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沈黙の英雄  作者: あやかぜ
ギルド《しじまの手》潜入編
3/23

この程度か

「どうだった?」


ギルドマスター・ヴァレンは、応接室で報告を聞きながら、苦い酒を一口すする。


報告者はギルズ。エースにして、最前線を任されてきた男。


「……結局、何もしてないっすよ、あいつ」


「そうか」


「けど、なんか……周りが勝手に浮かれてます。“セイタさん、すごい”って。こっちは現場で、こいつ何もしてねえだろって見てんのに」


「ふむ」


ヴァレンは眉一つ動かさずに答える。

ギルズの言葉は、半分正しく、半分間違っていた。


(変化はいつも、静かに始まるものだ)


ヴァレンの目には見えていた。


訓練場の空気。通路での会話。事務局の視線。

セイタが歩くだけで、誰もが“姿勢を正す”。


力で殴ったわけでも、命令で従わせたわけでもない。

ただ、“揺るがない何か”をまとっている。それが空気を変えていた。


「ギルズ、お前は優秀だ。だが、それだけではダメだ」


「……は?」


「強さで押さえつけても、ギルドは動かない。空気を変えろ。無駄な派閥も、怠慢も、全部だ」


「それを……あいつにやらせるつもりですか?」


ギルズの目に、怒りと戸惑いが浮かぶ。


「――だったら俺はどうなる」


ヴァレンは、静かに笑った。


「自分の立場が危うくなると思うか?なら、なおさら見極めるといい」


「……」


「見誤るな。あいつが何者か、まだ誰も知らない。お前もだ」


 


***


 


セイタはギルドの屋上で、風に吹かれていた。


ただ、景色を見ていた。


城の尖塔。兵舎。市場。

遠くには、かつて戦火で焼け落ちた街の跡。


そこへユキが現れる。


「……ここにいたんですね」


「風がいい」


それだけ返すセイタに、ユキは少しだけ距離を詰めた。


「前の依頼、ありがとうございました。背後に敵がいたって、どうして分かったんですか?」


「感覚だ。理由はない」


「……そうですか。私、すごいなって思いました」


セイタは何も言わない。


ユキが微笑む。少しの沈黙。けれど、心地悪くはなかった。


やがて、ユキがふと口を開く。


「このギルド、変わるかもしれませんね」


「変わって困るのは誰だ?」


その問いに、ユキは何も言わなかった。


 


***


 


その夜。


談話室で仲間と笑い合う一部の上層ギルド員たち。


「セイタ? まぁアイツはアイツで勝手にやってくれればいいさ。こっちはこっちで楽しくやってる」


「どうせ、長くもたないだろ。ああいうのって、な?」


彼らは気づかなかった。


その会話の裏で、部屋の隅で資料を整理していた新人が、静かに書類を閉じるのを。


「……セイタさんって、どんな人なんだろう」


その声は誰にも届かない。


だが、《しじまの手》の空気は、確実に変わりはじめていた。


腐敗が、揺らぎはじめていた。


そしてセイタはまだ、何一つ“力”を見せていない。

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