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雨宿り?

作者: こますけ
掲載日:2025/12/04

 どこにでもあるような、ちょっと古びた住宅街の一角。

 しとしとと雨の降る午後である。

 スーツ姿の初老の男が、とある家の軒下に立ち、見るともなしに向かいの家の窓の中を眺めている。

 その姿がどうにも気になり、私は意を決して男に声をかける。

 嫌な雨ですね、こんなに急に降り出すなんて。あの、もし降り込められたのなら、傘をお貸ししましょうか?私、もう1本持ってますので。

 すると男は、微笑んで首を振る。

 お気遣いありがとうございます。でも、この通り、傘はあるのです。

 ちらりと見せてくれた鞄をのぞき込むと、なるほどそこには黒い折りたたみ傘がちんまりと収まっている。

 あら、ではこの場所には、雨宿りではなく?

 ええ。実は私、以前あそこに住んでおりまして。それで……信じていただけるかどうかわかりませんが、雨降りの午後に限って、窓越しに見えるのです。昔、妻と娘と共に暮らしていた頃の姿が。

 男はそういうと、さも懐かしそうに目を細め、再び向かいの家の窓の中を眺めた。

 あ、ああ…そうなのですね。

 私はさっと顔をこわばらせると、そっと後ろに一歩、後ずさる。

 その態度に気を悪くしたのか、

 やはり信じていただけませんか。まあ、無理もありませんがね。

 そう言って男は、目に悲しげな光りを宿した。

 私は慌てて首を振った。

 いいえ、そうではなくて。奥様やお嬢様と再会なさる、得がたい機会なのでしょう?もしそうなら、長くお邪魔するのも申し訳ないと思いまして。

 ああ、そういうことですか……。

 男の目に優しさが戻るのを見て取ったところで、私は、

 では、失礼します。

 丁寧に一礼し、その場をそそくさと離れたのである。


 男が眺めていた家は、ここ20年ほどずっと空き家だ。

 というのも、あそこはかつて、一家四人惨殺事件があったことで、とみに有名なところであり……そして、あの窓の向こう側に見えるリビングこそ、四人の血まみれになった死体が見つかった、その現場なのである。

 当時を知る人の話では、事件の起きたその日の午後も、しとしとと雨が降っていたそうだが……。

 あの男、一体何者で……どんな情景をうれしげに見つめていたのだろうか?

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