episode 13
Side: 恵那
狼神様の仮面を手にした九君が、驚いた表情のままの私に歩み寄って来る。
「恵那。怪我をしたのは俺と湊だけだ。今なら無かったことにしてやる。だから教えてくれ。何でこんなことをしたのかを」
九君の言葉が、心の中で沸々としていた怒りに再び火を着けた。
「…………変わってない」
「当たり前だろ。俺も美波も、恵那も変わってなんか……」
「違う!」
私は今、どんな顔で九君を見ているのだろう。きっと周りからは、獣のような姿に見えていることだろう。私は人の皮を被った獣だ。
「九君も美波ちゃんも変わった! あの日味わった屈辱は、私の心から消えることはない! だから二人を……この村に呼んだんだ」
私はこれ以上ない力で拳を握った。
Side: 九
『あの日味わった屈辱』という言葉に、俺は思い当たる事が無かった。何かをした側は気にも留めないようなことでも、された側というのは忘れることはない。だからきっと、俺と美波は恵那の心を傷つけるようなことをしてしまったのだろう。
「すまない。恵那。こんなことをさせてしまって本当にごめん」
「…………違う! やっぱり何も分かってないじゃない! 私が謝って欲しいのは……認めて欲しいのは……そんなことじゃない!」
恵那の感情がどんどん昂っていく。どうにかして落ち着かせたかったが、大事な部分に辿り着けないこの状況では、事態を打開する術はないだろう。今はただ、美波が来るのを待つしかない。
ザッ──
それは一瞬だったが、確かに靴が砂を擦る音だった。砂埃という形になった音を俺の目は捉えた。
「恵那。お前が言った『認めて欲しい』ってどういうことだ?」
「認めて欲しい……そのままよ。何も思い出さないのね。時間は解決してくれないわ。だから私はこうなったのよ! 獣の心を持った人間にね!」
言い終わるや否や、恵那は自身の後方に広がる茂みの中へと駆け出した。
「恵那! っ痛!」
俺より早く恵那を追おうと飛び出した湊だったが、挫いた足を押さえて倒れた。
「待ってろ湊。恵那は必ず俺が連れて帰って来る」
「頼む九! あの先は崖になってるから早く!」
痛みからなのか、恵那がどうにかなってしまうことへの恐怖からなのか、湊は瞳を潤ませながら俺の背中を押した。
Side: 美波
私はここちゃんに言われ、ひとり探し物をしていた。気乗りはしないが、大事なことが分かるかもしれないと言われ、恵那ちゃんの部屋にいる。
「あった。それにしてもここちゃん。何で今さらこれを…………えっ!?」




