表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カミノゾキブルーの夜に

作者: 鈴木柊真
掲載日:2026/03/22

3日間30時間の作業 お金は1円にもならない シナリタライターの男

仕事が決まらない葛藤でハイボールの酔いで不安を誤魔化す。

日曜日。午後10時。




液晶ディスプレイの青白い光だけが、静まり返った部屋を支配している。




机の上には、戦い終えた後の残骸。空のエナジードリンク缶、乱雑に引かれたプロットの線、そして、琥珀色の液体が揺れるハイボールのグラス。




キーボードを叩き続けた指先はまだ微かに震えていて、30時間で1万字という、肉体の限界を削り取った執筆レースの余韻を刻んでいる。




「133人、か……」




クラウドソーシングの画面を見つめ、一人の書き手は小さく呟いた。




ターゲットは50代男性。SNSから特定のプラットフォームへ誘導する、日常系の台本制作。




募集枠に対して、現時点でのライバルはわずか1人。


実力の世界だという過酷さを知る。


30時間で10話完遂。




「完走」という二文字だけを燃料に、彼は暗闇を駆け抜けた。




画面の向こう、クライアントのプロフィールには「累計売上 億単位」という圧倒的な実績。




【現在の採用率はおよそ20人に1人。スキルだけでなく、誠実に取り組める方を重視しています】




18人に1人。5%の狭き門




だが、今の彼には、その数字すら心地よい挑発に聞こえた。




30時間戦い抜いた自分への、これ以上ない「信頼の裏付け」が、手元の原稿だからだ。




「ふぅ・・・よしっ!!」




彼は、夜の静寂の中に、最後の弾丸を放った。




マニュアルにあった、ニッチな伝統色。




その色を、ターゲットの郷愁と、絶妙なエロティシズム、誠実な日常に落とし込んだ、キレ味鋭い3つのプロット案。




「これなら、プロ集団も、足を止めざるを得ないはずだ」




スマホを裏返し、ハイボールを一口あおる。




喉を焼く刺激が、心地よい。




だが、時間は残酷だ。




渾身のメッセージを送ってから、画面は「既読」がついたまま沈黙を続けている。




「最終アクセス:32分前」




その表示だけが、相手が確かに自分の言葉に触れたことを示し、そして静止している。




不安が、琥珀色の液体から立ち上る泡のように、ふつふつと湧き上がってくる。




だが、彼の中に迷いはなかった。




執筆中、何度も脳裏を掠めた「客観的な確信」が、静かに彼を支えている。




「このキレなら、いける。不採用だから連絡がないんじゃない。レベルが高いからこそ、相手も慎重になっているんだ」




その確信こそが、孤独な執筆を支える唯一の灯火だった。




視線を、他の案件のメッセージ画面に移す。




案件A:長尺の物語。 午後に「担当確認」へ回った。




構成の整合性と、キャラクターの一貫性。プロが今まさに、彼の原稿を精読している。




案件B:大手制作チーム。 夜に「受領連絡」が来た。




日曜の夜にわざわざ連絡をくれる、管理の行き届いた組織。彼の「完走能力」は、こういう場所ほど、喉から手が出るほど欲しがるはずだ。




案件C:動画プラットフォーム向けショート。 昼にトレンドを抑えたトライアルを提出済み。




「短文のキレ」と「最後のズラし」。自身の瞬発力をぶつけた一作。




「4面待ち、か……」




30時間前には、ただの「無謀な挑戦」だったものが、今は「4つの巨大なチャンス」へと姿を変え、目の前に並んでいる。




「どこか、受かってほしいな」




本音が、ポロリとこぼれた。




30時間戦った後の、この「静かな待ち時間」は、執筆中よりもずっと、精神を削りに来る。


「不安だ・・・」




スマホが震えるたびに、心臓が跳ね上がり、通知の内容を確認しては、落胆と安堵を繰り返す。


「落ちたかもw」




だが、彼は知っている。




「返信がない」のは、自分の提案が「価値がある」からこそ、相手が慎重になっている証拠だということを。


「不安に思っても仕方がないさ



30時間という作業に終えるも試用テスト。




1円にもならない




言葉は失い、体がガタがつき視野がぼやける


ピンとが合わない。




年齢のせいではない、人間の肉体の限界だと男は確信する。


成功を収めているプロたちも、新進気鋭のクリエイターも、今、彼という「計算できる戦力」を、どう迎え入れるか、真剣に検討しているのだ




と、弱気な気持ちを男は楽観的に捉える




創作が好きだ




時計の針は、夜の更けを告げようとしている。




「果報は寝て待つしかないか」




彼は、ハイボールの最後の泡を飲み干した。




複数から合格通知が届き、「どれを選ぼうか」と悩む贅沢な状況。




そんな予感が、確信へと変わる。




「よし、寝よう」




30時間戦い抜いた、その手と脳を労わるために。




明日の朝、画面を開いた瞬間に飛び込んでくるであろう通知を、万全の状態で受け止めるために。




彼は、電気を消し、ベッドに倒れ込んだ。




暗闇の中、液晶の残像が目に焼き付いているが、彼はもう、スマホを確認しなかった。




自分のセンスと、30時間の努力を信じて、彼は静かに、深い眠りへと落ちていった。




明日、10時を過ぎたあたりで、彼というライターの新しい物語が、爆発的なスピードで魂が燃え上がるのだ!!!




金がなきゃ、創作活動に没頭出来ないと焦る男だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ