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初めての給料日

 今日は待ちに待った給料日、就業時間の終わりに配られるそうだ。待ち遠しい。そんな俺をはたから見ていたシズさんが声を掛けてきた。

「リン太、生まれて初めての給料は特別だからな。実家のご両親に何か買って上げるのか」

「いいえ、親はいません。妹がいるはずですが、どこに居るのか分からないので、給料は自分のために使います」

「そうか、変な事を聞いて悪かったな」

「気にしていません。それよりシズさんに教えてもらったパスタの店ウズカ、エビフライとても美味しかったです。ありがとうございました」

「そうだろう。私もあそこのエビフライ大好きだよ。カルボナーラも悪くない」

「カルボナーラとはどのような料理ですか」

「炒めた豚バラとチーズが入っているスパゲッティに黒胡椒を振り掛けた物だな。それとウズカには温泉卵がのっている」

 料理の説明は簡単であったが、シズさんは思い出しているようで、恍惚としている。俺もごくりと唾を飲み込んだ。説明からはどんな料理か解らなかった。でも急激にお腹がすいてきた。

 カルボナーラなるものを想像している俺の顔を見て、ハッと我に返ったシズさんは机の上にある書類を片付けながら俺に作業指示を出す。俺の顔はシズさんを正気に戻すぐらいのあほ面だったのだろう。

「今日もあと少しだ、支店に運ぶ備品の準備、今日中に終わらせるぞ。これを片付ければ給料をもらって一杯やろう」

「シズさん、オッサンみたいですね。でもカッコいいです」

「・・・それ褒めてるのだろうな」

「もちろんです。シズさんは男前です」

 シズさんは少し苦笑い、その後俺をこき使って予定通り作業を終わらせた。

 総務事務室に帰ってみると給料の配布が始まっていた。俺はシズさんの後ろからついて行き給料袋を受け取った。銀貨9枚に銅貨30枚が入っていた。嬉しい。多いか少ないかは別として、とにかく嬉しい。労働の対価として得たものだ。盗んだものでも、奪ったものでも、騙したものでもない。

俺はひと時喜びを堪能した後、食堂に行った。料理を持って周りを見渡すとハム太がいた。直ぐにハム太の隣に座り給料いくら貰ったか聞いてみた。

「普通、人の給料を聞かないよ。俺のはリン太より銀貨が1枚多い銀貨10枚に銅貨30枚だ」

「えっ、どうして俺の給料知っているんだ」

「去年の俺の給料がそれだったからな。大部屋住は最初が銀貨9枚、銅貨30枚で一年経つと銀貨が1枚増える。二年経つともう一枚増える。三年目はない。首になるか、大部屋を卒業して一人前になるからな」

「そうなんだ。ここは3年間限定とは言え、タダで住まわせてくれて食事まで提供してくれる。その上少ないとはいえ給料もくれるのはすごく良いよな」

「ハム太、その金はいい服を買うために貯めておけよ。一人前になるには身なりも大事だからな。信用は見かけが悪いとまず得られない。冒険者が武器や、装備を揃えるのと同じだからな」

 この給料でデートに行くときに着る普段着を買うのと美味い物をたくさん食べようと浮かれていた俺は少し恥ずかしい気持ちになった。営業部にいるハム太は流石だなと思った。カルボナーラを思い浮かべて幸せそうなシズさんからは得られない情報だと思った。

 今日も学校がある。ミサコたちと会うのが楽しみだ。

 学校に着くとカナコとミサコはすでに席についていた。

「おはよう」

夕方なのに挨拶は「おはよう」なのだ。少し変な感じだ。

「おはよう」「おはよう」

 カナコからは直ぐに挨拶が返ってきた。ミサコからは躊躇いがちの小さな挨拶が返ってきた。嬉しい。今日初めての給料を貰ったことよりも嬉しい。敵兵から二等兵に昇格した瞬間である。人生最良の日である。

「給料を貰ったんだ。今週末の日曜にみんなで出かけようぜ」

「多分そうだと思った。私たちも今日貰ったから。この町では給料日は毎月20日が多いのよ。それでどこ行くのよ」

「まずはランチに行こう。ウズカというパスタの店がお勧め。俺の上司の推しの店だよ。後はぶらぶらと露天商辺りを食い歩き、最後は神殿に行っておみくじ、どうでしょう」

「いいんじゃない。どこで何時に待ち合わせする。ミサコもいいよね」

 ミサコは小さく頷く。

「じゃ、この学校前、12時ぐらいでどう」

 カナコは即答。

「決まり、日曜よろしく」

 この日の授業は嬉しすぎて全て上の空、日曜が待ち遠しい。


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