強請り集り
学校の教室、一時限目が終わり休憩時間、俺はオークの3人を呼びつける。
「やあ、お前ら約束は覚えているだろうな。なかなか誘ってくれないから心配になるじゃないか」
ビックとしたオークは俺の目を見ずに呟くような声で答える。
「もちろん覚えています。リン太さんのご都合を聞こうかと思っていたところです」
「なんだ、それなら丁度いい。第1回懇親会はこの土曜のランチがいい。そっちの都合はどうなんだ」
「ありがとうございます。土曜の昼ですね。セッティングします。リン太さんお一人ですか」
「ああハム太も一緒だから2人だな。お前たちは3人か。場所はどこだ」
「はい俺たちは3人です。場所はスタミナ次郎か焼き肉大王を考えています」
「どちらも食べ放題の店じゃないか」
「リン太さん勘弁してください。俺たち金ないんです」
「気持ちは分かる、俺も金はない。焼き肉大王に決定。それはいいのだけどお前たちの名前まだ聞いてなかったな。自己紹介しろよ」
「失礼しました。俺、ブン太と言います。土建屋トン太郎組で働いています」
「俺はゴン次郎言います。ブン太と一緒に働いています」
「俺はガン蔵言います。同じです」
「ブン太にゴン次郎とガン蔵か、土曜日楽しみにしている。もう行っていいぞ」
「「はい、失礼します」」
あわてて自分たちの席に戻っていく。
先ほどの一連のやり取りを見ていたカナコが嫌な顔をしながら俺を睨む。
「今の何。リン太はあいつらを子分にしたの?なんか嫌な感じ」
「前の日曜日、あいつら俺たちに絡んできて嫌な思いさせられただろう。だからその償いに肉を奢ってもらうだけだよ」
「なら私たちも食べる権利あると思うのだけど」
「なんだ、そっちかい。カナコとミサコなら償いでなくても、あいつら喜んで御馳走してくれると思うよ」
「・・・オークたちは無しで、焼き肉だけ頂くことはできないかな」
「それは100%集りだな。俺より酷いと思う」
「違うよ。これは正当な慰謝料の請求よ」
「分かった。帰りにカナコたち用のお土産にケーキでも買ってあげるように言っとくよ。多分喜んで買うだろうさ」
「じゃ、土曜日の3時頃に届けてよ」
「どこにだよ」
「私の家。いいよねミサコ、3人でお茶しよう」
「まて、3人は無理だ。その日はハム太も一緒だからまた4人になる」
「・・・ケーキは諦める。ハム太さんに家を知られるのは少し怖い」
「・・・」
俺がカナコでも同じ気持ちになると思うからハム太に同情することは無い。ハム太に新しい女の子ができるまでカナコたちの話題は出さないよう気を付けようと思う。
丁度休み時間も終わり教官が教室に入ってきた。微妙になってきた会話はここで終了することができた。
授業の終了と同時に俺は荷物を素早くまとめて帰宅した。少しの時間でもミサコと話がしたかったが、余り押しが強すぎては嫌われる事が分かったからだ。それに妹のヒロミの事も気になる。
寮に帰ってきた俺は、女子大部屋のドアをノックする。中からハム太の元将軍様であるリサがドアを開けてくれた。
「やあ、リサ。妹のヒロミと話がしたいのだけど呼んでくれるかい」
「いいよ。でもリン太なら中に入っても歓迎するよ」
「いや、それは不味いよ。嬉しいけど少し怖いし」
「ふふ、残念。ヒロミ!あんたの兄さんが呼んでるよ」
奥からペタペタとスリッパの音を立ててパジャマ姿のヒロミがドアまで来た。
「少し話があるから、食堂までこれるか?」
「いいよ。直ぐ行くから先に行っといて」
俺が独り食堂の席に腰掛けて待っていると普段着に着替えたヒロミがやってきた。
「お待たせ。それで兄貴何の話し?」
「大した話しではないが、この日曜の昼、学校の友達を紹介したいのだけど付き合える?」
「この土日は兄貴と一緒にこの町を探索したいと思っていたから大丈夫だよ。もしかして、その友達というのは兄貴の彼女さん?」
「違う。女友達ではあるが彼女ではない。それと土曜日は同じ学校の野郎友達と焼き肉ランチの約束があるんだ。町の探索はこの次だな」
「分かった。それなら土曜日もその野郎友達との食事に混ぜてよ。兄貴の友達は知っておきたいから」
「野郎友達は特に親しいわけではないよ。なら飯食った後は町を案内してやるよ」
「了解、楽しみにしてるね」
「ああ、今日はもうお休み」
「お休み」
俺は自分のベッドに横たわりながら、ゴブリン村から届いた手紙を眺めている。これは今朝届いた2通目の手紙だ。日付は2週間前、またゴブリン村の村長からの手紙である。
2週間前、ゴブリン村に行商人が来ているとある。そいつは薬屋だと言っているが、ヒロミの事を必要に聞いてくる。怪しいので知らせてくれたようだ。
過去の経験を思い出すと、あいつ絡みのトラブルは甘い物じゃなかった。今回も最悪を考えておかなければならないようだ。
あいつがここまで逃げて来たのは相当やばいに違いない。今日だって俺の交友関係を知りたがっていたのは利用できる駒を探しているのだろう。ヒロミの警戒ぶりから察するに、近いうちにダイコク屋関係の者がこの町に来ることは間違いなさそうだ。
俺たち兄弟が、生き残るためにはどうするかを考えなければならないな。
ダイコク屋がヒロミに致命的な秘密を握られていると思い込んでいるのなら、彼らの狙いはヒロミの口封じだろう。ならばこちらの勝利条件は敵の根絶やしになりそうだ。何人か見せしめに殺したところで諦めてくれないだろう。また俺一人の戦力では交渉も無理だ。やはり、コツコツ皆殺し作戦しかないか。
領主に訴え出て庇護を求める方法もあるが、ゴブリンの2匹のため動いてくれる領主様はこの世界にはいない。自分の身は自分で守るのが当然である。だからやり過ぎなければ大目に見てくれるのだ。やむを得ず皆殺しは、ぎりぎりセーフだと思う。
やると決めたら腹を括る。躊躇ったり、面倒くさがったりしてはいけない。最初の一人は情報を得るため拷問してからだろうな。
本当に面倒くさいな。いつ来るか解らない者を四六時中警戒するのは疲れるし物理的に不可能である。この場合罠を仕掛けておくのが効率的だし楽だ。それも簡単な罠。
しばらく考えたが簡単な罠も思い付かないので寝ることにした。頭を使うと腹が減る。
ミサコに魔法を教える約束をしてから毎日、腹が減るのを我慢して魔法の訓練をしていたが今日はさすがにガス欠だ諦めて寝よう。