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祇園精舎の鐘の音

 ウズカで軽くランチを終えた俺たちは、露店のならんでいる道をぶらぶら歩いている。元気を取り戻した俺はハム太と並んで前を歩き、その後ろ少し離れてカナコとミサコが歩いている。

 俺が行きたい所は食べ物屋ばかりになるので、ハム太やカナコ達の意見も取り入れて次は、アクセサリー等小物を置いてある露店である。

 初めてのデートだから記念なる物を買いたい。

 その露店の前で足を止めると、ミサコが俺の隣に来た。

「リン太は初めての給料だから両親に何か買って上げるの?」

「いや、俺には親はいないからそれはないよ。初デートの記念に何か買おうかと思って」

「そうなんだ、ごめん・・・。デートの記念なら私が買って上げる。ランチ御馳走になったから」

「嬉しいな。それなら俺からもプレゼントさせてくれ。今日の記念に」

「じゃ、お揃いにしようか」

 何この展開、現実なのか?良い事ありすぎ、もしかして俺、明日死ぬのかもしれない。

 冷静に考えると、ミサコにこんなに好意を向けられる理由は、俺が魔法を使ってからだ。ミサコは魔法大好き少女なのかな。それならば俺に魔法を披露させてくれたオークの餓鬼どもに感謝だな。


 俺たちは雑貨屋を後にして、イカ天、かき氷、たこ焼き、ラーメンと何軒もの露店を食べ歩いた。俺を含め4人は、底なしの食欲の持ち主であることが分かった。俺たちは成長期の只中にいるのだ。

 カナコもミサコもよく喰うなと思う。でも美味しそうに食べるミサコはとても可愛い。

「ミサコ達は、普段からそんなに食べるの?」

「うん。カナコと私はこのくらいは普通かな」

「でもミサコ達、全然太っていないね。ネコ族はみんな太らない体質なのかい」

「父はデブネコだよ。母はそうでもないけど。リン太も食べる割には太っていないじゃない」

「俺は燃費が悪いだけだよ。特に魔法は腹が減る」

「そっ! リン太は魔法が使えるよね。すごいね」

「ミサコに褒めてもらえて嬉しいけど、今の俺ではオーク達に出したあれが精一杯だよ。普段出せるのはマッチの火ぐらいさ」

「えっ、そうなの。指の先からゴーと凄い炎を出して、お前らを丸焼きにして食ってやるって言っていたじゃない」

「食ってやるなんて言ってない」

「そうだったかしら?」

 オークのやつらにそう印象づけるよう言ったのは本当だけど、言葉は選んだはずだ。

「ミサコは魔法にとても興味があるみたいだね。俺に解る事なら教えてあげるよ」

「本当?気持ちを込めてピッとか、強く込めてゴーとかじゃだめよ」

「うーん。次会う時までに考えておく」


 俺とミサコはとても仲良くなった。ハム太とカナコはどうかなと二人の方を見ると、二人は少し離れた所でヒソヒソと何やら小声で話し込んでいる。随分と仲良くなったようだ。

 カナコが俺の方とちらりと見た瞬間、俺の目と合った。カナコは無表情のまま近づいてきた。ハム太に目を向けると少し震えているように見えた。嬉しさのあまり震えているのとは違うようだ。ネコがネズミを脅した?

 カナコは俺とミサコの前まで来ると突然聞いて来た。

「ねえリン太とミサコは付き合うの?」

 俺はミサコを見たが、ミサコは肯定も否定もしない。これは肯定していると受け取っていいはずだ。

 俺はカナコに向かって宣言する。

「俺はミサコと付き合う」

「私はリン太から告白されていない。だから付き合わない」

ガーン、ガーン 俺の頭の中で祇園精舎の鐘の音が鳴っている。諸行無常の響きなのだ。俺の栄華は一瞬だった。だが望みはまだある。

「俺は、ミサコが好きだ。付き合ってくれ」

「考えとく」

「・・・」


 俺たちのデートは終わった。

 なぜかハム太は嬉しそうだった。


 俺とハム太は会社の食堂にいる。デートから帰ってきて疲れた心を癒している所である。

「何でこうなったんだ。途中まで上手くいっていたのに、最後に告って振られた?ハム太はどう思う。そう言えばハム太とカナコも随分仲良くなったように見えたけど、どうなんだよ」

「俺はカナコの事、会った瞬間から好きになった。すごく可愛いもんな。それで告って振られた」

「えー 早すぎない。初めて会って、直ぐに告白。そして玉砕。でも何だか嬉しそうなのは何でだよ」

「それは一度や二度振られたぐらいは振られた内に入らない。ミサコと知合いに成れたことの方が嬉しい」

「俺も振られたが、諦めてはいけないと言うことか」

「ああ間違いない。返事を保留するという事は一般的にはノーと言う事だが、押して押して押しまくるのが女を口説く正式な作法である」

「ストーカーはしたくない。俺は明日からの学校に行くのが少し憂鬱だよ」

「鈍いやつだな。リン太はリン太の気持ちを貫けばいいだけだと思うよ」

 俺はハム太の自信がどこから来るのか全く理解できないが、まだ諦める事はないと言っているのは分かった。


 夜になりベッドに横になりながらまた今日のデートの事を思い出す。手の中にはネコがデザインされた金属の腕輪がある。ミサコが買ってくれた物だ。これを見るたびにミサコを思うのだろう。これで本当に振られたら呪いのアイテムだな。

 俺が買って上げた同じものは大切にされているのかな。・・・オークの野郎からはいつ奢ってもらおう。楽しみだ。色々な事が頭の中を巡るが腹も減ってきたので寝る事にしよう。

 俺は腕輪を枕の下に隠し目と閉じた。いい夢を見れそうな気がした。


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