は涙ぐんだ。

もう終わったのだと悟ったからだ。

こんな人生でももっと楽に死にたかったと。

まだこれから先にもチャンスがあったんじゃないかと。

しかしだ。

兵藤の首がガクンとうなだれ。

体を伏せた後だった。


「まだ生きたいか……?」


兵藤は頭を縦に振る。


「なら……お願いしてもいいかな……」


カシュッ!

その聞きなれない音を聞き兵藤は頭をあげる。


「俺のかわりに……闘って……くれ……ないかな…」


英雄のマスクは外側に収納され顔をさらけ出した。

マスクの下には額から血を流した男性がいた。

年は見た感じ20代後半、顔はごつごつとしており昭和の大工のような雰囲気が当てはまるだろう。

その男が兵藤にかけた言葉。


「頼む……頼めるのが君しか……いないんだ……」


そうは言われてもどうしろと。

僕には何も出来ない。


「僕にあんなの倒せないよ……!メタルマンしか倒せるやつなんてないよ……!」


そのまま言い放った。

悲鳴とも呼べる叫びを。

そうすると青色の英雄は。


「そうだ……アイツは……これでしか……勝てない……」


青色の英雄は右手を胸の真ん中にあるものに手を当て、取り外す。

それは青色の携帯だった。

開くタイプの携帯は真ん中に黒いサークル状の装飾がしてありその真ん中でアルファベットで電子文字がうたれている。


「君の……携帯……を……」


青色の英雄は目で僕の携帯を取り出すように命ずる。


「携帯……?」


兵藤は言われた通りに携帯をポケットから取り出した。

青色の英雄は手を震わせながら自分の携帯をゆっくり僕の携帯にかざす。

キィィィィィン!!

英雄の携帯から赤い光が発せられ耳なりのような音が響く。


「なんだ……これ……」


赤い光は僕の携帯に移動したように光る。


「……後は……任せた…………ぞ………………」


そう言った後、青色の英雄は自分の携帯を滑るように落とした。


「なっ……!? オイっ!? ……一体何をしたんだよ……!! 僕はどうすればいいんだよ!!」


しかし英雄は返事を返さなかった。

そしてどんなに英雄に話しかけても言葉が返ってくる事はない。

携帯を持っていた腕はダラリと垂れていた。

兵藤は目の前の英雄を見て涙が流れた。


「嘘…………だ……本当に…………死ん……だ……………」


心臓が凍えたみたいだ。

生きてる感じがしない。

僕は目の前の死に対して目を背ける事が出来なかった。

僕を助けて死んだんだ。


「あぁ……あああ……ああぁあぁ……あああぁあぁぁあぁ!!!!」


兵藤の叫び声とともに赤い携帯はさらに強く輝きを増した。

キィィィィィン!!


「ちっくしよぉぉぉぉぉお!!!!」


携帯の輝きがさらに強くなりその光は宙を駆け抜けバラバラに飛び散った。

その光の一つが兵藤の携帯に。

僕の携帯は真ん中にサークル状の装飾がついた。


『set up ready』


携帯がひとりでに無機質にしゃべりだす。

その後僕の体の胸より上、胸襟の真ん中あたりに窪みができた。


「チェンジ!!」


無意識にでた言葉。

体が勝手に胸の窪みに携帯を差し込む。

キィィィィィン!

携帯を差し込んだ部分の周りに金属が精製されていく。



「やっと死んだか……」


灰色のメタルマン。

灰色の悪魔はターミナルの上、破壊された上層部に立っていた。

青色の英雄がいる土煙を赴くままに見下ろす。


「これで俺の野望にまた一歩近づいた」


灰色の悪魔はつぶやいた。

キィィィィィン!

空で飛び散った光。

煙の中から聞こえてきた音。

それを聞いた灰色の悪魔は驚き、警戒態勢にはいった。


「くっ…………!! あの男!! 最後の最後に〝生産〟していきやがった!! クソが!! まだ戦わなきゃいけないのか!!」


その飛び散った光はバラバラにそして〝人〟のいるところに飛んだ。

そして最初にみた場所。

ターミナルの停留所。

今さっき青色の英雄を叩き落とし、半壊した場所。

そこに輝く赤い光。

そこには赤と黄色で構成された〝金属の戦士〟が立っていた。

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