⑥予定
チャットアプリに表示された[yuki]の名前。それは明らかに私——秋城 紺が放課後に友達登録をした一ノ瀬 有紀先輩から送られてきたメッセージだった。
「一ノ瀬先輩……!?」
私はどこか焦燥感に駆られ、制服を脱ぐのも忘れてアプリを開く。
[友達登録ありがとう。秋城さんだよね?私も登録しておいたよ、よろしくね]18:06
……と、メッセージが届いていた。恐らく私が友達登録を行った時に通知が行ったのだろう。一ノ瀬先輩に気を遣わせてしまったことに罪悪感を抱きながら私はすぐにメッセージを返す。
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【yuki】
18:07[ごめんなさい汗 私からメッセージを送るべきだったのに]
[大丈夫だよ!笑 気にしないで]18:07
[--メッセージの送信を取り消しました--]
[↑ごめん間違えた]18:10
[そう言えば、船出さんが秋城さんを見かけて走って行ってたけどさ、何かあったの?
私が聞いても教えてくれなくて]18:15
18:24[ごめんなさい、ここは乙女の秘密という事で笑]
[私だって女の子だい笑笑]18:27
[ねえ、今週の日曜日って予定空いてる?]18:29
--スタンプを送信しました--
18:33[ごめんなさい笑]
18:35[--返信--空いてますけど、どうしました?]
[ごめんご飯食べてた!]19:20
[文化祭のプログラムのことで話詰めておきたくてね。
会議の時間に進めてもいいんだけど、授業とかでまとまった時間取れないから汗]19:23
20:45[それって私以外の人も来ますよね?]
20:46[私もお風呂入ってました!笑]
[おかえり笑]20:46
[ううん、秋城さんだけ汗 やっぱり二人だと都合悪い?]20:49
20:51[そういう訳ではないんです汗 私で大丈夫かな?って……]
[秋城さんしっかりさんだから頼りにしてるもん笑]20:55
20:57[丸め込まれてる気がする―……]
[そんなことないよ!?]21:01
[どうかな?大丈夫そうかな]21:03
21:20[今のところはーー……ですけど!また予定変わるようだったら連絡しますので!笑]
[はーい!お願いします笑
今からお風呂入ってくる!]21:23
21:41[わかりました!
もしかしたら寝落ちてるかもしれないので先に言っときます!おやすみなさいzzz]
[早いね笑
おやすみ笑]22:01
―――――
一ノ瀬先輩とのメッセージのやり取りがひと段落着いたところで、明日の準備をするべくカレンダーを見る。
「あ、そっか今日金曜日か……」
今日の日付は、金曜日を示していることに気づき、私は全身を深くベッドに投げ出す。仰向けになった姿勢のまま、改めて先輩とのチャット画面を見返す。
普段の誠実そうな雰囲気とは異なり、チャット上では砕けた雰囲気を作っているように思う。彼女なりに打ち解けようとしてくれているのだろう。
今日は船出 道音にカフェに誘われて、日曜日には一ノ瀬先輩とお出かけの予定が入った。
断定はできないが、以前の授業終わりの様子を見るに、道音と一ノ瀬先輩は顔見知りの存在だ。
「……日曜、かあ……」
私はいつの間にか、大きな渦に巻き込まれている気がした。
だけど、悪い気はしなかった。
今日こうして、道音と出会っていなければ今頃の私はもっと塞ぎ込んでいただろうから。
私はチャット欄を下へとスクロールさせ、友坂 悠先輩とのチャット欄を開く。
そのチャットページは、私が文芸部に所属していた時の業務連絡で止まっており新しいメッセージは更新されていなかった。
私はスマートフォンを枕元へと放り投げ、視界を蛍光灯から守るように顔を覆う。
「ちょっとぐらいメッセージ送ってくれてもいいじゃん、先輩のバカ……」
私が抱いていたのは怒りか、悲しみか。自分でも分からなかった。
☆★☆☆
土曜は特に変哲もなく一日が過ぎて、あっという間に日曜日の朝を迎えていた。
私は一ノ瀬先輩からメッセージの通知が来ていることに気が付き、チャットアプリを開く。
―――――
【yuki】
[おはよう!]6:15
7:12[早いですね!?笑]
7:13[おはようございます~!]
[うん、本当は秋城さんと似たような時間に起きるつもりだった……けどなんか起きちゃった笑]7:16
7:20[健康的でいいと思いますよ~笑]
[やったー!笑]7:21
--スタンプを送信しました--
7:23[今日行けますよ!]
[ほんと!笑
10時からでどうかな??]7:45
[ごめん朝ごはん食べるの急かされて返信遅れた!れ]7:47
7:52[--返信-大丈夫ですよ~!私もご飯食べてました!笑]
7:55[場所どうします?]
[秋城さんって学校近くに住んでたんだっけ?]7:57
8:00[そうですよ!徒歩5分で学校です笑]
[ちかーい笑 じゃあさ駅前合流でどうかな?そこから電車でモールまで行こ!]8:03
8:04[賛成です!!笑 ちょっと服見たいですけどいいですか?]
[いいよー!私も見たいし笑 お昼もそこで食べる予定でいいかな?]8:07
8:08[ぜひぜひ!お願いします!!]
[おっけー!!]8:10
--画像を送信しました--
8:13[楽しみです笑]
[大体この時間に電車来るみたい!これに合わせて合流しよ!]8:13
[チャット被っちゃった笑]8:14
8:15[わざわざ調べてくれてありがとうございます!!助かります]
8:16[--返信-- ごめんなさい笑]
[いいよいいよ!私がやりたくてやってるだけ!笑]8:18
8:19[それなら良かったです!それじゃあ支度してきますね!
大体電車来る10分前くらいに着くようにします!]
[わかった!私もそれくらいになるようにするね!]8:21
[秋城さんどこ?]9:45
9:46[今お手洗いの近くにいます!]
[わかった!]9:46
―――――
「おーい、秋城さんー!!」
私の名前を呼ぶ声がして、私はその方向へと振り返る。そこにはベージュ色のシャツドレスに身を包んだ一ノ瀬先輩がいた。グレーのトートバッグを手にぶら下げており、落ち着いた雰囲気に似合った風貌をしていた。
「あ、一ノ瀬先輩!お待たせしました、可愛らしい服してますね!」
そういうと、彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「えへへ、ありがとう!そういう紺ちゃんも可愛らしさが前面に出て似合ってるよ!」
「え!?そ、そうですか……!?」
先輩からそう評価されるとは思わず、私も思わず照れ笑いをしてしまった。
一ノ瀬先輩の隣に立つ以上、不格好な服装はできない。そう思ってさんざん悩んだ結果、薄紫のブラウスに紺色のロングスカートを選んだ。それが先輩に評価されたことが素直に嬉しかった。
思わず自己肯定感が上がり、自分の全身をくるくると眺めていると、彼女は柔らかに微笑みながら私の手を引く。
「さて、そろそろ電車が来そうだね。じゃあ行こっか!」
「あ、はい!」
先輩と……いや、そもそも友達と出かける機会のほとんどない私にとって、誰かと出かけるのは気分転換にもなり、とても心躍る。
緊張も無いわけじゃなかったけれど、どこか一ノ瀬先輩には心を預けられる気がしていた。
[続く]