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恋は燃え上がる

 約束の校門前には、すでにカナコとミサコがいた。それに学校で見かけたオークの野郎が3人いる。

 何これ、いきなり想定外なのだけど。

「なあハム太、ハム太のシュミレーションの中にこの状況はあるの?」

「・・・ ない。でも恋に障害は付き物だ。それに障害が大きいほど恋は燃え上がると言うじゃないか」

「その障害というのは、反対する親や周りの人たちの事じゃないのか」

「普通はそうだな。面倒くさくなったら、あいつらをリン太の火炎魔法で燃やしたら良いんじゃない」

「恋は燃え上がるって、そっち? 小さな火ならともかく、大きい炎は疲れるし腹が減るから使いたくない」

 何のかんの言いながらもカナコの前まで来たので、取り敢えずお決まりのセリフを言う。

「ごめん、待たせた?」

「全然待っていない。今来たところ」

 このテンプレート、一度やりたかった事だ。しかし、余計なのがいる。

「で、こいつら何」

「来る途中で会って、しつこく纏わりついて来たのよ」

 ミサコも嫌な顔をしている。俺は初デートにケチを付けやがったオークたちを睨み上げる。

「俺たちは今からデートなんだ。邪魔するなよ」

「いいじゃないか。俺たちも混ぜてくれよ。多い方が楽しいぜ」

「・・ハム太 俺、疲れるから嫌だと言っていたが前言撤回。こいつら丸焼きにする」

 俺は右手の人差し指からゴーと炎を出す。

「今日のランチはパスタから焼き豚へ変更だ」

 俺から一番近くにいたオークの一人はその場でへたり込んだ。後の二人は一瞬、何が起きたか分からないようだったが、口をパクパクさせると、少しずつ離れていく。

「待ってくれ。冗談だ。許ぢてくれ」

「冗談ですむ段階は過ぎてんだよ。俺がこれを出すとめちゃくちゃ腹が減るんだよ」

「分かった。この埋め合わせは必ずする。本物の豚料理を奢る。俺を食わないでくれ」

 俺は火炎放射をすっと消す。

「3人だから3回分だ。分かったら行っていいぞ」

 オーク達は一目散に逃げて行った。


 魔力を使い過ぎて腹ペコになった俺はもうよれよれ。けだるい体を我慢しながら振り向くと、ハム太たち3人の目は点になり、口はあんぐりと開いていた。今日はこんな顔ばかりが流行っているのか。特にハム太は自分が言い出したこのなのに、その表情はおかしいだろ。それに今日、二回目だ。

 直ぐに立ち直ったカナコは俺に詰め寄る。

「リン太、魔法が使えるの?あなた本当にゴブリンなの?」

「リン太は栄養の行き届いたゴブリンらしい。あの初めまして、俺、ネズミ族のハム太と言います。リン太の同僚です。今日はよろしくお願いします」

「あっ、ごめんなさい。初めましてカナコです。こっちがミサコです。よろしくお願いします」

「ミサコです。よろしくお願いします」

「それでハム太さん、栄養の行き届いたゴブリンてっ何なの?」

「ハム太でいいよ。俺も今朝、初めて知った事だけど、ゴブリンは魔族の一種なので基本、魔法が使えるらしい。我々の知る一般的なゴブリンは、食い詰めゴブリンと言って栄養失調の状態であり、魔力を殆どもたないため魔法が使えないそうだ。その点、リン太は社内の食堂で毎日たらふく食べているから魔法が使えるようだよ」

「へー凄いね、リン太。あれリン太、大丈夫?よれよれじゃない。ミサコの前だからと言って無理してカッコつけたのでしょう」

 俺は力なく笑う。ミサコはこんな俺を見て笑っている。とても可愛い。

「ここに居ても何も始まらないから、取り敢えず例のパスタの店に行こう」


 カナコ先頭で俺たちはウズカに入った。よれよれの俺はミサコの後、一番後ろからついて行った。店は賑わっていたが、予約をしていたため待たされることもなくスムーズに席に案内された。

 案内された席は、ゆったりした四人掛けのテーブルだ。俺の隣にはハム太が座り、前にはミサコ、ハム太の前にはカナコが座った。

 カナコとミサコは、お互いに一つのメニューを眺めながら、何にしようかと楽しそうに話している。俺の腹はペコペコなので、何でもいいから早く食べたい。今なら店中の全てのメニューを食べられそうだ。

 しかし、何事にもガツガツした男はモテない。これは、元恋の伝道師ハム太から事前教育を受けた知識だ。ハム太の実績から考えると今一信憑性が少ないが、俺が女であったなら、やはりガツガツした男はどうかと思う。ここは、精一杯のやせ我慢、口内からあふれ出しそうになる唾液をゴクゴクと嚥下する。まるで仕事の終わったオヤジがビールを飲み干すがごとく。

「ハム太は何にする?」

「俺はナッツ入りのパスタと、やはりエビフライにする。リン太は?」

「海鮮パスタと、俺もエビフライかな。カナコ、ミサコ決まったかい」

「私も、リン太と同じものにする」「私も同じ」

 注文を終えると、カナコとミサコは俺に注目する。やはり先ほどの魔法が気になるようだ。

 可愛い女の子二人から見つめられて悪い気はしないが。

「俺はゴブリンだから多少魔法が使える。でも魔法を使うと疲れるし、お腹が減るので普段は使わない。以上です。何か質問があればどうぞ」

 すぐにカナコが手を上げる。

「はい、ゴブリンが魔法を使えるなんて初めて聞いたのだけど、本当にゴブリンはみんな魔法が使えるの?」

「基本的には、全員使えるものだと思う。体調に大きく左右されるし、人それぞれ得意不得意があるからな。人間も、獣人も魔法を使う人はいるだろ。魔族はその割合が多いのかも」

「リン太はその魔法、どこで習ったの」

「特に習ったわけではないが、ゴブリン村の村長が熱燗を温めるとき火を起こしていたから見よう見真似で、いつからかできるようになった」

「なるほどね、ゴブリン村に魔法学校がある方が変だね。それでどうやって火を出すの」

「指先に気持ちを込めて、ピッと出す。大きな火は気持ちを強く込めて、ゴーと出す」

「「・・・・」」

 誰もが言葉を失った時にタイミングよく料理が運ばれてきた。

「料理がきたので質問タイムは中断、取り敢えず食べよう。ここの料理は美味しいよ」

 俺以外の全員は、運ばれてきた料理に初めて気が付いた様だ。色取り取りのパスタと小麦色に揚がったエビフライを見て全員の顔がファッと明るくなる。

 カナコはニコニコしながら俺に話しかけてくる。

「モグモグ。リン太、本気でオーク達を焼くつもりだったの?まさか食べたりしないよね」

「モグモグ。わりと本気で腹が立ったけど、3人全部は食べれないだろう」

 また俺以外の全員の口があんぐりと開いた。

「冗談だよ。みんな俺を何だと思っている」

「「ゴブリン」」三人の声がハモル。

「それに、リン太の冗談は毒が強くて笑えない」

 カナコの言い分にみんなが、ふんふんと頷いている。

「当たっているけど、一般的なゴブリンと人間とでは、食べ物に関する認識の違いに大きな差はないと思うよ。人間が大好物なゴブリンはいない。と思う」

「なぜ最後に自信なさげなの。まあいいけど、リン太がそうでないのは信じる。人間にも食人族がいるようなことを聞いたこともあるし」

 人間同士で食べるなんて人間はかなりやばい。やはり気を付けようと思う。

「実は俺もこの町に来ることに少し不安だった。人間はゴブリンを見つけるとすぐに殺しに来るというのがゴブリン村の常識だから。そう言えば、あいつらオークも魔族だよな。それにオークこそ狂暴で何でも食べるイメージだけど、ここでは割りと多数派の一般市民だ」

「ごほん、ごほん」

 ハム太が何やら自信有りそうな顔をしている。これは薀蓄を垂れ流す前兆だ。カナコとミサコはハム太に目を向ける。

「それな、リン太はまだ、この町に来て日が浅いから知らないだろうから教えてやるよ。この町は、町としてできたのは、ほんの20年前だ。それまではただの鬱蒼とした森だった。そこを開発して今に至るのだが、今も開発はどんどん進められている。だから土木建設工事が得意とする力持ちのオーク達が、各地から集まっているのさ。そもそもこの町の生い立ちは・・・」

カナコとミサコは料理を堪能している。ハム太は薀蓄を垂れ流し中である。

「リン太、このエビフライ本当に美味しいね」

 初めてミサコが俺の名を呼んだ。

「そうだな、エビフライ美味しい。他にカルボナーラと言うのもお勧めらしい。俺の上司のシズさんが恍惚とした表情で話していたから、相当期待できると思う」

「本当?じゃ今度来たときは、それを食べようね」

ミサコは俺の方を見て嬉しそうに言う。それって次のデート確定?

俺はハム太に目を向けるが、ハム太は自分の薀蓄に夢中である。カナコに目を向けるとカナコはビックリした表情を浮べている。

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