現実の世界へ戻る
ピッ…… ピッ… ピッ……
何かの機械の音がする。
うー… うー… うー…
暗がりから目が覚めた。医者と看護師と親父が顔を覗いていた。
僕は病院のベッドの上だった。さっきまで夢を見ていたようだ。
白髪の初老の大松田という男の医者が
「ようく聞いてくださいね。あなたは、大事故で意識不明で搬送されてきました。そして、3年も寝ていました。あんな大事故でかすり傷だけで、どこも後遺症も無いとか奇跡です」
僕は驚いた。
「3年も意識不明で寝ていたのですか?そういえば僕の母校の稲瀬分校はまだありますか?」
ベテランの柴山という女性の看護師が応えた。
「あの稲瀬分校は、去年取り壊されましたよ」
その言葉に息を呑んだ。稲瀬分校は僕の青春そのものだった。友達と笑い合い、先生たちと過ごしたあの場所がもう存在しないなんて、信じられなかった。
「取り壊された……」
僕は呟いた。
「そんな、何もかもが変わってしまったんですね。」
親父が黙って僕の肩に手を置いた。彼の顔には安堵と心配が入り混じった表情が浮かんでいた。
「でも、お前が無事で本当に良かった」
と親父は言った。
「3年の間、どれだけ心配したか分からないよ。」
僕はふと、自分の体を見下ろした。3年間という時間は、僕の体をどう変えたのか。筋肉は衰え、体は痩せこけていた。今すぐにでも立ち上がりたい気持ちと、体がそれを許さない現実が、僕の心の中で葛藤していた。
「まずはゆっくりとリハビリを始めましょう」
と大松田医師が言った。
「急に無理をすると、体に負担がかかりますからね。」
僕は頷いた。自分の体がどれほど弱っているのか、実感するのはこれからだ。しかし、今はまずこの現実に向き合うことが必要だった。
「それにしても、3年も時間が経ったなんて……」
僕は再び呟いた。
「友達や家族はどうしているんだろう。皆、僕を覚えているのかな。」
看護師の柴山さんが優しく微笑んだ。
「もちろん、覚えていますよ。皆さん、あなたの帰りをずっと待っていたんですから。そして、退院したら、かきえんでラーメン食べたいでしょ!!」
その言葉に少しだけ心が軽くなった。3年間の空白を埋めるのは大変かもしれない。でも、僕は再び歩き始めることができる。新しい一歩を踏み出す覚悟を決めた。
「さて、まずは少しずつ体を動かしてみましょうか」と柴山さんが言い、僕の手を優しく取り、リハビリの第一歩を始めるためにサポートしてくれた。