17. 新たな道
『前回までのあらすじ』
大会を襲撃した謎の二人に挑むノアとアヴィ。
炎と闇の混合魔法を操るセレナ、剛腕の剣士レオンに圧倒的な力に追い詰められる中、二人は連携して応戦する。
激戦の末、衛兵の介入で敵は撤退。
安堵の瞬間、ノアは限界を迎え静かに意識を失った。
意識が覚醒する。
僕はベッドの中にいた。
部屋には陽の光が差し込み、窓の外からは鳥の囀りが聞こえる。
周りを見渡すと、僕から見た右側にルカス様がいた。
椅子に座ったまま、上半身をベッドに預けて眠っている。
(ルカス様……無事に避難できたんだ。よかった……)
僕の頭や身体中に包帯が巻かれており、上半身を起こそうとした瞬間全身に鋭い痛みが走る。
「痛っ……!」
思わず声が漏れた。
その声でルカス様が目を覚まし、目を擦りながら僕を見た。
「ルカス様、おはよう!」
「ノ、ノア……!?体はもう大丈夫なのか?」
「あ……うん。まだ動かすと痛いけどね」
僕はゆっくりと上半身を起こす。
「無理はするな。とにかく、意識が戻ってよかった」
「迷惑かけてごめんね」
「いや、お前のおかげで俺とヴァノは避難できた。助かった」
「二人が無事で本当によかった」
「そういえばアヴィ……テンペスタ子爵令嬢殿はどうなったか知ってる?」
「あぁ、子爵令嬢も無事だ」
「よかった……!」
僕は胸を撫で下ろす。
「僕ってどれくらい寝てた?」
「三日間だ」
「三日間でなにかあった?」
「ちょうどいい、情報を共有しておこう」
「お前が倒れたあと大会を襲撃した連中は撤退した。撤退理由は不明だ」
「姉さんの情報によると、連中の組織名は『FALX』というらしい。旧デュアリス王国の残党で構成されているとのことだ」
「旧デュアリス王国……じゃあ、セレナやレオンたちもその国の出身者ってことだよね」
「恐らくな」
「今回の襲撃は何が目的なんだろう?」
「簡単な話だ。デュアリス王国を滅ぼしたのはヴェルクラティア帝国だからだ」
「えっ、そうなんだ!?」
「復讐か……」
「現皇帝は、周辺諸国への侵攻が歴代の皇帝に比べても多いからな。……まぁ、因果応報だろ」
その時、扉をノックする音がした。
「私だ。入っても良いか?」
ヴァノ様の声が扉越しに聞こえる。
「どうぞ、お入りください」
僕が返事をすると、ヴァノ様は扉を開け、部屋へと入ってきた。
「ルカス、今の発言は皇帝に対する侮辱だぞ。耳にした者が私で幸いだったな」
ヴァノ様は口元をわずかに歪め、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「ノア、体の調子はどうだ?」
「少し痛みますが、特に問題はありません。お心遣い感謝いたします」
「そうか。ならば、しばらくは無理せず休め」
「用件はなんだ?」
「先日話していたトキシア草関連の件だ」
ヴァノ様は近くの椅子に腰掛ける。
「昨日ルカスから屋台の売人をとらえたとの報告を受け、販売していたジンジャーブレッドの成分の解析を行った」
「イベントの屋台で販売されていたジンジャーブレッドから毒性のハーブ、トキシア草が検出された」
「やはり、そうだったか」
「あぁ。以前話した通り、トキシア草は帝国内で蔓延しつつある。このエクセリア領にも流れ込んできている」
「父上がオルディス伯爵令嬢殿に協力を要請したと仰られていた。近いうちに何らかの対策が講じられるだろう」
(ユスティナ様……だから大会にいらしていたのか)
「そして、屋台を襲った不審者だが――おそらく今回の大会を襲撃したFALXの仕業だと見ている。連中はいったん撤退したようだが、しばらくは警戒を緩めず、警備と巡回を強化していくつもりだ」
「以上が現時点での報告だ。新たな情報が入り次第、共有する」
「助かる」
「君たちが多忙な折、領内の捜査に協力してくれたこと、感謝する。では、私はこの辺で失礼する」
そう言って、ヴァノ様は立ち上がり、部屋を退出した。
「ルカス様、どうやって売人を見つけたの?」
「以前助けた屋台の店主に頼んで、売人の行方を探してもらった」
「あの時の……!そうだったんだ。見つかってよかった」
「あぁ」
一瞬、部屋に静寂が訪れる。
差し込む陽の光が、包帯の白を照らしていた。
「ノア、父さんが亡くなった」
「えっ……!?」
「大会の襲撃と同じ日に、伯爵邸に何者かが侵入し暗殺されたらしい」
「まさか旦那様が……。ルカス様、今すぐ屋敷に戻らなくていいの?」
「姉さんがすでに戻っている」
「でも、最後にお顔を――」
「いい。あいつ、嫌いだったから」
「……」
「お前の怪我が落ち着いたら一緒に戻る。それで十分だ」
(まさか僕が気を失っている間に……旦那様が……)
「屋敷の被害は?」
「特に荒らされた形跡はない。本当に暗殺が目的だったようだ」
「そうなんだ……」
◇
一週間後——
怪我はまだ完治していないが、ベッドからは起き上がれるようになり、明日にでも公爵邸を出発しようかとルカス様と考えていた。
そんな折、エクセリア公爵から呼び出しがかかる。
応接室の前で深呼吸をしノックをする。
扉が開き、使用人に案内されて中に入ると、ソファに公爵とアヴィが向かい合わせで座っていた。
「お初にお目にかかります。ノアと申します。エクセリア公爵閣下にお目にかかれて光栄に存じます」
「よい。楽にせよ、そこに掛けなさい」
「はい。失礼いたします」
威厳ある空気に思わず緊張するが、アヴィと目が合い、少しだけ心が軽くなる。
ソファに座ると使用人が僕の前にも紅茶をサーブする。
紅茶からは豊かな香りが漂う。
「さて――今回そなたらを呼んだのは、一つ提案があるからだ」
「二人を、ヴェルクラティア学院に推薦しようと考えておる」
「えっ!?ヴェルクラティア学院にですか!?」
隣のアヴィが思わず声を上げる。
「うむ。二人の大会での活躍、そして襲撃時の奮闘を高く評価しておる。学院で更なる知識と技術を磨き、将来このエクセリア公爵領の礎となってほしいのだ」
「どうだ、悪い話ではあるまい」
「私は伯爵家の従者にすぎません。身分の低い私を学院へ入れるのは、公爵閣下の名誉を傷つけてしまうのでは……」
「案ずるな。身分も確かに重要だが、真に国を支えるのは『才』だ。有能な者を腐らせるほど、私の目は曇っておらぬ」
「加えて、伯爵家からも正式な許可は得ておる。あとは、そなたの意志次第だ」
「……申し訳ございません。少しだけお時間を頂けますか」
「よかろう。一週間の猶予を与える」
「アヴィア=テンペスタ、貴女はどう考える?」
「一つだけお願いをお聞きいただけますか」
「申してみよ」
「テンペスタ子爵領では近頃、魔獣の被害が拡大しています。私が不在になると、対応できる者が減り、被害が増す恐れがあります」
「せめて学院在学中だけでも、腕の立つ者を派遣していただけないでしょうか?」
「ふむ……既に子爵より正式な要請を受けておる。順次、対策を講じる予定だ」
「であれば、学院への推薦をお受けいたします」
「よかろう。後ほど使いを送ろう。その者から詳細を聞くとよい」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
「最後に――今回の襲撃の際、勇敢に戦ったと聞いている。礼を申す」
「滅相もございません。当然のことをいたしたまでです」
「同じく、閣下にお怪我がなかったことが何よりです」
「……うむ。二人とも、よくやった。話は以上だ」
僕とアヴィは頭を下げ、部屋を後にした。
「久しぶりね、ノア!体の調子はどう?」
「久しぶり!まだ少し痛むけど、なんとか大丈夫。あの時はありがとう。助かったよ」
「お礼なんていらないわ。でも、無理はしないでね」
「ところで、ノアは学院へ行くつもりなの?」
「うーん、悩み中かな。学院に行けるのは名誉なことだけど、僕はあくまでオルディス伯爵家の従者だから」
「一度ユスティナ様と相談してから決めようと思ってる」
「そう。もし学院で会うことになったら、その時はよろしくね」
「うん。こちらこそ、その時はよろしく」
「じゃあね!」
僕はアヴィに手を振り、別れの挨拶をした。




