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Peach Flows  作者: 佐武ろく
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【弐拾柒】どろぼう猫の食あたり

 リッドが被さりスリーブの巻かれた紙コップを手に持った桃と同じ物に加え紙袋をもう片方に持っていたリオは横並びで歩道を歩いていた。

 足を進めながら左ポケットへ左手を入れる桃。

 だがそこにお目当ての物は無く、その事に彼は若干焦りを冷や汗のように感じた。左ポケット、右ポケット、後ろの左右ポケットを片手で上から触る程度に調べてみるがどこにも無い。


「リオ。少し持ってもらえますか?」


 そう言いながら桃は隣を歩くリオに紙コップを差し出す。リオは自分の持っていた紙袋と紙コップを片手に持ち、空けた方の手でそれを受け取った。

 そして両手が自由になった桃は左右と後ろのポケットへ手を入れ、今度は念入りに探る。


「どうしたんだ?」


 両手一杯に荷物を持ちながらリオは、そんな桃を眺め小首を傾げる。


「Cahuna《カフナ》にスマホを忘れたかもしれません」

「それなら胸ポケットに入れてなかったか?」


 その言葉にベストの胸ポケットへ手をやると、そこには確かにスマホの手慣れた感触があった。同時に確認する前から先程まで顔を覗かせていた焦りがすっと消えていく。

 早速、指を入れ中に入っていた物を取り出すとそれはやはりと言うべきか探していたスマホだった。


「ありがとうございます」


 お礼を言いながらそのスマホを左ポケットに入れる桃。安堵の所為か元々大したことではなかったのか、すっかりスマホでしようとしていた事を忘れてしまったようだ。

 そうとは気付かぬままリオに預けていた紙コップを受け取ろうとしたその時――前方から歩いて来た両手をパーカーのポケットに入れフードを深く被り俯いていた(桃より少し身長の低い)人物とすれ違いざまに肩がぶつかった。その人物はブーツにスラッと伸びた脚のラインが分かるスキニーデニムとプルオーバーパーカーを着ていた。


「悪い」


 そう単純作業のように呟き謝る言葉は、声も相俟ってか少し気の強さを感じられたがそれでいてどこか優しさを含み女性的なものだった。

 そしてそのまま通り過ぎて行こうとした女性だったが、桃はその腕を反射的な速度で掴み引き留めた。腕を引っ張られた事で振り向いたフードは中が見えぬ程度に顔を上げ桃を僅かに見上げる。それにより顔を覗かせた首のチョーカー。フードとその影に守られるように隠された表情は多くは語らなかったが薄暗い中、口元が微かに半開きになっているのが見えた。

 そして狭い路地を背景に二人は向き合い数秒が沈黙のまま過ぎ去る。周りの人々からすれば気にするほどの長さではなかったその沈黙を破ったのは女性の方だった。


「悪いって。そんな怒ることないだろ」

「そうだぜ。そんな事で。お前らしくもない」


 だが桃は特に怒っておらずその証拠に表情も平穏そのものだった。

 だからか相手から目を逸らさずリオの言葉を聞いていた桃は早々に口を開いた。


「別に肩がぶつかったことは気にしてません。私もよそ見をしてましたからね。それに紙幣を数枚盗られたとしても目を瞑りましょう。ですがそのスマホには色々とデータが入っていますので返してもらいたいですね」


 そう言うともう片方の手を相手の腕を掴んでいる手の上から差し出した。女性は動揺したのか返事は少し遅れて返ってきた。


「チッ。いけると思ったが意外と鋭いな」


 その言葉から謝意は一切感じられず、それどころかしくじったと溜息交じりだった。

 そして素直にパーカーのポケットから出した手が握っていたのは、彼の言う通りスマホ。

 するとそれを返そうとした相手の腕から手を離した桃は突然、差し出していた方の手を腰に回し彼女の体を引き寄せた。というよりは抱き寄せたと言ってよい程、二人は密着していた。

 突然の行動にスマホを握る手は止まり、抱き寄せられる際にフードが脱げ露わになった顔が桃を見上げる。陽の下に照らされた顔は野生を取り戻したような碧い猫目で全体的に短い髪と牙のように尖った八重歯。その顔は人間と変わらなかったが唯一、頭に生えた猫耳が両者の間に決定的な違いを生んでいた。そしてその顔は少し中性寄りの女性といった印象。


「放せよヘンタイ。セクハラだぞ」


 威嚇する猫のような双眸に睨みつけられる桃だったが、彼女がそう言うのも理解できたためそれは否定せず、まずは謝罪と共に軽く頭を下げて見せた。


「申し訳ありません。ですがあちらに捕まるよりは良いかと勝手ではありますが判断させていただきましたので」


 腰に回した方とは違う手がそのあちらを指し示す。その言葉に自然と女性の視線も手の先へ。

 そこには飛べそうなほど大きな耳と尻尾のように長い鼻、口元から二本の牙が伸びた顔が象の御伽がいた。ワイシャツに黒ネクタイの黒スーツに身を包み、顔は硬そうで皺くちゃな灰色の皮膚だったが、袖から見える手は象のそれではなく人の手。

 そんな人身象頭じんしんざうづの御伽は暗い路地からゆっくりと姿を現すとサングラスをかけた顔を桃らの方に向けた。


「もしかしてあなたのお友達ですか?」

「あんな不審な奴と知り合った覚えはねー」


 すると続いて頭が犀になった人身犀頭じんしんさいづの御伽が二体、暗い路地から現れ象頭を挟むように横一列に並んだ。三体とも黒スーツ姿で堅気には見えず警戒心を煽るような風貌だった。

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