2 - 出会い
ふたりがお互いの存在をはっきりと意識したのは、高校入学から三か月が経った七月の初めのことだった。
家が近いからという理由で選んだ高校はそれなりの進学校だが、高峰優希にとって勉強はそれほど苦ではない。今のところは授業を聞いていれば十分に理解できるし、それほど熱心に対策した訳では無い中間試験の順位も悪くなかった。部活は中学に引き続きバスケ部を選んだ。周りよりも成長のタイミングが早いようで、同級生の中でも一番二番を争う背丈になっていた。決して強豪校ではない。その温度感が高峰にはちょうどよかった。
何事もほどほどが一番。
決して人には話さなかったが、心の内ではそんな十五歳らしくないーーあるいはかえって十五歳らしいとも言えるかもしれないがーーどこか冷めた心を持っていた。勉強も、部活も、人間関係も、高峰はそれまで必死になったり何かに執着するような経験がなかった。
入学から三ヶ月経てば、クラスの中でも何となく緩やかなグループができて、いつも一緒に昼食を食べるメンバーが固定されてくる。例えばスクールカーストというものが存在するなら、高峰はその頂点に座るような男だった。高身長で顔も整っていて、にこやかで人当たりも良い。纏う空気が華やかで、いつの間にか周りに人が集まっている。自分の振る舞いに対して一切の迷いがない。「こう思われたらどうしよう」というような心配をする必要はなかった。高峰はジャッジする側の人間だったからだ。とは言え他人をジャッジするほどの関心も持たず、一緒につるむ仲間が特定のクラスメイトを指して「あいつ暗いよな」などという勝手な判断を下しているのを聞いて、馬鹿らしいと思いながら曖昧に笑うだけだった。仲間たちは高峰が決して軽口に同調しないことに気づくと、気まずそうに笑ってから口を噤んだ。彼らもまたジャッジされるのを恐れていて、だからこそジャッジされる側に立とうとするのだ。高嶺は友だちを選んだ訳では無い。高校の立地上、同じ中学の同級生が多いので、中学でも仲の良かった数人と、高校で新しく出会った数人とで、いつの間にかグループは形成された。誰かに話しかけにいかなくても、周りに勝手に人が寄ってきた。割と誰とでも楽しく話せるのは長所の一つだ。だから選んでいる訳では無いが、友だちは高嶺に自分から声をかけにいく勇気のある人間に限定された。
だから、高嶺が五十嵐に自分から声をかけたことはとても珍しいことだった。