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⑱睡眠

文化祭開催まで、あと二週間を切った。着々と屋台設営の準備も進んできており、徐々に学内も文化祭の色になりつつある。

体育館ではよく演劇発表を行うクラスの準備でバタバタしているようだ。まあ私――秋城 紺(あきしろ こん)のクラスは模擬店なので当事者ではない分多くは語れないのだが。

今日は実行委員の会議があり、早々に私は会議室へと向かっている最中だ。隣では一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)先輩が眠たそうにあくびをかみ殺して歩いている。

「ふぁああ……眠い……ご飯を食べた後は眠たすぎる……」

「何だか今日は一段と気が抜けていますね?」

「昨日夜更かししました……久々にゲームやってたら……」

「……何時くらいまで?」

「えっと、最後に時計見たときには四時だったよ、ふぁあああ……」

「やっぱり一ノ瀬先輩ゲームやらない方が良いですよ、絶対廃人になりますって」

「えー……」

少しだけ残念そうな表情を浮かべながらトボトボと歩く彼女は、まるでかつての頼りになる先輩と同一人物には見えなかった。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあるため、思わず心の底から嬉しさがこみ上げる。

会議室へと到着するとやはり、私達以外にはまだ来ていなかった。彼女はさっさと自分の定位置の机に座ったと思ったら、早速突っ伏し始めた。

「え、一ノ瀬先輩……?」

「誰か来そうだったら起こしてー……ちょっと寝る」

「えっ」

私が何かを言う前に彼女は机に突っ伏したまま寝息を立て始めた。気になって彼女の顔をのぞき込むと、そこにはぐっすりと目を閉じている年相応の女の子がいて、思わず笑みが零れる。

「先輩もなんだかんだ気を張ってたんですね……いつも頑張ってますもんね」

「すぅ……すぅ……」

「……()()()()()さんめ」

「んぁ……」

どこか憎たらしいほどぐっすりと眠る一ノ瀬先輩の頬を指で突くと、くすぐったそうに身体を捩らせた。

もう少しこの時間を堪能していたかったが、ガヤガヤと皆が近づくのが分かったので先輩の肩を揺すって起こすことにした。

「あ、先輩。皆来ますよ」

「んぁ……くぁああ……ありがと、ふぁ」

しきりに欠伸を繰り返す彼女を見ていると、思わず再び笑いがこみ上げてきた。

「ふふっ」

「え、なあに」

「鶴山先輩も大変だろうなあ、って」

「なんであいつの名前が出るのー……あー……ねっむい」

うんともう一度背伸びをしたと思うと、同じ実行委員の姿が見えた瞬間に表情が引き締まり、一気に目の色が変わった。

彼女なりに仕事モードに入ったのだろうが、それを見て再び思わず吹き出してしまった。

「ぶっ」

「……な、なに、秋城さん」

「いや、仕事熱心ですね……ふふっ」

「ま、まあね……へへ」

私の心中を分かってなさそうな彼女は何故か照れ笑いを浮かべる。しかし、それもつかの間のことですぐに真面目な表情を作った。

実行委員のメンバーが全員集まったのを確認した後、彼女はスカートをはたきながら立ち上がって、ぐるりと全員を見渡す。

「さて、今回も集まって頂きありがとうございます。文化祭まで残すところ二週間を切りました。準備も滞りなく進んでいることかと思いますが、最後まで油断しないように気を引き締めていきましょう」

「ん、ふっ……」

あまりに態度ががらりと変わるので私は笑いを堪えるので必死だった。あ、ちょっと書記ノートの文字が崩れた。


ーーーー


「秋城さーん、今日もお疲れ様ー」

「一ノ瀬先輩もお疲れ様ですー、眠気飛びました?」

「ふふん、ちょっとは起きたよ!」

彼女は平たい胸を反らせて自慢げな表情を作る。

「あんまり誇れること言ってないですよー」

「えっ、そうかなぁ……」

残念そうに項垂れる彼女の頭を気付けば撫でていた。撫でられたことに対して、彼女はむくれた顔を作って私をわざとらしく睨む。

「仮にも先輩だぞぉー、撫でるなら許可とってー」

「あ、じゃあ撫でます。先輩可愛らしいんですもん」

「そういう問題じゃな……あ、そこかゆいからもっと撫でて」

「おっさんですか」

「お姉さんだよ」

「間違ってはないですね」

などとじゃれ合っている最中、一ノ瀬先輩は「あ」と何か思い出したような声を上げた。

「どうしました?」

「そう言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って言われてたんだった!放課後行けそう?」

「あ、はい、行けますけど……何ですかね?」

答えを知っているものと思い尋ねるが、彼女は首を横に振った。

「私も聞いてないんだよねー、文化祭に関係することだって言ってたけど」

「それは実行委員に報告案件では?」

「それは思う」


☆☆★☆


放課後を迎え、私達は屋上へと向かう扉の前に到着したが、そこには鶴山 真水(つるやま まみず)先輩は居なかった。

「鶴山先輩まだ来てないんですかね?」

「どうなんだろ、メッセージは見た様子ないし……」

「連投してないです?」

「してないもんっ」

一応、ダメ元で一ノ瀬先輩が扉のドアノブを捻ってみると、鍵は掛かっておらず容易に開いた。

「あれ、開いてるじゃん」

「本当ですね」

「せめてメッセージ送って欲しかったなあ」

「さすがにそれは鶴山先輩に非がありますね」

「あははっ」

などと駄弁りながら、天文部の部室である屋上を抜けた先の倉庫へと辿り着き、古錆びた鉄扉をゆっくりと開けるとそこには、椅子に腰掛けた鶴山先輩と、船出 道音(ふなで みちね)がいた。

「あれ、道音ちゃんも?」

「あ、紺ちゃんも呼ばれたんだ」

「うん、鶴山先輩……これは?」

彼の方を見ながら尋ねるが、困った表情を浮かべながら「女子比率が高い……気まずい」とぼやいていた。

そのぼやきが耳に入った一ノ瀬先輩は、スナップをきかせた手で鶴山先輩の頭をひっぱたく。小気味好い音が響いた。

「あいたっ」

「真水が呼んだんでしょ……文化祭に関係した事って言ってたけど、それは実行委員に関係することじゃないの?」

頭を両手で押さえ、恨めしそうに一ノ瀬先輩を睨みつつも彼は言葉を続ける。

「うん、文化祭には直接関係ないよ……この間文化祭の日に流星群が一番見えるはずだって言ったの覚えてる?」

「あ、そんなこと言ってたね」と一ノ瀬先輩が頷く。

「私聞いてないよ、真水先輩」

道音が納得していない様子で鶴山先輩に問い詰める。彼は苦笑いして言葉を続けた。

「あ、そっか道音ちゃんには言ってなかったっけ。まあいいか」

「よくない」

「話続けさせて?文化祭の日の夜さ、皆で流星群をここで見ていかない?って思ってね。この場所なら誰の邪魔にもならないし」

そう提案する彼の目は真っ直ぐに、まるで子供のように煌めいていた。一ノ瀬先輩の方を見ると、「うーん」と首をかしげている。

「先生に怒られそうだけど……」彼女としてはやはりそこが気になるのか怖ず怖ずと質問をすると、鶴山先輩はいたずらっぽい笑みで微笑んだ。

「有紀、見栄っ張りをたまには捨てることも大切だよ」

「バレたら内申点的に嫌だ……まあ、分かったよ」

渋々鶴山先輩の意見に同意した彼女の返事を見て、彼は満足そうな笑みを浮かべ、両手を合わせパンと叩いた。

「言いたかった話はこれだけ、言ってる間に文化祭でしょ。だから早い内にこの話皆に聞いて欲しかったんだよ」

「真水先輩ー」

「どうしたの道音ちゃん」

「大体何時くらいに見えそうなの?打ち上げもあるからもしかしたら厳しいかもだけど……」

「確か、九時とかそれくらいだったはずだよー、僕は時間までここに居る予定だし、強要はしないよー」

「私は居るよ、どっちにせよ真水をほっとくわけにも行かないし」

「え、ゆきっち残るなら尚更私達お邪魔じゃ……あいたっ」

道音の言葉を遮るようにして一ノ瀬先輩は彼女の頭にチョップを食らわせた。

「いたぁいー!ゆきっちなにするの!?」

「おばか」

そうツッコミを入れた彼女の耳は少し赤くなっていた。


[続く]


紺と有紀が天文部部室へ到着するまでの、真水と道音の会話。

「ねえ真水先輩」

「どうしたの、道音ちゃん」

「ゆきっちといつくっつくの、私としては早くくっついて欲しいんですけど」

「げほっ、げほっ!?」

「先輩!?」

「いやぁ、ごめんごめん……前にも有紀から『高校卒業の時に離ればなれになるくらいなら恋愛関係になるのが良いんじゃない?』って言われたっけ」

「それだけ真水先輩のことを手放したくないんだよ」

「うーん、まあ分かるけどさあ……異性として見たこと無かったから……というか道音ちゃんこそいいの?有紀のこと好きだったでしょ」

「私はもう妹にしか見えないからなあ」

「一応君からしたら先輩だよ……」

「だって外面だけちゃんとしてるアホの子じゃんゆきっちって」

「否定はしない……」

「文化祭の時旦所制服入れ替えカフェやるっていってたけどさ、今のゆきっちが男装かあ……予想つかないや」

「絶対着られてる感出るよね」

「だよねー、というか話戻すね、絶対真水先輩はゆきっちとくっつくべきだって」

「戻さなくてよかったのに」

「いや、あれほど容姿端麗、成績優秀のスーパー美少女から好かれる事ってそう無いよ?真水先輩ゆきっちとくっつかなかったら絶対将来孤立して連帯保証人のサインを請け負っちゃって、多額の借金背負うタイプだよ?」

「妙にリアリティある予想立てないでよ」

「だって真水先輩頼まれたら断れないタイプにしか見えないもん」

「え、そんなことないよ」

「じゃあ今その場で立ってゆっくりと一回転してみて」

「いいよ、こう……?おとと……」

「ほらやっぱり杖使ってて動くの大変だし、断るかと思ったのに」

「う、否定材料が」

「まあ卒業までにくっついた方が良いって、真水先輩のためにもなるし」

「……あ、二人の足音聞こえてきたね」

「誤魔化さないでよ」

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