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⑰勇気

僕――鶴山 真水(つるやま まみず)は他クラスとの共同授業のため、別に用意された教室へと向かっていた。

最近はようやく歩くことにも慣れてきて、杖を使う事が板に付いてきたような気がする。時折車椅子で生活していたことが懐かしくすら思うようになってきていた。

一ノ瀬 有紀と一緒に事故に巻き込まれて下半身が動かなくなった時はこの世の終りかと思うほど絶望していたが、案外何とかなるものだ。

そんな中、ふと目の前に見知った顔が見える。早歩きは出来ないので大声で声を掛けることにした。

「あ、おーい!友坂ー!」

その声に友坂 悠(ともさか ゆう)は不思議そうに振り返る。僕とは違い、落ち着いた雰囲気を(かも)し出している。

「あ、鶴山君。おはよう」

「うん、おはよう、丁度見かけたからさ」

「気付かなかったよごめん、というか大丈夫?歩ける?」

友坂は気遣うように僕の杖の方を見ながら話す。

「へーきへーき、ほら!!こんな感じで……おっとと」

大丈夫と言うことをアピールするためわざとらしく杖をぶんぶんと振り回して見せた。しかし、調子に乗ってバランスを崩してしまい、少しふらついて慌てた友坂に支えられる。

少し恥ずかしげに彼を見ると呆れた表情を浮かべていた。

「鶴山君って……結構お調子者だよね」

「そんなことないよー、僕だって真面目な時は真面目さ、あははっ」

「はは……」

「苦笑いしないで!?」

と、そこまで話したところで僕は本題に入ることにした。友坂、と改めて彼の名前を呼ぶ。

「ん?どうしたの?」

「この間さ、僕の幼馴染みが迷惑掛けたみたいだね、ごめんな?」

「幼馴染み?誰?」

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)っていう茶髪のお下げの女の子だよ、胸ぐら掴んだ、って聞いたけど」

「ああー……」

ようやく人物像が鮮明になったのか、どこか納得したように天を仰ぐ。そして、僕の方へと向き直る。

「いや、あの子の言うことも最もだったな……とは思うから別に良いんだけどさ。正直僕もどうしたら良かったのかな、って未だに悩んでるし」

「彼女さんには相談したの?一人で悩んでても答えでないでしょ」

「あ、そっか鶴山君には彼女出来たって言ったもんね。でも、これって()()()()()()だから巻き込むわけにはいかなくて」

思わずため息が出そうになる。どうしてこうも皆自分自身で問題を抱えたがるのだろうか。

一人で抱えたところで問題解決には至らないだろう、自分で抱えることの出来る問題なんてたかが知れてるんだから。

「友坂一人で抱えても解決するものなの?それって。何か行動に移さないと反映されるものも無いはずなんだけど」

「え、沢山考えたら解決への道が生まれるものじゃないの」

「……はあぁ……」

何食わぬ顔をし訳が分からないといった様子で返事を返す彼に、僕はつい堪えきれず大きなため息を付いてしまった。

「な、何?」

「あのね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?友坂も秋城さん?かな、に話し掛けられてどう答えるべきか分からなかったんでしょ?」

「う、うん……」

「いや分かるよ、不用意な言葉で不快にさせたくないもんね。僕だって例えば自分の言葉で有紀が傷付くのは嫌だよ、でもそれ以上に言葉を押し殺して自分が傷付く方が嫌じゃない?って思うんだけど」

「自分が傷付く?」

「そう。『なんであの言葉を言えなかったんだろう』とかさ、『言っておけば良かった』って自分が後々で納得できない気持ちを抱えるくらいなら、ちゃんと言うべきだと思うんだけど」

思わず熱が籠もってしまったが、彼は真摯(しんし)に僕の言葉を受け止めたようで顎に手を当て考え始めた様子を見せる。

「確かに君の言うことも一理ある、かも。実際僕も秋城さんに対して『本心に気付かせてくれてありがとう』とか言いたかったはずなのに、ついあの子と対面した時罪悪感みたいなのが湧き起こってきちゃってさ」

「それを本人に言いなよー、メッセージとか送ってないの?」

「……送ってない」

「ええ……まあ、いいや、今は文化祭の準備が忙しくなるからどうこうするタイミングじゃ無いと思うし……というかそろそろ教室に到着するからこの話は後にしようか」

「う、うん」

どこか考え込んだ様子のまま、友坂は教室に入った後自分の席へと腰掛ける。それに見習って僕も壁際の席に座った。杖は壁に立てかけることにした。

「不自由の先に自由はあるって思うけどさあ、さすがにこれは面倒が多すぎるでしょ……」

思わず誰にでもないところにボヤかざるを得なかった。ただ、確実に解決の糸口はつかめている気はしているからまあいいか、とも考えているのは事実だ。

昨日自分自身が言った、「皆自分を偽っている」という言葉が僕自身に深く突き刺さる。僕だって、「皆に前を向いて欲しいと願う僕自身」を偽っているのだ。


☆☆★☆


私――秋城 紺(あきしろ こん)は、船出 道音(ふなで みちね)と一緒に食堂へと来ていた。そこには既に彼女の友達らしき人達数人が待っており、談笑を交わしている。

「みーちゃん、こっちこっち!」

「ありがとー、席取ってくれて。ほら、この子が私が紹介したかった友達ー」

道音は私に視線を送る。思わず緊張して頬が強ばるのが自分でも分かる。

「あ、秋城 紺です。十六歳、好きな食べ物は筑前煮です。趣味は読書です。なにとぞよろしくお願いします……」

「堅っ!?クラスの自己紹介でももっとフランクだよ!」

「あははっ、好きなもの渋すぎ、おじいちゃんみたい」

「お、おじ……!?」

思わず顔が真っ赤になる。え、そんなに変な自己紹介だったかな?と道音の方を見ると、彼女も声を殺して笑っていた。

しかし、それにも限度が来たようでついには大声で笑い始めてしまった。

「道音ちゃんまで!?」

「ぶっ、あはははは!……はぁー、おっかしい、紺ちゃん緊張しすぎでしょ……」

「え、自己紹介ってこんなもんじゃないの?」

「いやいや、もう少し肩の力抜いて良いんだよ、というかここにいるの私の同級生なんだからそりゃ同い年でしょ」

「あ」

緊張して言い放った自己紹介の内容が徐々に思い起こされて、更に顔が熱くなる。

そのまま彼女達の顔を見ることが出来ず、恥ずかしくなって俯くしか無かった。

「よ、よろしくお願いします……」

「うん、よろしくねー、いやあ紺ちゃん、でいいよね?面白いなあ」

「面白くないもん!?」

「紺おじいちゃん」

「せめておばあちゃんにして!?」

「いやおばあちゃんも駄目じゃない?」

「え、あっ、ほんとだ……お姉さん?」

思わず彼女達の言葉に一つ一つツッコミを入れていると、再び彼女達も爆笑してしまった。その様子を見ていると、思わずこっちまで笑顔になってしまう。

歩み寄るのは勇気が要ることだけど、こうやって一度彼女達の中に入れたらとても楽しいものなんだな、と私は初めて気付くことが出来た。


[続く]

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