4月4日(水) 晴 作家 吉村昭の肉声を聴く
NHKラジオ第二、朝十時から30分「カルチャーラジオ」という番組がある。この番組は、シャンソンの歴史とか「アメリカインディアンの歴史」とか「シルクロードの歴史」とか「現代文学」とかを日替わりで特集している。「現代文学」では、かってのラジオ番組で収録した小説家の肉声が聞ける「ラジオアーカイブ」(ラジオ公文書館と言う意味)を主としている。さすがに、漱石・鴎外はむりでも、志賀直哉・正宗白鳥・永井荷風・三島由紀夫・里見噸・谷崎潤一郎・川端康成、その他の高名な人々が登場する。詳論家の手を経ない、作者自身の肉声によって、意外な事実に驚かされることがあって、大変面白い。
数日前には、「桜田門外の変」という印象的な小説を書いた吉村昭の対談が放送された。吉村昭は歴史小説家というよりノンフィクション作家としての印象が強い人だ。「戦艦武蔵」「殉国陸軍二等兵比嘉真一」「大本営が震えた日」「零式戦闘機」「関東大震災」「ふぉん・しいほるとの娘」「ポーツマスの旗」「間宮林蔵」、そのほか多くの著作がある。
この番組中、青春期に、よもや生きてはいけないという肺病にかかり、麻酔がろくにかからない激痛の手術で肋骨5本を失ったが、運の良いことに再発せずに今まで生きることが出来たと語ったあと、「ですから、僕は苦労を苦労と感じません。毎朝おきて朝の空を見上げると、僕は幸せ者だと思えるのです」と話を続けるのだった。氏は、作家生活の途中から戦争中の話を書かなくなった。というのは、戦争を体験した人々が、寄る年波で他界され、実証を取ることが難しくなったからだという。
これに、表徴されるように、吉村昭は嘘は書かない人だ。吉村昭は「司馬遼太郎文学賞」受賞を辞退した。司馬遼太郎は、小説を面白くするためにフィクションを交える。それは「竜馬が行く」でも「坂の上の雲」でも子細に見れば解ることだ。吉村昭はよほど根拠がないと推測を書かない。・・・それが、おそらく受賞辞退の理由とおもわれる。このことは後日、調べてみたい。
素庵はノンフィクションが好きである。従来からの大佛次郎とともに吉村昭を追いかけてみたい。
ストーカーも小説ならば許される 素庵