episode 14
Side : 美波
時間は少し遡り──
ここちゃんと湊君が恵那ちゃんを止めに向かってから、私はひとり恵那ちゃんの部屋で、ある探し物をしていた。
ここちゃんに言われたそれは、机や本棚には無く、私はさながら泥棒といった……いや、いくら自分でも、そんな例えをするのはよしておこう。
「あっ、あった。懐かしいなぁ」
私は小学校の卒業アルバムを手に取った。そしてこれが、ここちゃんから探して欲しいと頼まれていた物だった。
「見たら分かるって言ってたけど、ここちゃんは見てないじゃん。何があるっていうのかな」
ページを捲りながら、小学生時代の写真に懐かしさを感じていると。
「これ、酷い……どうして。恵那ちゃん」
これがここちゃんが見たらわかると言っていたことかと、私の目に映るそれは、見ただけで心を抉る程の力をもっていた。
「……とにかくこれを持って、急いでここちゃん達のところに行かなきゃ」
Side : 九
茂みの中を駆ける恵那を追い、俺も葉や枝を振り払いながら突き進む。腕や顔に細かい擦り傷を負いながらも、今は恵那を止めることしか頭になかった。
「恵那! 聞こえるか? この先は崖になってる! 危ないからこれ以上は進むな!」
急に足場が無くなれば、恵那の姿が見えないこの状況で助けることは難しいだろう。何としても最悪の事態だけは避けなくてはいけない。
「お前が抱えてる怒りも! 悲しみも! このまま一生恨んでもいい! 全部俺が受け止める! だから!」
「だから……何よ! 全部受け止めるですって?」
恵那の声は、俺が進もうとしていた方とは違う方角から聞こえた。何とか視界に恵那を捉えるものの、そこは一歩踏み出せば落下してしまう死の淵だった。
目を逸らさず、熱を帯びたまま、しかし静かに言葉を伝えていく。
「ああ。全部受け止めるよ」
「じゃあここから飛び降りて」
「……わかった」
このまま自然と恵那に近づくチャンスだが、それを悟られないようにゆっくりと距離を詰める。
腕を伸ばせば、掴んで引き寄せることが出来るとこまで来たときだった。
「ここちゃん!」
「恵那!」
声のする方へ顔を向けたほんの一瞬。 ザッという音と共に足元が崩れ、俺と恵那は宙に投げ出された。何かを掴まなくてはと思い、必死に片手で植物の蔦を握り、もう片方で恵那の腕を引っ張る。
「恵那……大丈夫か? 湊っ! 頼む。恵那を引き上げてくれ!」
「九君。放して。私なんていっそこのまま……」
「ばか野郎! いっそこのまま死んだ方がマシだとでも言いたいなら、この先の人生を死ぬ気で生きてみろよ! 俺を恨んだままでもいい。恵那が生きててくれるなら! だから……そんなこと言うなぁぁ!」
崩れかけの崖の上から差し出された湊の手に、俺はありったけの力を込めて恵那を渡した。
「九! 恵那を掴んだ! もう大丈夫だ。お前もすぐに引き上げるから、もう少しだけ耐えてくれ!」
「わかった。頼むよ!」
恵那が崖から救い出されたのを確認した俺は、そろそろ握力が限界をむかえようとしていた。
「ここちゃん! 大丈夫? すぐ助けるからね!」
「美波か! ああ。大丈…………」
美波の声に気が緩んだのか、俺の掌から蔦が滑り抜けていった。
「……ここちゃん!?」
もう物を掴む力は残っておらず、この高さから落ちれば命は助からないだろうなと、どこか他人事のような思いが脳裏をかすめる。
「悪い、美波。お前に伝えたかったことがあるのに……」
そして、俺は落下した──




