井沢元彦 「逆説の日本史」 黎明編を読んだ!
去年、九州王朝存在説の旗手、古田武彦さんが亡くなった。まさに、巨星落つという感じがする。何故かがらんとした今年である。今は井沢元彦がなんとなく頼もしい。
先日、図書館で「義経はここにいる」という井沢元彦の小説を見つけ借りて読んだ。今は「逆説の日本史」で、知られる氏だが、元は小説家だったのだ。
古美術商の南条圭が、東北の財閥の相続に絡む殺人事件の犯人を捜す。財閥の主は、源頼朝に滅ぼされた平泉の藤原氏を尊敬していて、「今藤原」といった気持ちでいる。会社の相続権を握る養女の夫が殺される。殺される前に南条のところに、養女の夫から電話が入る「僕はヨシツネに殺されるかもしれない」と。やがて養女の夫の死体が発見される・・・と言った話なのだが、読み終わった後も、奥州藤原氏や義経の話がヒントにも何にもなっていない作品だった。
氏は「猿丸幻視行」で江戸川乱歩賞を26才の時受賞した。この作品は読んでいないが、この歴史ミステリーの完成度は「義経はここにいる」よりもずっと上だったに違いない! なぜなら、歴史とミステリーのからみが、この程度では賞などは取れないはずだからだ。
しかしながら、この「義経はここにいる」は、義経のその後について、かの名作高木彬光の歴史ミステリー「成吉思汗の秘密」を彷彿とさせる分析力を持っている。、なまじ殺人事件を絡めた小説にしたことが失敗の原因なのだと思う。殺人事件などからめずに、「義経のその後」を「義経は成吉思汗か?」みたいなテーマで古美術商を主人公として考証させるべきだったのではないだろうか?
高木彬光は「成吉思汗の秘密」では病院に入院した先生に成吉思汗=義経伝説を考証させて、ストーリーに仕上げている。こうした手法は見事な不朽の名作を作り上げた。しかし、高木彬光は小説を離れて古田武彦のような、歴史考証者にはならなかった。高木氏の「ベッド・デテクティブ小説」(主人公がベッドで資料を集めて推理する小説)はかなりの成功を収めたから、氏は、その後も「邪馬台国の所在地」など歴史の謎を追求する作品を書き続けたのだ。
歴史と殺人事件推理小説を絡めるのは難しいと思う。私はこのタイプの推理小説を読まないし、映画も観ないから名作があるかどうかも知らない。
井沢氏は小説家よりも歴史研究家としての才能が勝っていたと言うことだ。そのあとで「逆接の日本史・黎明編」を読んだ!実にすっきりとした考証に氏の才能をみた!今は世界史の謎に取り組んでいるようだが、いろなところを散策しないで、日本古代をもっと探って欲しいものだ!
じゃまだった 古田が死んで 閑古鳥 素庵