16. ベラトリウム⑧
『前回のあらすじ』
崩落する会場で現れた旧王国の残党「FALX」。
ユスティナとレオニスが対峙する中、伯爵の訃報が届く。
一方ノアは禁呪「時間凍結」を発動しルカスとヴァノを退避させ再び敵と交戦する。
そこへ雷を纏う子爵令嬢アヴィアが現れ、共闘の火花が散る。
「え、テンペスタ子爵令嬢殿!?」
驚きのあまり霞んでいた視界が一気に冴える。
子爵令嬢は、レオンと軽く剣を交わした後、僕の方へと後退してきた。
「ノア殿、大丈夫?」
「は、はい。助けていただきありがとうございます!」
「気にしないで。それより、あの二人は誰なの?」
「分かりません。ですが、どちらも只者ではありません」
「分かったわ。それなら、私があの男の剣士を相手にする。ノア殿は女の魔術師をお願い」
「この場は私に任せて、テンペスタ子爵令嬢殿はお逃げ下さい。あなたの身が危険です」
「ノア、それはあなたも同じよ。失っていい命なんてないわ」
「……」
「それに私、大会で早々に負けて出番がなかったから体を動かせていいわ。強敵なら、なおさら歓迎だし!」
「……分かりました。そこまでおっしゃるなら止めません。子爵令嬢殿の指示に従います」
「よし、決まりね!あと、テンペスタ子爵令嬢は長いからアヴィでいいわ。敬語も不要よ」
「……分かった。じゃあ、僕のことも……ノアで!」
「ふふっ。いいわね。――さあ、仲良くなったところで、コイツらを倒すわよ!」
僕とアヴィは再び構え直し、臨戦態勢を取った。
「Pluvia Ignis etUmbrae!」
セレナの詠唱とともに、赤と黒相反する二つの魔法陣が重なり合い、空気が軋む。
炎が唸りを上げ、闇がそれを呑み込むように渦を巻く。
その混ざり合った魔力は、まるで災厄そのもののようだった。
(炎と闇の混合魔法……!?闇属性を他属性と混ぜるなんて、一体何者なんだ、セレナ……)
轟音と共に、赤黒の奔流が地を裂きながら襲いかかる。
「――Vallum Abyssi!」
僕は咄嗟に闇属性魔法による障壁を展開した。
黒い壁がセレナの魔法を遮るように立ち上がる。
「AquaInfusio!」
闇の障壁に水の魔力が宿り、表面が青く輝く。
炎が触れた瞬間、蒸気が爆ぜ結界が脈動して炎を呑み込む。
闇と水が融合した障壁は、光さえも届かぬ静寂を生み出した。
だが、炎の衝撃波は容赦なく叩きつけられ、障壁が軋む。
熱が肌を焦がし、視界が揺れる。
「ノア、大丈夫!?」
「……っ、なんとか……!もう持たない……かも……!」
爆風が巻き上がり、瓦礫が飛び散る。
僕は、膝に手をつきながらも再び詠唱する。
「Devoro Tenebris……!」
闇が波紋のように広がり、炎の奔流を飲み込んでいく。
だが、セレナの魔力はあまりにも強大で、押さえ込むのがやっとだった。
「っと、危ない危ない。やるねぇ、ノア」
その瞳は、どこまでも愉快そうだった。
◇
一方その頃、アヴィはレオンと激しく剣を交えていた。
「っ……はぁっ!!」
アヴィの剣が光を反射しながら閃く。
その速さは目にも止まらない。
レオンの大剣が受け止めるたび、空気が震える。
「速ぇな。……だが、軽ぃ」
「そう?じゃあ、これならどうかしら!」
アヴィは地を蹴り、体をひねって斜め上から一撃を振り下ろした。
しかし、レオンはわずかに身を傾けて受け流す。
「へぇ、いい反応するわね」
「ガキのくせに生意気だなぁ、お前!」
アヴィの動きは研ぎ澄まされていた。
だが次第に息が荒くなり、腕の震えが隠せなくなる。
レオンの一撃一撃は重く、確実に体力を削っていく。
(このままじゃ……アヴィが危ない!)
僕は魔法を発動レオンの着地点に向かって金属片を飛ばす。
だがレオンは瞬時に後方へ跳び、笑みを浮かべた。
「おっと、危ねぇ危ねぇ。連携ってわけか。面白ぇ」
「くそっ……!」
息を整えながら構え直す。
しかしその時、再びセレナの詠唱が響く。
「次は本気でいくよー!――Infernum Noctis!」
赤黒い球体が膨張し、周囲の魔力を吸い込み始める。
熱気が立ち上がり、空気が焼け焦げるように歪む。
「アヴィ、離れて!」
僕が叫び、魔法を展開しようと右手を翳すが魔力切れを起こしており魔法が発動できない。
耳が鳴り、世界が揺れる。
「ノアっ!!」
「……大丈夫……!」
倒れかけた僕の前に、アヴィが立つ。
息を荒げながらも、剣を構えていた。
その瞬間、鋭い笛の音が響き渡る。
衛兵たちが一斉に駆け込み、魔導障壁を展開した。
「そこまでだ!!帝国法により、この場での戦闘行為を禁ずる!」
「えー、もうそんな時間?せっかく盛り上がってきたのにぃ〜」
セレナが舌打ちをした。
その直後――セレナの耳元に小さな魔法陣が浮かび上がる。
通信魔法を受け取ったセレナは、ふっと口元を緩め、嬉しそうに笑った。
『ノア、ごめんね?いいところだったけど、目的が果たせたから今日は帰るね〜!」
「いくよ、アホレオン〜」
「一言余計なんだよ、ババアが」
「またね!」
セレナは軽く指を鳴らし、闇の霧がセレナたちを包み込む。
「待ちなさい!!」
アヴィが踏み出しレオンを狙うが、レオンは剣を軽く弾き返す。
「焦んなよ、ガキ。次はもっと楽しくやろうぜ」
その言葉を残し、二人は霧の中へと消えた。
静寂が戻る。
僕とアヴィは荒い息を整えながら、周囲を見渡した。
「……ふぅ、なんとか……生き残れた……」
「ええ……。衛兵が来なければ危なかったわね」
僕は頷き、戦いの跡が残る地面を見つめる。
闇魔法の残滓がまだそこに揺らめいていた。
アヴィは剣を収め、静かに息を吐いた。
その横顔に、決意の影が射していた。
そして次の瞬間、僕の視界が歪み足元がふらつく。
意識を手放す直前、僕の名前を呼ぶ声が聞こえたが反応する前に意識が沈んでいったーー。




