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沈黙の英雄  作者: あやかぜ
ギルド《しじまの手》潜入編
2/23

見せ物じゃない

噂は静かに、けれど確実に広がっていた。


《しじまの手》ギルド内。

談話室、訓練場、武具庫、どこでも名前が飛び交う。


――セイタ。

――ギルマスが直々に呼んだ男。

――エースのギルズが従った唯一の存在。


実態は誰も知らない。ただ、その「異質さ」だけが記憶に刻まれていた。


 


***


 


「セイタさん、今ちょっとお時間いいですか?」


女の声が背後からかかる。


受付嬢──シェリルだった。

ギルド内でも事務方で最も情報に通じているとされる人物だ。


「先日の依頼、報告が簡潔すぎて……もう少しだけ内容を」


「戦闘はなかった。調査範囲も計画通り。何が不満だ?」


セイタは一切の表情を変えずに返す。


「いえ……そういう意味では……なくて……」


シェリルは目を伏せる。

真正面から見られると、まるで心を見透かされるようで落ち着かない。


(ほんとに……強い人って、感じ……)


そのやり取りを、遠巻きにギルズが見ていた。


「――あいつ、わざとやってるな」


隣の取り巻きがぽつりと漏らす。


ギルズは目を細めた。


「……どうだろうな」


(ただの“ハッタリ”なら、それはそれで厄介だ)


もし本当に実力があれば脅威だ。

だが、ハリボテの虎でも、群れの空気を変えるには十分すぎる。


 


***


 


その日の午後、再び依頼が入る。


小規模ながら、急ぎの討伐要請。

ただのゴブリン群だが、村が近く、放置はできない。


「セイタさんも同行願います」


指名が入った。命令ではなく、“推薦”。


セイタは何も言わず、頷くだけだった。


そしてまたギルズが同行を申し出る。


「たまたま予定空いててな。心配だったら、俺も行こうか?」


「構わん。好きにしろ」


 


***


 


現場。森の入口。


斥候が戻り、報告する。


「二十体以上。群れとしては中規模……ただ、リーダー格がいない。統率が妙に雑です」


セイタは頷き、腰の武器に手をかけた。


「俺が行く。展開するな。囲まれるだけだ」


ギルズが目を細めた。


(また“あれ”か……)


セイタが草むらを抜け、ゴブリンたちと対峙する。


周囲の木々が揺れる。獣たちが一斉に逃げ出す。

ゴブリンたちすら、一歩引いたように見えた。


……だが。


「戻る」


セイタは踵を返して戻ってきた。


「……は?いや、今……何かした?」


「必要なかった。あれは陽動だ。背後に本命がいる」


ギルズが驚いた顔をする。斥候も急ぎ周囲を探る。


そして――実際に裏手から大型のオーガが出現した。


「本当に……!」


一同が戦闘に入る。セイタは後衛を守る位置に立ち、最後まで前に出ることはなかった。


 


***


 


依頼は無事成功。


セイタは、またしても「戦わずして、見抜いた男」として評価される。


その夜、ギルド本部の食堂。


「セイタってすごいよな。雰囲気も、判断も桁違いだよ」


「下っ端の俺たちじゃ、全然話しかけられねーよ……」


そんな声が飛び交う中、ギルズは一人、席を立つ。


「……くだらねえ」


口ではそう言いながら、心の奥で何かがざわついていた。


異物は確かに、ギルドの血流に入り込んでいる。


腐敗しきる前に。それとも、崩れる直前に。


その導火線に、火がついた。

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