雨宿り?
どこにでもあるような、ちょっと古びた住宅街の一角。
しとしとと雨の降る午後である。
スーツ姿の初老の男が、とある家の軒下に立ち、見るともなしに向かいの家の窓の中を眺めている。
その姿がどうにも気になり、私は意を決して男に声をかける。
嫌な雨ですね、こんなに急に降り出すなんて。あの、もし降り込められたのなら、傘をお貸ししましょうか?私、もう1本持ってますので。
すると男は、微笑んで首を振る。
お気遣いありがとうございます。でも、この通り、傘はあるのです。
ちらりと見せてくれた鞄をのぞき込むと、なるほどそこには黒い折りたたみ傘がちんまりと収まっている。
あら、ではこの場所には、雨宿りではなく?
ええ。実は私、以前あそこに住んでおりまして。それで……信じていただけるかどうかわかりませんが、雨降りの午後に限って、窓越しに見えるのです。昔、妻と娘と共に暮らしていた頃の姿が。
男はそういうと、さも懐かしそうに目を細め、再び向かいの家の窓の中を眺めた。
あ、ああ…そうなのですね。
私はさっと顔をこわばらせると、そっと後ろに一歩、後ずさる。
その態度に気を悪くしたのか、
やはり信じていただけませんか。まあ、無理もありませんがね。
そう言って男は、目に悲しげな光りを宿した。
私は慌てて首を振った。
いいえ、そうではなくて。奥様やお嬢様と再会なさる、得がたい機会なのでしょう?もしそうなら、長くお邪魔するのも申し訳ないと思いまして。
ああ、そういうことですか……。
男の目に優しさが戻るのを見て取ったところで、私は、
では、失礼します。
丁寧に一礼し、その場をそそくさと離れたのである。
男が眺めていた家は、ここ20年ほどずっと空き家だ。
というのも、あそこはかつて、一家四人惨殺事件があったことで、とみに有名なところであり……そして、あの窓の向こう側に見えるリビングこそ、四人の血まみれになった死体が見つかった、その現場なのである。
当時を知る人の話では、事件の起きたその日の午後も、しとしとと雨が降っていたそうだが……。
あの男、一体何者で……どんな情景をうれしげに見つめていたのだろうか?




