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沈黙の英雄  作者: あやかぜ
ギルド《しじまの手》潜入編
1/23

しじまの手へようこそ

王都中央、《しじまの手》。


国が直轄する三大ギルドのひとつ。その名は、威光と栄光を象徴する。


──ただし、表向きだけなら、の話だ。


現場では、誰もが口を閉ざしていた。


金とコネでねじ込まれた戦力外の幹部。

数字だけを追う事務部。

「功績の横取り」と「責任のなすりつけ」が日常の風景になっていた。


それでも、外には漏れない。


腐り始めた肉は、表面だけ焼かれて、まだ旨そうに見える。


だから王は動いた。

《しじまの手》が完全に崩れる前に、一人の再建屋を送り込んだ。


その名は――セイタ。


 


***


 


鋼鉄の扉が静かに開く。


黒い外套の男が足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


重い風を背負ったような歩き方。無駄のない動作。迷いのない眼光。


その男に、受付嬢は反射的に背筋を正した。


「……ご用件を」


「セイタ。ギルドマスターに通せ」


静かな声だった。だが強かった。


“ああ、この人は強い”――周囲がそう思うのに時間はかからなかった。


名も知らぬ男。しかし“格”が違っていた。


(ギルマスが直々に呼んだ男か……)


誰かが、そんな噂を呟いた。


 


***


 


初任務は、B級依頼の小規模モンスター調査。


同行するのは、このギルドのエース――ギルズとそのチーム。


ギルズは、一瞥だけで警戒を露わにした。


「……あんたがセイタか。ギルマスに頼まれて動くってのは……よほどのことだな」


「そんなに構えなくていい。俺一人で十分だ」


「は?」


「お前たちは下がっていろ。万が一の時、足手まといになる」


言葉は荒げていない。なのに、全員が一瞬、言葉を失った。


静かな命令。全責任を背負うような言い回し。

だが何より、その眼の色が――“本気”だった。


ギルズのこめかみがぴくりと動く。


「……なるほど。そういう奴か」


その声には、焦りと――嫉妬が混じっていた。


 


***


 


森の中。モンスターの気配が漂う。


セイタは前に出る。


「ここから先は俺がやる。下がれ」


ギルズたちは躊躇したが、一歩引く。


セイタは武器に手をかけ、そして……何もしなかった。


十秒。二十秒。


ざわつく草むら。姿を現さぬ敵。


セイタはふっと肩の力を抜いた。


「やめだ。地形が悪い。ここは引く」


「……判断、早っ……」


取り巻きの誰かが呟いた。


ギルズが目を細める。だが何も言わない。


「全員撤退だ。命令だ」


セイタはそれだけを告げて、背を向けた。


誰も逆らえなかった。彼の空気に。


 


***


 


依頼は、ギルズの別ルートで完遂された。

セイタは一切手を出さずに、初任務を終えた。


それでも、ギルド内では小さな囁きが広がっていく。


――エースが従ったらしい

――戦闘はなかったが、空気は完全に掌握していた

――あの男、何者だ?


談話室の空気が微かにざわつく。

疲れ切った目をした隊長たちが、久しぶりに名前を口にする。


「セイタって……再建屋って噂、マジか?」


ギルズは無言で椅子にもたれたまま、天井を見ていた。


やがて、ぽつりとつぶやく。


「……あれは、何もしてない。けど……“何か”を壊して帰った」


 


腐りかけのギルドに、確かにヒビが入った。


その正体が“救世主”なのか、それとも“災厄”なのか。


まだ誰にも、分からなかった。

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