契約
目の前に神様がいるというのに敬わない俺は一体何様か。そうです、橘四郎です。
「おい、話を聞いておったか?橘四郎」
神様、といっても見た目はオッサンがコスプレしているようにしか見えない、が黙り込んでいる俺に非難の眼差しを向けてきていた。
「もろちん!あ、いや、もちろん」
とまぁ雑な誤魔化しをする。神様も深く追及するつもりは無いらしく、これ見よがしに一度大きく溜め息を吐いただけだった。
「つまり俺は異世界に行って、そこで起きている異変を解決すればいんだろ?」
「うむ、異変といってもまだ予兆程度だがの。これから確実に破滅に向かい始めるはずじゃ」つまり、俺は異世界の破滅を未然に食い止めればいいわけね。まんま勇者じゃん!俺はニヤケを抑えられずにいる。
「ニヤケておる所悪いが真剣に挑んでおくれよ?これは契約なんじゃから」
「契約?」
「うむ、地球を統べている神がお前さんの存在が強大すぎて地球の理から外れてしまっておると言っておってな。これ以上は地球に悪影響を及ぼすとして異世界追放をしようとしてたんじゃ」
確かに。地球じゃ俺は浮いてたよな。何故か魔法使えてたし。車程度なら余裕で木っ端微塵に出来る位に。
「そこで自分の世界が危ういと感じていたワシがお前さんを引き取る事にしたんじゃ。これが契約じゃ。もちろん、お前さんとも契約をするがな」
「…何で地球の神様は俺を異世界追放になんてしたんだ?ぶっ殺せば良かったんじゃね?」
素朴な疑問。いくら俺が強いといっても所詮はただの人間。神様が不必要だと感じたんならバッサリと殺してしまった方が楽なはずだ。それとも神様は勝手に人を殺したりはできないのだろうか。
「…その辺は機密故に言えぬが、まぁお前さんは特別ということじゃ。今はそれよりも契約を結ぶぞ」
「あいよ!」
「契約内容はワシがお前さんに退屈な日常から脱却させてやるの代わりにワシの世界を救うというものじゃ」
「…なんか俺の方のメリット少なくね?」
言うほど退屈していた訳じゃ無いんだが。一応、彼女もいたし。
「黙れ、リア充は爆発してしまえ」
「…おい!神様がそんな事言うなよ。てか心を勝手に読むなし!」
「ええぃ、うるさいぞ戯けが!お主なんかさっさと逝ってしまえ!!」
逆ギレした神様が両の手を前に突き出すとそこから光が溢れ、俺を包んでいく。
「おいこら!てめぇ今、行くの発音ぜってーおかしかっ………!」
最後まで言い切る事は出来ずに光の濁流に呑み込まれる。
そんな俺を見つめる神様の瞳に優しさと親しみが込められていたことに俺は気付くことは無かった。