9. ベラトリウム ①
『前回のあらすじ』
イベントの最中、悲鳴とともに女性が倒れる事件が発生する。
ルカスの治療で命は助かるが、魔法の痕跡が残らない異など不可解な謎が起こる。
さらに毒草入りの菓子の存在も判明し、背後に不穏な陰がちらつく中、「Bellatorium」大会の幕が上がる――
朝の光が城下を柔らかく包む。
広場にはすでに観客が集まり、華やかな旗や紋章が風に揺れていた。
今日から三日間にわたる魔術・剣術大会「Bellatorium」が開幕する。
開会式に参加するため、僕たちは会場に集まり列に並ぶ。
周りを見渡すと貴族ばかりで、自分の場違いさを痛感した。
開会式の進行が進み、選手宣誓が行われる。
「我々参加者一同は、規律を守り、全力を尽くすことを誓います」
ヴァノ様が壇上に上がり、堂々と宣誓を述べた。
その後、来賓紹介が終わり大会の概要が説明される。
「本大会には六十名が参加し、剣術と魔術の二部門に分かれています。また、年代別に階級があり、U十七部門と一般部門の二つに区分されます。ご参加できるのは、貴族、または貴族から推薦を受けた者に限られます。」
「形式はトーナメント制で、一、二日目に予選、三日目に決勝を行います」
「制限時間は十分。ルールは相手を戦闘不能・降参・場外にした時点で勝利。殺害は禁止です。ただし事故死は責任を問いません。決着がつかない場合は延長線として再試合をして頂きます。魔術の部では殺傷・呪詛・禁術・召喚系は禁止。その他の武器持ち込みも禁止です。剣術の部は、事前に申請された武器のみ使用可。魔法の使用は禁止です」
長い説明が続き、ようやく開会式が終わった。
開会式後、ルカス様と合流し、出場するU十七部門のトーナメント表に目を通す。
「魔術の部のU十七で強敵になりそうなのは、フォルティヴァとカエルム侯爵家の次男、ホラティウス=ラ=カエルムだな」
「昨日の決闘でご令嬢の魔法を見たけど、あの二重詠唱は相当だったなぁ」
「カエルム家のご子息も時律魔法に長けた才子だ。油断できない」
「時律魔法って?」
「血統魔法の一種で、時間の操作が可能らしい。自身の周囲にある有機物の時間を操作できるそうだ。俺より一学年上だから直接魔法を見たことはないが、学園内では有名人だ」
「へぇ、そうなんだ」
(時間操作か……)
続いて剣術の部も確認する。
「剣術の部のU十七での強敵は、子爵家の俊英アヴィア=テンペスタとヴァノ辺りだな」
(聞いたことがない人がほとんどだなあ)
「一般部門の戦士も、若い世代とは違った力と戦術を持つ。観戦しているだけでも見応えがあるだろう」
僕とルカス様は軽く拳を合わせる。
「お互い、勝ち残るぞ」
「うん、健闘を祈るよ」
会場に鐘の音が響き、ついに一回戦が始まった。
観客の視線が選手たちに注がれ、戦いの火蓋が切られる。
◇
数時間後——
日が暮れ始め、大会一日目は幕を閉じた。
結果は、僕もルカス様も全勝だった。
時間ができたので剣術の部を覗くと、ルカス様がちょうど控室に戻るところだった。
お互い衣服に戦いの痕が残っていたが、表情は落ち着いている。
「ルカス様、順調そうだね」
「ノア、お前もだろ?……明日は準決勝だな」
二人は短く頷き、夕暮れの中を歩き出す。
その背に、熱気と期待のざわめきが続いていた。
◇
大会二日目——
今日の対戦相手を確認する。
僕はフォルティヴァご令嬢、ルカス様はアヴィア=テンペスタご令嬢と対戦することになっていた。
軽く会話し、健闘を讃え合いそれぞれ別の会場へ向かう。
(準決勝か……。気合い入れて頑張らないと)
時間になると、フォルティヴァご令嬢と向かい合わせに立った。
「あら?勝ち上がってきてたのね?」
「今日はエクセリア公爵ご令嬢の胸をお借りするつもりで頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします」
「一つ言っておくけど、私相手に手を抜いたら容赦しないわよ。まあ、貴方には杞憂かもしれないけど」
「はい。全力で行かせていただきます」
(今回は嫌味を言われなかったな……。いいことあったのかな?)
僕とご令嬢が距離を取る。
辺りが一瞬、静寂に包まれた。
自分の吐いた息の音がやけに鮮明に聞こえる。
その瞬間、開始の鐘が鳴り響いた。
◇
同時刻——
剣術大会会場
(そろそろ向こうも準決勝開始の時間だな)
俺と向かい合うのは、アヴィア=テンペスタ子爵令嬢。
俺と同い年だが、学院には通わず子爵領で鍛錬を積んでいるらしい。
(この大会で準決勝まで勝ち上がる相手だ。相当な実力者だろう)
「お初にお目にかかります。テンペスタ子爵家の娘、アヴィアと申します」
「初めまして。オルディス伯爵家のルカス=ラ=オルディスだ。今日はよろしく頼む」
「はい。良い戦いにしましょう」
挨拶を交わす。
彼女の手や顔には細かな傷があり、身なりには無頓着な印象を受けた。
「名のある剣士との戦いね。普段とは違う戦いになりそうで楽しみだわ」
彼女が小さく呟く。
俺たちは距離を取り、開始の鐘が鳴る。
◇
魔術会場——
鐘の音が鳴り響くと同時に、ご令嬢が先制攻撃を仕掛けてきた。
右手を前に翳し、声を張る。
「Nubes Evoca, Aqua Globus!」
青い魔法陣が二つ展開され、霧と水弾が飛び交う。
(前回と同じか……)
僕は地面に手をつけて呪文を唱える。
「Paries Aquae」
しかし——魔法を発動させようとした瞬間、地面に魔力が届かない感覚に襲われた。
(地面に……魔法が通らない!?)
目の前には、水弾が迫っていた。




