episode 3
Side:恵那
この家に友達を呼ぶのは美波ちゃんと九君が初めてだ。
「恵那ん家まで、遠かったなぁ」
九君が、こたつに潜り込む勢いで入りながら、ボソッと言葉がこぼれていた。
「ごめんね。疲れたよね」
意識はしてなかったが、悲しい顔をしていたらしく、すかさず美波ちゃんがフォローしてくれた。
「車窓から見えた景色がとっても綺麗だったよ。ここちゃんは駅弁しか見てなかったけどねぇ」
「恵那、聞いてくれよ! その駅弁がさぁ」
「もう駅弁の話はいいっちゅうの。それより恵那ちゃん。この辺案内してよ。恵那ちゃんのお気に入りの場所とかあるんでしょ?」
「うん。じゃあ行こっか。とっておきの場所があるんだよ」
「ん? とっておき? 地元の銘菓とかか?」
「九君、お腹すいたの?」
「えっ? いやいや、違う」
「って言いながら、お土産屋さんに試食コーナーあったら直行してそうじゃないの、ここちゃんは」
するとここちゃんは腕を組み、宙を見つめながら……。
「あったら……行くか」
「ほらぁ」
美波ちゃんと九君のやり取りが面白くて、久しぶりにこんなに笑った。
「お母さん。村を案内してくるね」
「はぁい。お夕飯作って待ってるから、お腹空かせておいで」
「俺留守番しようかな!」
「ここちゃんはただ、つまみ食いしたいだけでしょ! いいから行くよ」
「つまみ食いって失礼だぞ。するなら味見だ!」
「九君ならつまみ食いでも味見係でも、おばちゃんはオッケーよ」
「そうですか!
それじゃあ……痛い痛い」
美波ちゃんに耳を引っ張られる九君を見ながら、これからのことを考える。
Side:美波
「初めて来たのにどこか懐かしい感じがするね」
「田舎なんてどこもそんなもんだよ」
私には非日常であっても、ここで暮らす恵那ちゃんには日常なんだなと改めて思った。
「ねっ、恵那ちゃん。とっておきの場所連れてって」
「わかった。あそこだよ」
そう言って恵那ちゃんが指を差したのは山の中だった。
「この中を行くのか? マジか! クマとか出ねぇよな」
「えっ? クマって、ここちゃん。やめてよ脅かすの」
「美波ちゃん、九君。クマ出ないから大丈夫。私、見たことないもん」
「今のとこな。いいか? 恵那、美波。山と書いて熊と読むだろ?」
「読まないわよ! だいたい今のとこなって何よ。恵那ちゃん見たことないって言ってんでしょ」
「美波ちゃん。大丈夫だよ。本当にいないから……熊は」
「恵那ちゃんも含みを持たせた言い方しない」
これだけうるさかったら、動物の方が逃げていくことだろう。
Side:?
「何盛り上がってるんだよ、恵那のやつ。それにしても都会から来た割に、あの男バカそうだな……。隣の彼女、親かっ? ってほど面倒みてるな。頭の弱い彼氏を持つと大変そうだな。まっ、俺には関係ないけど。ってか、アイツらどこまで行くんだ? 仕方ない、付き合ってやるよ。俺が恵那を守る。ただそれだけだ」
「ん? おいおい、アイツ何してんだよ。同じ歳なのか? 絶対にウソだろ! ただのガキだろ。 幼稚園児でもそんなことしないだろ。 都会の男ってあんな奴が多いのか? 俺、ココで良かったなぁ。あんな軟弱男じゃねぇもんな」
「おい、オラ。恵那を気安く呼び捨てにすんじゃねぇ。都会の軟弱男のくせに100年早いわ」
Side:九
「あいつずっとついてくるな。あとうるさいな。なぁ、恵那。なんか後ろでデカイ独り言言ってついてきてる奴いんぞ」
「あっ、私も気づいたんだよ。はじめからついてきてるよね。恵那ちゃんのこと心配してるみたいだから恵那ちゃんの彼氏?」
「そ、そうなのか? 恵那」
「何でここちゃんが動揺してるのよ。で、恵那ちゃん。どうなの?」
恵那はバレバレ尾行男に視線を向けると、残像が残るくらい高速で顔を左右に振った。
「そんなに速攻で否定する? よっぽと恵那ちゃん嫌なんだね」
「聞こえたかぁ? 彼氏じゃないってよ!」
後ろで聞いているはずの、謎の男に語り掛けた。いや、俺も大きなひとり言を吐いた。




