俺の妹
月曜日の朝、朝のルーティーンである作業と食事を終わらせ、満腹になった俺は事務室に向かう。
事務室に入るとすぐにシズさんから一通の手紙を手渡された。
「リン太、ゴブリン村から手紙が届いているぞ」
何だろうと思いなら手紙を受け取り、その場で読んでみた。
村長のゴブ蔵からだ。俺の妹が、俺を頼ってこちらに来るらしい。日付を見ると一月前だ。あいつがいつ出発したか解らないが、もうここに到着していてもおかしくない。
「シズさん、少し相談があります」
「なんだ改まって、その手紙の事か」
「はい。妹が私を頼ってこの町に来るそうです。私は見習いですので養うことが難しいと思います。妹を私と同様に雇ってもらう事はできないでしょうか」
「ああそれなら多分大丈夫だと思うぞ。今は人手不足だからな。でも私が決める事ではないから事務長のバンに話しておいてやる」
「ありがとうございます」
面倒くさいことになってきた。あいつ性格悪いくせに無駄に可愛いからな。
午前の作業を終えて、食堂で飯を食っている所にハム太がやってきた。
「リン太の妹が来るんだって?」
「耳が早いな。だれから聞いた」
「バンとシズさんが話しているのが耳に入ったんだよ」
「早速シズさんはバンに話してくれたんだ。頼りになる」
「それで妹さんはどんな子なんだ。可愛いのか」
「普通のゴブリンだ」
「それはまあ何だ。あれか、男は殺せ、女は犯せ、な奴か」
「ハム太お前のゴブリン認識は一般的かもしれないが、俺の妹は当然女の子だよ。それがそんな奴な分けないだろう」
「すまん。じゃどんな子だよ」
「普通に可愛い。見かけだけは、手出すなよ」
「おっ、リン太兄さん意外にシスコンだったりして」
「ちげーよ。あれは小鬼でなく小悪魔なんだよ」
昼休みが終わり事務室にもどるとバンがいた。
「妹さんの事は頭取にも話を通しておいたよ。心配はいらないと思う。それでいつ来るのだ。部屋の準備は今日中に準備しておいてやる。働く部署は面接した後で決めるからな」
「ありがとうございます。でもいつ到着するか解りません。ここ数日の内だとは思います」
「分かった。到着してから報告してくれ」
「承知しました」
あいつ今どこにいるのだろう。また俺トラブルに巻き込まれる予感がする。
一日の仕事を終え、学校に行こうと道に出たら奴がいた。
「兄貴、久しぶり」
「おう、ヒロミ久しぶり、今着いたのか。荷物はどうした」
「うん。荷物は宿に預けている」
「どこの宿だ。」
「宿はこの近くのサヌキ屋てとこ」
「高級旅館じゃねえか。相変わらずおまえ金あるのだな。今から学校に行く所だったけど今日は休むことにするから、そのサヌキ屋で少し話そう」
俺たちはサヌキ屋に行き、ヒロミが借りた部屋で話をすることにした。
サヌキ屋はこの町一番の高級旅館である。一泊するだけで俺の一月の給料が消えてなくなる。
「それでヒロミは何しに来たんだ。トラブルから逃げて来たのじゃないのか」
「私がそんなヘマする訳ないじゃない。久しぶりに兄貴の顔を見にゴブリン村に帰ったら、村長からここにいると聞いてわざわざ訪ねてきたのよ」
「嘘コケ。村長からの手紙ではお前の面倒をみろと書いてあったぞ。何かやばい事になって、ほとぼりが冷めるまで隠れていたいのだろ」
「さすが私の兄貴、解っているのなら話が早い。頼ってよかった」
「けっ。分かったよ。俺の居る金貸し屋で雇ってもらえるよう話はついている。この宿は早々に引き払って明日の昼頃店に来い。トラブルの内容については今から詳しく話してもらうからな」
ヒロミは見かけの可愛さと商才があって小銭を稼ぐのが上手い。ヒロミに言い寄る者以外にも、その才能を妬む者、利用しようとする者がたまにいる。
以前、俺はヒロミにうまく利用され、トラブルを解決させられた事がある。その時はひどい目に合った。
それからしばらくして、妹はゴブリン村に来た商団について行った。少しホッとしていたのに、こんな所までくるとは、奴は俺のトラブルメーカーである。
話を聞いてみると、今回のトラブルも以前と同様人情がらみ、ヒロミに入り上げた野郎がしつこい上、商団の大事な取引筋なこともあって置いておけず逃がしてもらったらしい。本当かな?大体は合っていると思うが、どうせ相手に変な期待をもたらした結果、身の置き場がなくなったのだろう。
「で、その相手というのはここまで追いかけて来そうなのか」
「本人は忙しいから来ないと思うけど、人を雇って探させるかも」
「まじか、お前そいつの金持って逃げてないよな」
「金なんか盗っていない。勝手にくれた宝石なんかは持っているけど」
「今持っているのか、全部見せてみろ」
ヒロミは革の小袋を取り出す。中身を確認したが、ゴブリン村の奥山に住むドラゴンの宝物と比べ大した物はない。身に着けているアクセサリーも飛びぬけて高価そうでもない。特別な物は無いようだ。
「本当にこれで全部か。人を雇ってまで取り返すほどでないと思うが。どうして人を雇って探させると思うのか説明しろ」
「私が可愛いから」
「はいはい、それは認める。他にあるだろ」
「・・・あいつの秘密を知っているかも」
「何だその秘密は、そいつの大事なところが極端に小さい事か」
「ばか、私がそんな事知るわけないでしょ。あいつの扱っている物に魔性丹があるのだけど、その一部にやばいのが混ざっている」
魔性丹は高価ではあるが一般的な強壮剤である。しかし一部に強烈な効果をもたらす半面、深刻な副作用がある物がある。もちろんそれは違法であり、取り扱った者は死罪だったはず。
「本当か、お前がその事を知っているのをそいつは気付いているのか」
「分らない」
「・・・ならお前がその秘密を知らないという事にして生活しよう。必要以上に警戒しない方がいいかもしれない。ただ単にしつこいストーカー男から兄を頼って逃げてきました。この設定でいこう」
「もし、私を探している者が来たらどうするの」
「その時は前にも遭ったように、兄として妹を付け回す悪い男を半殺しにするか炭にするか、そんなところだろ。疲れるし面倒くさいからやりたくないが、仕方ない」
「やったね。さすがは兄貴」
もう勘弁してほしい。嬉しそうな妹を部屋に残して俺は寮に帰った。