トントンとピコと雨の日パレード
朝からぽつぽつ、しとしと。
トントンの家のまどに、雨の音がやさしく響いていました。
「今日も雨かぁ……」
トントンはほっぺをむぎゅっと押して、ため息をつきました。
テーブルの上では、ピコが羽を乾かしながら言います。
「オイラ、雨ってちょっと苦手なんだ。羽がぺたぺたして、へんな感じなんだよね」
トントンは窓の外を見ました。
庭の草も、森の木も、ぜんぶしっとりぬれて光っています。
「でも、きれいだよ? ほら、葉っぱがピカピカしてる」
ピコはくちばしをすこしとがらせて言いました。
「トントンって、そういうの見つけるの、ほんと得意だね」
トントンは少し考えて、ぽんと手をたたきました。
「ねぇピコ、外に行こう!」
ピコは羽をばたつかせました。
「えっ!? 雨の中に!? オイラ、ぬれるのイヤだよぉ……」
けれどトントンは、にこっと笑って黄色いレインコートを取りました。
オーバーオールの上に、それをきゅっと着こみます。
「だいじょうぶ、ちゃんと準備するから!」
フードの下からのぞく顔はわくわくしていて、
ピコは思わずため息をつきました。
「もう……トントンって、ほんと止められないんだから」
ピコも小さな赤いレインコートを羽に通して、
トントンのあとを小走りで追いかけました。
ぽつん。
ぽつぽつん。
トントンが歩くたび、ぬかるみに足あとがついて、
その中で雨粒が “ポン” とはねました。
「ピコ、聞こえる? 雨って楽器みたい!」
ピコは耳をすましました。
「……ポン、ポロン、ピチン……ほんとだ。いろんな音がするね」
トントンは笑って、庭に置いていたバケツを逆さにしました。
「じゃあこれ、タイコにしよう!」
ピコも羽をたたいてリズムをとります。
「オイラも叩いていい? トントン、テンポ合わせて!」
雨どいから落ちる水の音。
葉っぱをたたく雫のリズム。
ぬれた地面が響かせる低い音。
見えるもの全部が音をならしていました。
トントンが笑いました。
「ねぇピコ、まるでパレードだね」
ピコはちょっと照れくさそうに笑いました。
「……なんか、トントンってすごいなぁ」
トントンはやわらかく笑って、タイコをもう一度叩きました。
「えへへ、なんだかうれしいな」
カエルたちが合唱をはじめ、雨のリズムが大きく広がりました。
「ピコ、観客が増えたよ!」
「ほんとだ! オイラたち、人気者かも!」
やがて、雲のすきまから少しだけ太陽がのぞきました。
雨粒がきらきら光って、空に虹がかかります。
「トントン、空が笑ってるみたいだね!」
ピコが羽を広げて言いました。
トントンは虹を見上げながら、にこりと笑いました。
「うん。きっと、ぼくらの音が届いたんだね」
ふたりはびしょぬれのまま、声を上げて笑いました。
そして雨がやんだあと、しんと静かになった中で、
トントンが小さく言いました。
「ねぇピコ、聞こえる?」
ピコは首をかしげました。
「なにが?」
「パレードの音。まだ、心の中で鳴ってる」
ピコは少し笑って、トントンのとなりに寄りそいました。
「……ほんとだ。オイラも聞こえるよ」
――雨の日パレードは、
音が消えても、ずっと心の中でつづいていました。
 




