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6. 公爵家の前哨戦

『前回のあらすじ』


ノアはテルラから魔法学を学ぶ。

基礎魔法や血統魔法の属性、称号の階層、光と闇の特性を理解し、闇魔法の危険性も認識する。

帰還したルカスとレオニスを出迎えた後、二週間後の魔術大会参加を告げられる。

「二週間後にエクセリア公爵領で開催する魔術大会に参加してほしい」

「え、私でよろしいのですか?」

「二人の時は敬語はいらない」

「あ、うん」

「僕じゃなくて、ディヴィナ様やテルラの方がいいんじゃないかな?」

「出てもらう部門は十六歳まで」

「じゃあ、ディヴィナ――」

「あいつはいい」


ルカス様の声が少し高くなる。

珍しく感情が乗っているのが分かる。


「……僕でよろしければ最善を尽くします」

「敬語」

「あ、ごめん」


微かに笑いが零れ、短い沈黙が柔らかく溶ける。


「……今回の帰省はこの大会に出るため?」


ルカス様は手を組み、視線を僕から外して窓の方を見やる。

庭の緑が風に揺れるのを眺めているようだった。


「夏季休暇が始まったから帰ってきた」

「もうそんな時期か。レオニス様と帰ってきたから、何かあったのかと思ったよ」

「レオニスは国境付近の魔獣討伐の任務が丁度終わり、護衛でついて来ただけだ」

「そっか。よかった!」


僕は肩の力を抜き、軽く息を吐く。

少し世間話を交わしたあと、一礼して部屋を出た。


(ルカス様と話すの久しぶりだったなぁ。元気そうでよかった)

(エクセリア公爵家か……本当に僕が行っていいのかな……)


エクセリア公爵家は帝国に四つしかない公爵家のひとつで、皇族の血筋をひく由緒ある家柄。

僕のような平民が接する機会など、まずない。


(でも、年が近い子と魔術で戦ったことがないから、ちょっと楽しみかも)



出発当日の朝。

僕たちは馬車に揺られながら、近くのワープゲートを目指していた。


「ノア、公爵邸に着いたらまずヴァノ様に挨拶に行く」

「はい!」

「ヴァノ様とは学院で一緒だが、とても温厚なお方だ。だから、そこまで緊張する必要はない」

「……はい」


ルカス様の穏やかな声に少しだけ肩の力が抜ける。

それでも胸の奥の緊張は、まだ完全には消えてくれなかった。



「お初にお目にかかります。ノアと申します。この度は魔術大会に参加させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

「ああ。ルカスから聞いている」

「私はヴァノ=ド=エクセリアだ。今回は伯爵家の客人として君を扱うことにしよう」


落ち着いた色合いのソファに腰かけ、香り高い紅茶を口にするのはヴァノ=ド=エクセリア。

エクセリア公爵家の嫡男であり、ルカス様と同い年。剣術の腕に優れていると噂される人物だった。


「ところで、なぜ君は変装魔法をかけている?」

「えっ……」


頭の中が真っ白になる。冷や汗が背を伝う。


(ど、どうする……。正直に言えばオルディス伯爵家の名に傷がつく……)


「えっと、それは……」

「言えないのか? 公爵家の嫡男である私に」


ちらりとルカス様に視線を送る。

彼は紅茶を一口飲み、静かにカップを置いた。


「ヴァノ、意地が悪いぞ」


一瞬の静寂。


「あはは、悪い悪い」


ヴァノ様は愉快そうに笑う。


「事情はルカスから聞いている。彼がそこまで強く推すから、私も気になっていたんだ。大会、楽しみにしているよ」

「……はい。最善を尽くします」


深く息を整え、一礼する。


(……よ、よかった。心臓止まるかと思った……)

「ノア、長居は――」


ルカス様が言いかけた、その瞬間。


――ガチャリ。


「待ちなさい」


扉が勢いよく開かれ、澄んだ少女の声が響いた。


「フォル、勝手に入ってくるな。せめてノックぐらいしろ」

(……あれ、なんかどこかで見たことある光景だな……)


「そこの平民」

「は、はい」

「私と一対一で勝負しなさい」


少女は真っすぐ僕を指さす。


「どうしたんだ、突然」

「平民のくせに、お兄様と親しげに話すあなたが気に入らないの」

(ええ……)

「魔術大会に出場するんでしょう? 私も出場予定よ」

(……話、聞いてたんだ……)

「だったら直接確かめてあげる。この腕前で」

「さあ、かかってきなさい」


思わずルカス様の方を見やる。

彼は小さく頷き、「やれ」と目で告げてきた。


「……はい。私でよろしければお相手いたします」

「決まりね。庭に向かうわよ」



庭に出る。

柔らかな陽光が木々の葉を透かし、風に揺れる花々が軽やかに香りを運ぶ。

穏やかな空気の中、かすかな鳥のさえずりが、これから始まる戦いの前の静寂を彩っていた。


「いい?一対一の勝負よ。お兄様方は手を出さないでね?」

「分かった」

「では、開始の合図は私が取り仕切ろう」


「――始め!」


合図と同時に、少女は素早く右手を前に翳す。


「Nubes Evoca, Imago Illudat」


青と青緑の魔法陣が瞬時に展開され、庭に濃い霧が広がる。

視界が遮られたかと思えば、同時に少女の幻影がいくつも現れた。


「Aqua Globus!」


続けざまに青い魔法陣が輝き、水弾が霧の中を飛び交う。

シュッ、シュッと空気を切る音が、耳に鋭く突き刺さった。


(すごい……二重詠唱だ。僕より幼いのに)


「Terra in Mare Ignis」


僕は右の手のひらを地面に押し当てる。

赤い魔法陣が広がり、周囲が一気に炎の海へと変わる。

炎の壁が立ち上がり、迫る水弾を焼き払った。


「よそ見している暇なんてないでしょう?」


背後から少女の声。

振り向く間もなく、氷の刃が僕の首を狙う。


その瞬間、僕と少女の間に炎の壁を出現させ氷刃を阻む。

幻影は炎に溶け、かき消えた。


やがて霧が薄れ、少女の姿がはっきりと現れる。

初めの位置から微動だにしていなかった。


「あら、倒したと思ったのに。まあまあやるじゃない」

「お褒めに預かり光栄です」

「次は、私から参ります」


僕は静かに右手を前へ。


「Pluvia Laminarum」


赤銅色の魔法陣が輝き、無数の金属片が少女へと降り注ぐ。


「Aqua Globus!」


少女は再び水弾を放ち、金属片を打ち落とした。

カチカチと鋭い音が鳴り響き、火花が散る。

水と金属が交錯し、白い水蒸気が生まれる。


「ふん、こんな攻撃で私を倒せると思って?」


蒸気がさらに広がり、視界を白く覆った。


「えっ……霧?」

「私と同じことを真似するなんて。いいわ、つまり後ろに――」


少女が振り返った瞬間、背後には誰もいなかった。


刹那、足元から鎖が現れ、彼女の脚を絡め取る。


「なっ、何よこれ!?」

(鎖魔法の詠唱を私が見逃した? そんなはず……)

(まさか、炎の壁を展開したときに、二重詠唱を……!?)


少女は必死に周囲を見渡す。しかし霧は濃く、気配は掴めない。


「Aestus!」


赤い魔法陣が少女の右手に輝き、鎖を焼き切った。

同時に、周囲に赤茶けた粉が舞い散る。

それは先ほど砕け散った金属片――炎と水に晒され、細かい粒となったものだった。


「今の隙に攻撃してこないなんて……わざと手を抜いているの?」

「だったら、身の程をわきまえなさい!」


「――間に合ってよかったです」

「なに?」


「Ferrum Ignis Tempestas!」


地面に広がる赤銅色の魔法陣が一気に輝きを増す。

次の瞬間、空気中に漂っていた金属の粉が一斉に炎をまとい、燃え上がった。


ゴオオオオ――ッ!


赤熱した無数の金属片が渦を巻き、嵐のごとく少女を包み込む。

閃光が飛び散り、灼ける鉄の雨が大地を焼いた。


「なっ……!?」


炎と鉄に囲まれ、少女は避ける間もなく押し込まれる。

水魔法で応戦しようとするが、火花が幻影を焼き払い、霧は瞬時に蒸発する。


僕は静かに右手を掲げた。

詠唱はない。

掌に灯った小さな炎が、金属嵐と共鳴し最後の一撃を生み出す。


ドンッ――!


閃光と爆炎が炸裂する。

鉄と炎の嵐が収束した時、少女は膝をついていた。


「勝負あり!」


ヴァノ様の声が、庭に響き渡った。


『属性と魔法陣の色について』

通常魔法の基本属性は

の4種類です。

属性によって魔法陣の色も変わります。

例えば、

炎→赤色

水→青色

風→緑色

鉱→銀色

です。

基本属性を掛け合わせた魔法でいうと、

炎×風=雷→黄色

水×風=幻覚→青緑色

炎×鉱=熱を帯びた金属→赤銅色


などがあります。

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